「三たて」を守るということ
「三たて」とは、「碾きたて」「打ちたて」「ゆでたて」のこと。おいしいそばのための必須条件だ。手打ちそばの店ならば「打ちたて」と「ゆでたて」はクリアできるが、問題は「碾きたて」だ。自家製粉の道具がなければ、「碾きたて」のそば粉を使うことは難しい。
その点、石臼で自家製粉するこの店では、毎日そばを碾いて打つため、「三たて」を実現できる。
さらに、そばの保管方法にも気を使っているという。玄そばという殻のついた状態のそばの実を、18℃の低温倉庫で保存し、極力劣化を防ぎ、使う分だけ碾きたてで使う。新鮮な粉を使えるメリットは大きい。
「この手間が、そば本来の味や香りを強く引き出すことになるんです」4代目店主の小張さんはそう話す。
4代目が見直したもりそばのつゆ
25年ほど前に4代目を継いだ小張さん。小張さんの代で大きく変更されたのは、もりそばのつゆだ。
それまで、かけそばともりそばは、同じつゆを使っていた。本節や鯖節、宗田節などを混ぜて作ったつゆは、甘みとコクが十分。かけそばのつゆはこのままでいいが、もりそばのつゆは、もっとさっぱりとしていて雑のないものにしたい。そう思い、本節だけを使うつゆに変更したという。
粉の碾き方も、つなぎの割合も、打ち方も。こだわりのそばをいただく
今回は、とくに評判の高い天せいろをいただいた。その日の天気によってもつなぎの割合を変え、丁寧に手打ちされたそばは、香りがとても強い。そば粉を荒碾きにしているのも理由の一つだろう。きりっと冷えたコシの強いそばに、雑味のない辛めのつゆがよく合う。喉ごしもよく、歯ごたえも十分だ。
そばの合間に、海老の天ぷらをひと口。大ぶりの車海老はプリプリで、切ってあるためとても食べやすい。小さなことだが、ここにも気遣いが感じられる。
しゃきっとしたそばに対して、そばがきはもっちりした歯ごたえ。同じそば粉を使っていても、まったく違う味わいだ。もりのつゆに大根おろしと醤油少々を入れたタレが、そばがきによく絡み、ひと口ごとにそば粉の甘みを感じる。見た目よりもボリュームがたっぷりなのがうれしい。
旬の捉え方に、老舗の風格
敷地内の和風庭園や盆栽など、店内にいるだけで四季を感じる。旬を大切にする心遣いが老舗ならではだ。
「明日はもっと、おいしいそばを提供したい」と小張さんは話す。
現在にとどまることなく、さらなる高みを目指す。そんな風格が十分に感じられる名店だ。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ