祖父の代に建てた築50年の貸倉庫をリノベーション

『fukadaso cafe』は築50年ほどの古い貸倉庫「深田荘」をリノベーションしたカフェ。この建物を一目見たいと、多くのお客さんが訪れる。

もとの建物の土台を活かしたリノベーション。2014年のオープン以来、すぐに繁盛店に。
もとの建物の土台を活かしたリノベーション。2014年のオープン以来、すぐに繁盛店に。

リノベ―ションの以前は、1階は近くの工務店が物置として、2階は風呂なしの古いアパートとして使われていた。しかし老朽化が進み、建物の管理も難しくなっていたタイミングで、東日本大震災が発生。外壁がはがれ落ちるなどの損壊が生じ、人は住めなくなった。

いよいよボロボロになってしまった「深田荘」を兄とともに引き継いだのは、現在の『fukadaso cafe』の店主である佐藤奈美さん。解体してしまおうか、どうしようか、何かいい方法はないかと探るなかで、リノベーションをして生まれ変わらせようという結論に至った。

さっぱりとした人柄の佐藤さん。地元出身のスター・寺島進さんは、中学の先輩にあたる。
さっぱりとした人柄の佐藤さん。地元出身のスター・寺島進さんは、中学の先輩にあたる。

「このあたりはもともとお寺ばっかりで、高齢者も多い下町です。そういう場所に溶け込むには、最新のものよりも、古いものを活かすほうが街に合うんじゃないかなと思って、リノベーションすることにしたんです」

1階はお店が入るのがいいだろうと話を進めるも、なかなかまとまらず、最終的に佐藤さん自身がカフェを開業することとなった。できるだけ手を加えずに、そのままのよさを活かすデザインが得意な工務店『ゆくい堂』へ依頼し、「深田荘」の貸倉庫は『fukadaso cafe』へと生まれ変わる。

101号室が『fukadaso cafe』。お隣102号室はメゾネットタイプで、理化学ガラスを使ったインテリアショップが入居。2階にはシューズのセレクトショップ、自然派ワインの販売店、手仕事のアパレルを中心とした雑貨店や鍼灸サロンが並ぶ。清澄白河らしい個性的な面々。
101号室が『fukadaso cafe』。お隣102号室はメゾネットタイプで、理化学ガラスを使ったインテリアショップが入居。2階にはシューズのセレクトショップ、自然派ワインの販売店、手仕事のアパレルを中心とした雑貨店や鍼灸サロンが並ぶ。清澄白河らしい個性的な面々。
『fukadaso cafe』の入り口はこちら。
『fukadaso cafe』の入り口はこちら。

古い魅力を存分に活かした、ゆとりのあるカフェ

『fukadaso cafe』の中は、なんともレトロ! 時代を超えても“らしさ”は保ったまま。

清澄白河へカフェ巡りに来るお客さんは写真をたくさん撮っていくそう。
清澄白河へカフェ巡りに来るお客さんは写真をたくさん撮っていくそう。
どこを切り取っても映える。
どこを切り取っても映える。

もともと中にあった仕切りの壁を取り払い、ひとつの空間にチェンジ。その広さを存分に享受できるよう、テーブルがゆったりと配置されているのも心地よい。

屋根付きのテラス席。
屋根付きのテラス席。
天井にも注目。
天井にも注目。

できるだけもとの建物を活かすため、リノベーションは耐震補強をメインに施された。鉄骨梁で支えられている茶色い天井は当時のまま。

ひとつひとつ趣が違うヴィンテージの家具。どの席に座るか迷ってしまう。
ひとつひとつ趣が違うヴィンテージの家具。どの席に座るか迷ってしまう。

固めのプリンが大ブレイク! パンケーキも好評

『fukadaso cafe』でナンバーワンの人気を誇るメニューは、昭和系の固めプリン。もっちりと親しみやすい台形が、心を休めてくれる。

プリン400円。生クリームとサクランボ付き。
プリン400円。生クリームとサクランボ付き。

「昔ながらの喫茶店で出すような固めのプリンです。卵の味が活きるよう、シンプルな作り方で仕上げています」

カラメルソースは佐藤さんの好きなほろ苦タイプ。かわいらしい見た目もあって、一躍看板メニューに躍り出た。「あまりに売れるので、隙を見ては常に仕込んでいます」と佐藤さん。それでも土日は売り切れてしまうので、平日がねらい目だ。

クリームソーダ580円と一緒に注文するお客さんが多い。
クリームソーダ580円と一緒に注文するお客さんが多い。

プリンと同じくらいよく売れるというパンケーキも気になるところ。チョコバナナ、ブルーベリー、抹茶、キャラメルグラノーラの4つの味がそろう。(各900円)

キャラメルグラノーラがパンケーキの中で一番売れるそう。ブレンドコーヒー480円と一緒に。
キャラメルグラノーラがパンケーキの中で一番売れるそう。ブレンドコーヒー480円と一緒に。

パンケーキはプリンと同様、素朴な味わい。キャメルソースと濃厚なアイスクリーム、さっぱりとした生クリームと一緒に食べれば満足必至。サクサクとしたグラノーラがアクセントになって、最後まで飽きることなくペロリ。

「こだわりすぎないのがこだわりなんです」と笑う佐藤さん。余計な手を加えすぎず、もとの素材のよさを最大限に活かすのはこの建物と同じ。

新旧の住民が入り混じる下町のカフェだからこそ

壁を取り払い、広い空間にしたのは理由がある。カフェを営みつつ、訪れる人たちが交流できる場として活用するためだ。野菜を売るマルシェや地元作家の作品を売るマーケット、ヨガ教室やフラワーアレンジメントのレッスンなど、これまで数々の企画が実現した。

オープン以来、元気に育っているシルクジャスミンの木。
オープン以来、元気に育っているシルクジャスミンの木。

古くから住む人と、新しく来てくれた人の会話が生まれ、結びつきの輪が広がるように。『fukadaso cafe』には、この地をずっと見てきた佐藤さんの思いがこもっている。

構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子