不動産会社が仕掛けるコミュニティカフェ
渋谷、代官山、恵比寿のちょうど中心ぐらいに位置する『REISM STAND』は、商業地区と住宅街の間にあるカフェだ。
店頭はコーヒースタンドになっていて、散歩ついでにふらりとコーヒーを買うことができ、店内には電源コンセントを装備したカウンター。古着やマグカップなどを販売するスペースや、自然光がたっぷり入るテーブル席でゆったりと食事も楽しめる。いつも駅近のカフェを求めてゾンビみたいに彷徨い歩いているから、今度からここへ直行したほうがいいなあ。
なーんて考えていたら、カフェを運営するリズム株式会社の中山咲さんと店長の中村光宏さんが出迎えてくれた。
「リズムは実は不動産会社なんですけど、リアルなコミュニティを築く場として、そしてリズムが強みとするリノベーション空間を感じることができる場として2017年にオープンしました。部屋の賃貸、投資用マンションの販売もしているのですが、『お部屋やお家を提供して仕事は終わり、というのはちょっと違うよね』っていうのが会社としての考えでして。住んだ後の生活までフォローできるようにしたいという想いがありました」と中山さん。
そこで、オーナーさんや入居者さんと、食事やお茶を楽しみながらコミュニケーションをとれるような場を作りたいという発想に至り、カフェをオープンすることになったのだそう。
中山さんはカフェの企画や施策を取りまとめ、中村さんは店の運営・営業を担当している。中村さんは、2018年からアルバイトとして入店した最も古いスタッフだ。
「当初は別の仕事もしていたんです。たまたまリズムの本社に知人がいてアルバイトに入る前から手伝ってたんですけど、紆余曲折あり店長をやることになったんです(笑)。それで、このカフェのコンセプトを決めるときに、東京にいる人のほとんどは地方出身者だというキーワードがありました」。
地方出身者にとって、東京は冷たいところなんじゃないかという不安が付きまとう。
「東京に住んでいても地元とか、お母さんのご飯とか思い出せたらいいなと思って。ここへフラリと来てランチだけでも健康的なごはんを食べられたらいいですよね」と中村さん。なんとなく人恋しいコト、確かにあります。ここは夜は静かだし、引っ越してきたくなっちゃうなー。
素朴だけど丁寧に作られたお母さんのごはんみたいな健康的なメニュー
人気のランチは5つのメイン料理が選べて各1000円。スープ3種、カレー、唐揚げのメインからひとつ選ぶことができ、ごはんと小鉢が2種、デザート、ドリンクが付いてくるという。ホントにココは渋谷なの⁉ と疑いたくなるコスパの良さにびっくり。
「オープンからずっとエディブルスープ、つまり食べるスープをうたっています。スープがメインなので、ごはんがおかずくらいの感覚で、具がゴロゴロ入っているのが特徴なんです。どれもありふれた家庭料理なんですけど、それがお客さんにも『落ち着く〜』と思っていただけるようです。メニューは週替わりなので毎日来てくれる人もいますね」。
筆者はちょっと疲れ気味なので豚ミンパワーを入れたい! というわけでメインにREISM豚汁をチョイス。「大きな鍋で仕込むので、一人暮らしでは出せないおいしさがあると思いますよ」と中村さん。
ショウガが香る少し甘めの味噌スープで煮込まれた里芋はトロンとしていて、一切れで口いっぱいになる大きさのニンジンのほか、トロトロの脂身もおいしい豚バラ肉、味の下支えをするクタクタに煮込まれたしいたけや玉ねぎ。おいしいスープをたっぷり含んだ油揚げがこれまたウマ〜ッ!
「お客さんに『隠し味は何なの?』って聞かれることもあるんですけど、隠すほどのことをやってないんです(笑)。ただ、ひとつずつ丁寧に、それだけなんですよ」と中村さん。
住み心地のいい環境づくりに必要なコミュニケーションとリノベーション
食後にまったりとコーヒーを飲んでいたら、古着が売られているのが目に入った。入り口にはジーンズをリメイクしたバッグも置いてある。これも中山さんが冒頭で言っていた「住んだ後の生活のフォロー」の一環なのだろうか。
中山さんは「そうですね。衣食住を豊かにする不動産屋を目指しているので、すべてのサービスにこだわりを持って提供しています。“衣”を担うサービスとして、弊社ではECサイトの部署があって、古着やマグカップなどの雑貨を販売しています。古着やヴィンテージリメイク商品を展開するブランド『REISM CLOTHES』では、“再生主義”を掲げるREISMらしく、古着をアップサイクルしたオリジナル商品も手掛けており、店舗でも販売をしています」と語る。
ここへくれば衣食住がまかなえるようになる、いわば第2のリビングルーム。毎日、時間に追われて生活している私たちは、仕事や損得抜きで付き合えるリアルなコミュニティを求めている。フラリと立ち寄ったらいつもの仲間がいる安心感。会話を交わさなかったとしても心が休まる充実感。そんなコミュニティカフェなのだ。
「常連さんが割合としては多いので、ほぼ毎日のようにいる側としては、今となってはもう『いらっしゃいませ』っていうより、『あ、どうもこんにちは!』なんですよ(笑)」と中村さん。
やって来るお客さんは近所に住む人たちや、近隣で働く人、学生など年齢も幅広い。店に入って「ただいま〜!」って言っても、きっと中村さんは「おかえり」と笑顔で迎えてくれるに違いない。お腹だけでなく、胸もいっぱいになるカフェだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢