「とにかく最高にいい音でジャズ・レコードを聴きたい!」という欲求に応えたのは、ホーンシステム設計社のYL音響。床下に7mの巨大なコンクリートホーンを埋込み、音の周波数を5WAYにして低音域から高音域まで響かせる「オールホーンシステム」を実現した。土蔵造りの店は倉敷の建築家・大角雄三氏によるもので、店自体は地元の長谷川建装が施工。小澤さん含めスタッフ7名が予算節減をサポートした。
「いい音の追究は、結局建物自体を造ることから始まるので、多くの友人の協力もあって完成しました。みんなの善意と愛情で生まれた音空間です。」と主人の輝く笑顔。石材店で花崗岩を調達し、石垣の土台造りをした頃を懐かしむ。地底から唸るように響く重低音と、研ぎ澄まされた繊細な高音。そして暖かく、ふくよかな中音域が立体感のある音空間を実現する。
響きの良い、ゆったりとした土蔵造りの店では、もちろんライブもたびたび開催。海外からも出演希望が絶えないという、至福のジャズ喫茶である。
【店主が選ぶ一枚】Lee Morgan “here's LEE MORGAN”
歌心あふれる、どこか哀愁を漂わせるミュージシャン
小澤さんがジャズを聴き始めたのは、中学生の頃。毎週日曜日の朝、ラジオ放送の「キューピー・バックグラウンド・ミュージック」を聴いてはジャズをはじめ洋楽に親しみ、すっかり音楽のとりこになる。選んでくれたこの一枚は、モダン・ジャズのトランペッター、リー・モーガンの『ヒアズ/リー・モーガン』(1960)だ。そのほかジミー・スミスやビリー・ホリデイなどを好む。いずれも歌心あふれ、独特の哀愁が漂うミュージシャンの面々だ。
取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より