濃厚豚骨魚介のWスープの先駆け!

外観。おしゃれなたたずまいだ。
外観。おしゃれなたたずまいだ。

数多の店がしのぎを削る濃厚豚骨魚介ジャンルにおいて『渡なべ』はその先駆けといえる存在だ。もともと「豚骨ラーメンに魚介を入れたWスープ」はあったが、水出しの魚介スープが使われることが多く、必然的に濃度が落ちてしまうのが難点だった。

そこで『渡なべ』では濃厚な豚骨スープに、魚介をそのまま入れて炊き上げる方法を採用した。

「スープに魚介を突っ込んで、濃いままで魚介の味も混ぜて、両方喧嘩させる。味を薄めることなく豚骨と魚介の味を両立させる方法を編み出し、濃い味を作り上げました」と現場責任者の清田亮平(きよたりょうへい)さんは話す。

具材が見えなくなるほど濃厚なスープ。
具材が見えなくなるほど濃厚なスープ。

出汁を取る魚には、特に燻(いぶ)しが強く出るサバやカツオを使用しており、より香りが強い仕上がりだ。器の淵に、ざらりとかつお節が残るほど濃いスープを口に運ぶと、始めは魚介の味がガツンと強く感じられ、燻した香ばしさが鼻に抜ける。そしてかつお節の食感が残りつつも、徐々に豚骨の風味が増していく。確かに、豚骨と魚介の味が両立された深みのあるスープだ。

この調理法を考えたのは、社長の渡辺樹庵(じゅあん)さん。今までに1万杯以上のラーメンを食べ歩いた、大のラーメンフリークだそうだ。結果的に原価がものすごくかかることになったが、「材料にお金をかけて、おいしいものを広げたい思いがあって、この作り方が生まれた」という。そしてこの作り方自体も、今は一つのジャンルにまで発展したそうだ。

スープが主役のラーメンを引き立たせる自家製麺

中細のストレート麺はスープがよく絡み、スープをしっかりと味わえる。
中細のストレート麺はスープがよく絡み、スープをしっかりと味わえる。

「ラーメンはスープ料理。ですので、スープに主体をおきたいと考えて作ってます」と清田さんは語る。そんな主役のスープに合わせる麺は自家製。数種類の粉ををブレンドして、スープに合うように仕上げた。最終的にはスープが良く絡む中細のストレートの麺になったそう。

麺の上にのっている具材も、ひとつひとつキャラが立っている。特徴的なのはメンマで、「大きいメンマが代名詞」とのこと。大きさだけでなく、味も一ひねりあり。チャーシューを煮たタレを使って味を入れているため、醤油が煮詰まったような色をしており、濃い醤油の味だけでなく豚肉の旨味も感じられて主役級の存在感だ。歯ごたえがあるのもうれしいところ。

チャーシューは少し厚めに切られていて、きれいなピンク色の断面がつやつやと輝いている。しっとり系で、トロトロとした脂身に、じっくりと煮られた濃いタレの味つけがマッチしていてたまらない。

「ラーメンが好き!」が仕事につながっている

2002年に創業し、2024年で22年目になる『渡なべ』。レギュラーメニューは当時から変わっていない。 ベーシックな味を守り続けている一方で、最近注力しているのは限定メニューだ。

提供しているのは、らーめんとつけめん、期間限定メニューの3種類のみ(トッピングが追加されたメニューはあり)。限定メニューは1日1種類、それを1~2週間くらいの目安で切り替えていて、年間を通して何十種類というラーメンが登場する。取材日の限定メニューはすっごいよ豚骨1100円だった。

らーめん、つけめんはそれぞれ「味玉らーめん」「ちゃーしゅーらーめん」「味玉ちゃーしゅーらーめん」などトッピング追加も選べる。
らーめん、つけめんはそれぞれ「味玉らーめん」「ちゃーしゅーらーめん」「味玉ちゃーしゅーらーめん」などトッピング追加も選べる。

限定メニューでは、さまざまな地方のラーメンの味や、閉店してしまったお店の味を再現している。地方に行かなくても東京でいろいろなラーメンを食べられる、というのがコンセプトだ。

「作り手としては、おいしいものを食べてもらいたいという思いがあります。 レギュラーメニューのらーめんの味を作ったのが20年前なんですけど、もっと新しい味を世の中に発信させて、驚かせたい。再現メニューを作るのも、『楽しんでもらいたい』っていうのが社長の芯にあるからです」

「ただのラーメン好きが仕事につながっています」と笑って話す清田さん。『渡なべ』は、お店をつくる人たちのそんな思いとともに、変わらぬ定番の味、驚きのある限定メニューで、これからも店を訪れる人たちを満たしてくれるだろう。

店看板。店名がほんのりと光る。
店看板。店名がほんのりと光る。

取材・文・撮影=千乃あいみ