店は見違えるほどきれいに
『立喰そばよりみち』の最寄り駅は、東急目黒線の大岡山駅。とはいえ、駅からは歩いて10分ちょいと、少し離れている。商店街を抜けた環七との交差点にある、いわゆるロードサイド店だ。
改装された店は、見違えるほどきれいになった。店名が建物の上部に書かれているのは、遠くからも見やすいように。
実は店舗の前には葉の茂る大木の植え込みがあり、環七を走る車からは、店舗が見えにくいのだ。私も何度、気づかずに通り過ぎたことか……。
リニューアル前は風情ある店舗の見た目や、まるで親戚の家に来たかのような店内のざっくばらんさ、さらに「べらんめえ」なお店のおとうさん、高瀬米次郎さんのキャラもあり、テレビのロケやYouTubeで取り上げられることも多かった。
某有名歌手が通っている、という話が拍車をかけていたところもあったようだ。しかし、さすがに建物の老朽化が著しく、2023年の6月にいったん店を閉め、リニューアルして24年の3月に再オープンしたのだ。
店舗は新しく変わったが、そばは変わらずのうまさだった。
色は濃くともバランスの良いツユは、カツオなどの節とかえしのうまみがしっかりと絡まり、奥深い味わい。ごわっとした『むらめん』の茹で麺に負けない力強さもある。
天ぷらも軽すぎず重すぎず。ツユのなじみもよく、具材もしっかり入っている。要するに、立ち食いそばとして、バランスよくまとまっているのだ。
リニューアル後の変化は?
もともとこの場所に『立喰そばよりみち』ができたのは、1988年のこと。米次郎さんと、息子の成友(なるとも)さんで始めた。そのとき米次郎さんの妻は、神楽坂で飲食店を営んでいたのだが、その店を閉めたので、同じ場所で米次郎さんが「米次郎」という店名で立ち食いそば店を始めた。
大岡山では成友さんがひとりで切り盛り。店の味を守っていた。
その後、米次郎さんは神楽坂「米次郎」を閉め、『立喰そばよりみち』に復帰。それが2008年ぐらいのこと。そのときに神楽坂で使っていた「米次郎」の電飾看板を「もったいないから」と店前に置いたため、大岡山の、この立ち食いそば店が「米次郎」だと多くの客に思われていたという、ほほえましいエピソードもあった。
そんないろいろがあり、開店から36年目にしてのリニューアル。現在、高齢もあって米次郎さんは店に立っていないが、リニューアルオープン後はかなりの大盛況だったようだ。
店は変われど、変わらずおいしい『よりみち』のそば。待ちかねた常連が押し寄せたのかと思いきや、新しい人もかなり多かったそうだ。
転入者が多い土地柄。近隣の方が多く訪れる
成友さんが言うには、動画の影響や、リニューアルを拡散してくれた知り合いのおかげ、さらに周辺地域の変化もあるかもとのこと。
環七沿いにあるためドライバー客は今も多いのだが、それに加え、近隣住民の客が増えているようなのだ。
『よりみち』は車通りの多い環七沿いにあるが、店から駅までのエリアは住宅地になっている。武蔵小山や自由が丘が近いこともあり、転入してくる住民も多い。
「なんだかネットで見たことのある、近くの立ち食いそば屋がリニューアルしたらしい。ちょっと食べに行ってみよう」。ということなのではないだろうか。
ちなみに、店舗前にある植え込みの木が切られ、整備されるらしい(ここは国の持ち物)。真夏には涼を呼ぶ木陰となっていたので惜しいのだが、店の場所は分かりやすくなるかもしれない。
長く愛されてきた『よりみち』は、リニューアルをきっかけに、さらなる人気店になりそうだ。
取材・撮影・文=本橋隆司