時間をかけて煮込まれたスープと選び抜いた食材で作る酸辣湯麺
ランチタイム、お店で良く注文されるのは、ラーメンやチャーハン。中でも人気が高いのが、酸辣湯麺だ。酢の酸味とラー油の辛さのバランスが最高の一品。スープを一口すすると、酸味が口に広がり、その後に辛味がやってくる。その酸っぱ辛い味を支えているのが、旨味が十分に出たスープである。
「こだわっているのはスープですね。スープは2日煮込み続けたものを使っています」
シンプルでいて、奥深い。じっくりと時間かけて作られたスープだからこそ、生まれる味だ。
また、具材がたくさん使われているのも特徴的だ。
「豚肉と鶏肉、椎茸、木耳などを具材として使っています。日本風に言うなら“酸味五目そば”といったところですね。その時々に仕入れた具材を追加して入れています」
食べ進めていくと、たくさん入った具材の食感が楽しい。
食材を探しに、地方へ。食への飽くなき探究心
酸辣湯麺に使われている具材は、日によって産地が変わることもあるという。
「毎週木曜日が定休日なんですが、その日にはいつも地方を飛び回っています。地方の産直市場などに行って、その土地のおいしいものを直接仕入れるんです。あまり問屋は使いません」
なんと『京華飯店』で使われている具材の多くは、諸永さんが直接地方で買ってきたもの。自分自身が納得のいく食材でお客さんに料理を提供したいのだという。
「酸辣湯麺に限らず、うちの料理は作り方では余計なことをしない。その代わり、素材にこだわっています。先週も甲府まで甲州和牛を買いに行きました。これからは沖縄にも行く予定ですよ」
諸永さんが貫いているのは、料理への飽くなき探究心だ。買い付けのとき、地元のレストランによく訪れるという諸永さん。その店の料理がどのように作られているのか、これを自分の店で活かすには、どうすれば良いのかをいつも考えてしまうという。
「職業病ですよ」と笑う諸永さんだが、食に対する追求は、プロならではのものだろう。
伝統と革新を両立させて
「もともと、食べることが好きだったんですよね」
そう語る諸永さんは、高校卒業後、香港に行き料理の研修をした。先代の父親が料理を学んだ場所で、諸永さんも中華の基礎を学んだ。日本に帰国後、料理人も含めて様々な職を転々としながら、最終的に『京華飯店』を引き継いだ。
『京華飯店』は、諸永さんのお祖父さんがこの地で開いた店だった。いつの時代も店を引き継ぐことは簡単ではない。先代と味が違う、と言われながらも諸永さんは自分自身のやり方で店のメニューを守りつつ、さまざまなメニューも独自に作っていった。
「それぞれの地方で食材を見て、店のメニューに活かすこともあります。たとえば昔、フグを使ってフグ中華を提供したこともありました」
新しい試みにチャレンジしつつ、先々代・先代の味を引き継ぐことも忘れない。
「上海料理は、紹興酒のふるさと・紹興に近いので、料理に酒を使うことが多いんです。それで、古くは紹興酒を使った豚の角煮を出していたこともあって、僕もそれを作っていたことがあります。その時は、沖縄のアグー豚を使いましたね」
新しいメニューを考案しつつ、古い味も守っていく。伝統と革新を両立させながら、今日も諸永さんは厨房に立ち続ける。
取材・文・撮影=谷頭 和希