果物屋さんならではの視点で厳選

三鷹駅から歩くこと約16分。『果実店canvas 吉祥寺』は、旧五日市街道と扶桑通りが交差する場所の一角で営業を行っている。1階正面は出入口の扉を含め一面ガラス張りになっており、通りからも店内の様子がうかがい知れる。

店に入り、まず目に留まるのがショーケースに整然と並んだ果物とフルーツサンドの数々。ブドウや柿など旬のものを中心にセレクトされており、きらびやかな断面が美しいサンドイッチも同様の果物を使ったラインナップが揃う。

店主の佐藤圭太さんは「果物が持つ本来の味わいを知ってもらいたい」と、2019年に代々木上原で『果実店canvas』をオープン。その想いをもっと多くの人に伝えたいと、今年この場所に2号店を開いた。「駅前に1軒はあった果物屋さんの数が徐々に少なくなってきているなかで、よりおいしい果物を食べてもらいたいという考え方を持って広めていけたらと、2号店の出店を決めました」。

果物屋さんでカギとなるのが等級だ。果物の等級は、一般的に形や色付き、重さ、糖度、産地などを総合して決められる。高い等級のものは果物屋さんで取り扱われることが多く、さらに店頭ではそれぞれの等級を明示して販売が行われる。「世間ではあまり知られていない果物屋さんの仕事や役割についても、この店を通して伝えていきたい」と佐藤さんは話す。

もちろん、この店でも販売している果物すべてに等級を表示しているのだが、佐藤さんは等級だけを頼りに仕入れる果物を選んでいるわけではないという。「たとえ等級が高くても、産地によって前日やその年全体の天候状態が影響して、味が変わってしまうことがあるんです」。日々市場に通うことで培った目利きに必要な知恵と情報。それらを駆使して厳選された果物は、単体で販売されているほか、サンドイッチやイートイン限定のデザートに使用して提供されている。

この場所でしか味わえないものを届けたい

イートイン限定のデザートは、季節のフルーツを使ったパフェやパンケーキが揃う。果物それぞれが持つ色や、酸味・甘味といった味わいを活かして考案されるデザートは、味にも見た目にもこだわりが凝縮されている。組み合わせる食材についても既成概念に縛られず、新しい発想を取り入れながら、果物だけを食べるのとは違う新たなおいしさを追求しているのだそう。

長野県産クイーンルージュのドレスパフェ2600円、キャラメルバナナバニラ800円。※メニューは2022年10月20日時点のもの。
長野県産クイーンルージュのドレスパフェ2600円、キャラメルバナナバニラ800円。※メニューは2022年10月20日時点のもの。

デザートは、2つの店でラインナップが異なるのも特徴的。質の高い果物を数多く仕入れることができないという理由から、それぞれの店で扱う果物の産地や品種などを変えてメニューが構成されている。お客さんの中には、食べ比べに両方の店へ足を運ぶ人もいるだろう。

お店の内装を異なるデザインにしているのも、そういったことを考えてのことだったのか。「どちらの店も同じような雰囲気だとおもしろさがないので、それぞれの建物の造りを活かした内装を意識しました」と佐藤さんは答える。

内装のアクセントになっているケヤキの木。
内装のアクセントになっているケヤキの木。

吉祥寺の店は、1階と2階で雰囲気が異なるのも魅力。1階は白を基調とし、窓枠を大きくとった内装になっている。出入口そばに立つ、天井まで届くほど大きなケヤキの木も印象的だ。「日が暮れた頃に、扶桑通り沿いからこの店を見ていただくと、窓に映る店内の様子が1つの絵画のように見えるんです」。大きな窓を1枚のキャンバス(canvas)に見立てた内装デザインは、訪れるお客さんもその“絵”の一部になるという仕掛けだ。

キャンバスに見立てた大きな窓。
キャンバスに見立てた大きな窓。

2階は木の温かみを活かした客席エリアとレトロな雰囲気の個室、そしてモルタルのギャラリーと、3つの空間に区切られているのもユニーク。「その場所その場所で楽しんでもらえたら」と佐藤さん。

2階のギャラリーでは、カフェで使用しているのと同じデザインの器などを販売。
2階のギャラリーでは、カフェで使用しているのと同じデザインの器などを販売。

これまで当たり前にあった果物屋さんという存在の価値を、新たな手法やアイデアで後世に伝えようと取り組む『果実店canvas』。最高品質の果物を贅沢に使った、ここでしか食べられないデザートとともに、果物本来のおいしさを再発見してみてはいかがだろうか?

『果実店canvas 吉祥寺』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町4-1-1/営業時間:12:00~17:00LO/定休日:水/アクセス:JR中央線三鷹駅から徒歩16分、JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩22分

取材・文・撮影=柿崎真英