この館は、昭和30年代に建てられた古い木造の建物で、正面からは2階建てに見えるのだが、
3階建てで、屋上もある。
もともとは“ときわ座”オーナー祖父母の家で、
今も掲げられている看板を見てもわかるように、かつては生花店を営まれていたようだ。

生花店のなごりを伺えるのは、入ってすぐのスペースが土間であること。
冬は冷えるが、生花店だったのだなと納得しつつ、とてもとても味わい深い。
そんな土間の奥には、お茶の間がある。
もろに昭和のお茶の間で、レトロを模したセットとか、レトロ趣味、などではなく、
昭和のお茶の間がそのまま保たれている。

この土間の空間やお茶の間をつかって、
お芝居や音楽や展示や、バザーや古本市などなどが、繰り広げられている。
この1階の他に、2階には和室と洋間がある。
和室には火鉢があり、洋間の天井には雨漏りのシミ隠しに、布が張られている。
そしてこの和室と洋間のあいだの部屋の床(1階の天井)が、なんとも見事に抜けている。

もちろん、この抜けている(抜いている)ところは立ち入り禁止で、
建築の勉強をされているオーナーが、しっかりと“このまま”を安全に保たれているのだが、
なかなかの光景で、繰り広げられる演目ごとに、充分すぎる味わいや演出効果を放っている。

令和元年秋に5年間限定で始めたという“ときわ座”は、令和6年秋でその限定5年目を迎える。
古い木造の建物だから、冷暖房の設備をつけることがむずかしいとのことで、
冬はストーブ1つで夏は扇風機が3台のみ。
それでも上着を着込んだり、団扇を扇いだりしながら、
お目当ての演目や展示をたのしむ人たちは満たされてきたのだが、
今年をもって“ときわ座”の幕は下りる。

“ときわ座”の味が加わった、個性豊かな公演や展示の数々を観ることができるのも、
残りあとわずかとなってしまった。

できうる限り、目に心に、しかと焼き付けて沁み込ませるぞ!
という、なんとも言えないこの想いは、
“芸術の秋”を、冬までアクセル全開に加速させるのであった。