祖父の代に建てた築50年の貸倉庫をリノベーション
『fukadaso cafe』は築50年ほどの古い貸倉庫「深田荘」をリノベーションしたカフェ。この建物を一目見たいと、多くのお客さんが訪れる。
リノベ―ションの以前は、1階は近くの工務店が物置として、2階は風呂なしの古いアパートとして使われていた。しかし老朽化が進み、建物の管理も難しくなっていたタイミングで、東日本大震災が発生。外壁がはがれ落ちるなどの損壊が生じ、人は住めなくなった。
いよいよボロボロになってしまった「深田荘」を兄とともに引き継いだのは、現在の『fukadaso cafe』の店主である佐藤奈美さん。解体してしまおうか、どうしようか、何かいい方法はないかと探るなかで、リノベーションをして生まれ変わらせようという結論に至った。
「このあたりはもともとお寺ばっかりで、高齢者も多い下町です。そういう場所に溶け込むには、最新のものよりも、古いものを活かすほうが街に合うんじゃないかなと思って、リノベーションすることにしたんです」
1階はお店が入るのがいいだろうと話を進めるも、なかなかまとまらず、最終的に佐藤さん自身がカフェを開業することとなった。できるだけ手を加えずに、そのままのよさを活かすデザインが得意な工務店『ゆくい堂』へ依頼し、「深田荘」の貸倉庫は『fukadaso cafe』へと生まれ変わる。
古い魅力を存分に活かした、ゆとりのあるカフェ
『fukadaso cafe』の中は、なんともレトロ! 時代を超えても“らしさ”は保ったまま。
もともと中にあった仕切りの壁を取り払い、ひとつの空間にチェンジ。その広さを存分に享受できるよう、テーブルがゆったりと配置されているのも心地よい。
できるだけもとの建物を活かすため、リノベーションは耐震補強をメインに施された。鉄骨梁で支えられている茶色い天井は当時のまま。
固めのプリンが大ブレイク! パンケーキも好評
『fukadaso cafe』でナンバーワンの人気を誇るメニューは、昭和系の固めプリン。もっちりと親しみやすい台形が、心を休めてくれる。
「昔ながらの喫茶店で出すような固めのプリンです。卵の味が活きるよう、シンプルな作り方で仕上げています」
カラメルソースは佐藤さんの好きなほろ苦タイプ。かわいらしい見た目もあって、一躍看板メニューに躍り出た。「あまりに売れるので、隙を見ては常に仕込んでいます」と佐藤さん。それでも土日は売り切れてしまうので、平日がねらい目だ。
プリンと同じくらいよく売れるというパンケーキも気になるところ。チョコバナナ、ブルーベリー、抹茶、キャラメルグラノーラの4つの味がそろう。(各900円)
パンケーキはプリンと同様、素朴な味わい。キャメルソースと濃厚なアイスクリーム、さっぱりとした生クリームと一緒に食べれば満足必至。サクサクとしたグラノーラがアクセントになって、最後まで飽きることなくペロリ。
「こだわりすぎないのがこだわりなんです」と笑う佐藤さん。余計な手を加えすぎず、もとの素材のよさを最大限に活かすのはこの建物と同じ。
新旧の住民が入り混じる下町のカフェだからこそ
壁を取り払い、広い空間にしたのは理由がある。カフェを営みつつ、訪れる人たちが交流できる場として活用するためだ。野菜を売るマルシェや地元作家の作品を売るマーケット、ヨガ教室やフラワーアレンジメントのレッスンなど、これまで数々の企画が実現した。
古くから住む人と、新しく来てくれた人の会話が生まれ、結びつきの輪が広がるように。『fukadaso cafe』には、この地をずっと見てきた佐藤さんの思いがこもっている。
構成=フリート 取材・文・撮影=宇野美香子