駅から10分超の住宅街に突如現れるマーケット
取材に訪れたのは2月の開催日。『路地裏ガレージマーケット』会場の最寄り駅は埼京線の与野本町駅で、駅西口から13分ほど歩く。マルシェやマーケットの会場は駅近くの広場や公園などが一般的なので、なかなか驚きの立地だ。
住宅地を抜けて進むと……あった! ここが『路地裏ガレージマーケット』の会場だ。当日は雨で、マーケットの開始から1時間ほど経った12時頃の到着だったが、すでに人でいっぱいの状態だった。
『路地裏ガレージマーケット』の会場は2階建て。飲食や物販の出店者は屋外・屋内のスペースがある1階に並んでいる。そしてハンドメイド感のある木造の階段を上がると、2階はソファやテーブルが並ぶ空間で、親子連れのお客さんが食事や会話を楽しんでいた。
材木屋の実家を改装し、旅の仲間とマーケットを開始
DIY感の溢れる会場だが、それもそのはず。実はこの建物は、もともと主催者の横山拓さんの実家。家業は材木屋で、1階のスペースは材木置場だったそう。そして横山さんはマーケットの開始前、「移動販売のコーヒー屋とボランティアをしながら日本を一周していた」とのこと!
「もともと職人をしていましたが、親方と施主さんくらいしか接する人がいない仕事だったので、『自分の世界を広めたい』と思って飲食業をはじめました。移動販売とボランティアの旅に出たのは東日本大震災のとき。『外の世界に出るには今しかない』と思ったんです」
横山さんが実家の建物で『路地裏ガレージマーケット』を始めたのは2014年から。この建物に売却話が持ち上がったことがきっかけだった。
「自分でマーケットを開いたり、シェアハウスを経営したりと、小さな仕事を組み合わせることで、実家の空間を維持していこうと思いました。マーケットは旅で出会った仲間たちと『とりあえず1回やってみよう』と開催したら、けっこう人が集まって。『じゃあ2回目も』となり、それが半月に1回になり、毎週日曜の開催になり……と続いてきた形です」
都心のマーケットの雰囲気とヒッピーの文化が交わる空間?
『路地裏ガレージマーケット』の出店者は毎回10~15ほど。ラインナップは回ごとにガラリと変わり、ジャンルも飲食、野菜、雑貨、アート、マッサージ、音楽パフォーマンスなど多種多様だ。出店の条件は「こだわりの商いをしている人」で、新規出店者には可能な限り事前に会場に来てもらっているという。
この日は新座のベーグル・八百屋・雑貨の店『輪粉』など人気店も出店。このマーケットには出店者のファンも多く訪れるため、会場は住宅街だが、「お客さんはご近所の方よりも、車や電車で1時間圏内の地域から来てくれる方が多い」とのこと。
都心のマーケットに負けず劣らず魅力的な出店者が集う『路地裏ガレージマーケット』だが、「規模的にはこじんまりで、一体感が凄くある」(出店者談)というのは郊外の住宅街のマーケットならではの特徴。出店者とお客さんのやりとりを見ていても、買い物以上に会話を楽しんでいる雰囲気が伝わってきた。
そうやって運営者・出店者・お客さんのつながりを大事にする運営方針は、「自分が都内のマーケットに出店して学んだことも多いですし、旅先で出会ったヒッピー的な人たちのカルチャーの影響もあります」と横山さん。実はこのマーケット、出店料が2500円~4300円と格安だったりもするのだが、その料金設定も会場の空気感につながっていると感じた。
「都心のマーケットはいいお店も多い一方で、出店料も高めです。運営と出店者の関係がギスギスすることもありますし、利益増を狙って商品の質を落とす出店者も出てきます。一方でこの『路地裏ガレージマーケット』は、食べるものにこだわる人達や、小さな手仕事を大事にして生きている人達の影響も受けて始めたもの。出店者がこだわりを持って商いに取り組めない環境になったら、マーケットを開く意味もなくなります。なのでマーケットでは僕自身もコーヒーを売って売上を立てるなどして、出店料を抑える工夫をしていますね」
この日のマーケットは「手話」がテーマ
取材日のマーケットは、『路地裏手話マーケット~ちょこっと手話に出会ってみませんか?~』と題し、手話に携わる人やお店が多く出店。路地裏ガレージマーケットに4年半ほど出店してきたMegumiさんが呼びかけ人となり、知人同士の出店者も多く集ったため、会場は和気あいあいとした雰囲気になっていた。
会場に自然な形で手話が馴染んでいて、飲食店や物販店を目当てに訪れた人も、その文化に気軽に触れられたのが、この日のマーケットの面白さ。自身の絵本とハンドメイドの革小物を販売する五味ヒロミさんは、「今日は手話がテーマですが、こうした文化を地域に広める拠点になっているのも、『路地裏ガレージマーケット』の面白いところだと思います」と話していた。
この日の出店者の一つのリユースエスニックショップ『sipini』も手話文化に深い関わりを持つ店。代表の佐藤雪乃さんは、日本手話と日本語でのタイダイ(絞り染め)のワークショップを全国で開催中だ。お店やワークショップについて質問すると、「小さな手仕事」を大事にする『路地裏ガレージマーケット』のコンセプトにも重なる話をしてくれた。
「リユースのお店をはじめたのは、『倉庫やクローゼットに眠っていたものに光をあてましょう』という思いからでした。今はタイダイのワークショップが活動のメインになってきていますが、それは『安く買うのもいいけど、自分で作ってみたい』という人が増えているから。リユースでもワークショップでも、『自給につながる活動をしたい』という考えは常にありますね」(佐藤さん)
ガレージに入ることで旅の感覚を味わえる空間
このように、「こだわりの商い」や「小さな手仕事」をキーワードに運営される『路地裏ガレージマーケット』は、さいたま市の住宅地にありながら、地域を超えた人やカルチャーや人が集う空間となっている。2014年のマーケット始動時から運営スタッフの中心で、主宰の横山さんと旅仲間だった旅商人亮章さんも次のように話してくれた。
「ここには僕や拓(横山さん)が旅先で会った人達も全国から来てくれます。あと僕らは、今も色々な場所で移動式カフェの営業をしている。そこで出会った人達も、『路地裏ガレージマーケット』のお客さんになってくれます。このマーケットは、僕らが旅や商いで得た縁を持ち帰り、それをお客さんに広める場所でもあるんですよね。だからこのガレージに入ってきた人には、旅をしているような感覚を味わってもらえたら嬉しいです」
そんなカッコいいことを話していた亮章さんだったが、途中でカフェオレ用の牛乳を切らして買い物に出てしまい、「いやー、油断してましたね。基本的に志が低いんで」と笑っていた。「こだわりは強いのに雰囲気は極めてユルい」という点も、この『路地裏ガレージマーケット』の魅力かもしれない。
路地裏 Garage Market
さいたま市中央区(旧・与野市)の「長竹木材店」の倉庫を改装し、2014年11月にスタート。毎週日曜日の11:00~17:00に、飲食・野菜・雑貨・アート・クラフト・マッサージ・音楽など、県内外から様々なジャンルのこだわりの店舗と人々が集まり、賑やかに開催中。
なお新型コロナウィルスへの対策で、現在は営業時間等を変更。4月15日(水)からは店舗数を最大5店舗までとして、水木金土の各日に分散開催の予定(時間は11:00~17:00)。最新情報はホームページ(https://www.rojiuragarage-market.com/)でご確認を。
取材・文・撮影=古澤誠一郎