MASTER'S VOICE
新しい傾向を常に探しています
真っ白な壁にビル・エヴァンスとフィ リー・ジョー・ジョンズがサインしてから30年。この壁は、もはや松本の重要文化財に指定されてもおかしくない。

ビル・エヴァンスとフィリー・ジョー・ジョンズにはじまり、マックス・ローチ、アーチー・シェップ、チコ・フリーマン、ズート・シムズ、アル・コーン、ミシェル・ポルタル、ヨアヒム・キューン、チック・コリアと、きら星のごとき名が、木訥とした語り口から飛び出てくる。

列島のほぼ真ん中に位置する、名峰に抱かれた城下町の人々が浴していた贅沢な音楽環境に、思わず嫉妬せずにはいられない。

招聘したミュージシャンの話に微笑むマスターの小林さん。
ジャズにどっぷりと浸れる、贅沢な空間。このコーナーはおしゃべり禁止。

中学3年でエリック・ドルフィーに目覚めたという小林さんのジャズ愛の熱量は、かくして近隣に住む人々に還元された。公演後ミュージシャンたちが店に寄り、階段入り口の壁に記した夥おびただしいサインも、その熱量に応答しているかのようだ。

スピーカー前のコーナーはおしゃべり禁止。大音量でも聴き疲れしない高音質なオーディオで、洗練の音のシャワーに、何時間でも浴したい。

【店主が選ぶ一枚】Frederik Kronkvist “Ignition”

北欧や東欧の活きのいいグルーヴを

「最近多いのは北欧のもの。新しい“傾向”を常に探しています」と、オススメの一枚は、スウェーデンの若きアルト奏者、フレデリック・クロンクヴィストの『Ignition』(2007)。バップ隆盛の時代から遥か隔たった現代に、水を得た魚の活きのよさで真性ストレート・アヘッドなサウンドを聴かせてくれる。E.S.T.、ECM、ACTレーベルや、マスター曰く「最近元気がいい東欧のジャズ」もよくかかる。最先端の音や、心地いい高速グルーブを堪能したい。

取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より

住所:長野県松本市大手4-9-7/営業時間:16:00~24:00/定休日:水/アクセス:JR中央本線・篠ノ井線松本駅から徒歩13分
鹿児島県の西部、東シナ海の大海原に面した串木野で1976年に創業。電子工学専攻の大学時代、アンプへの興味からジャズに惹かれていったという店主の須納瀬(すのせ)和久さん。
カーレースで有名な鈴鹿で創業40余年となる老舗。樹齢800年といわれる地蔵松が背後にある見事な土蔵造りの館は、その音響の良さで全国にも知られる。古民家風の白い漆喰壁に、米松梁の吹抜け高天井。中央には2m×1mの大きなコンクリートホーンの開口部が堂々と構える。主人はバイタリティ溢れる小澤幸子さんだ。