それは、帰途の特急あずさ車内で飲む、缶ビール。
この一杯には、すべての思い出が詰まっている。
帰りの便に乗るのはたいてい夜で
座席につくと、どこからともなく
「プシュッ」と
お酒の缶を開ける音が聞こえる。
それを合図に、楽しみに買っておいた
缶ビールを取り出し、
我も続けとプルタブに手をかける。
車窓は、もう暗い。
ただ一方で脳裏は明るく、
旅の中で見た街、人、食べものすべてが、
再生されてゆく。
ごく、ごく、と
ビールと一緒に思い出を飲み込む。
最高だ。
そして、少し、寂しい。
今や気軽な街散歩も遠くなってしまった。
けれどあの味は忘れていない。
しあわせの一杯と再会できる未来は
きっとすぐそこだ。

コロナが猛威を振るう前、
東京都内から中央本線を下る小旅行に出ることが多かった。
山や湖を越え、山梨や長野へ。
特急あずさに乗り、
移りゆく車窓をぼうっと眺めながら
未知なる街散歩への期待ばかり膨らませる時間は
まさしく至福のひとときだった。
「しあわせの一杯」、それは強い思い出が紐づいているもの。
中央線本線の思い出には、たくさんの一杯がある。
勝沼にある大善寺、通称「ぶどう寺」で飲んだ、濃厚な赤ワイン。
上諏訪の宮坂醸造でいただく『真澄』のきりりと香るあの味。
松本の信毎メディアセンターのビルテラス飲んだ、爽やかな『マツモト・オーサム! ペールエール』(松本ブルワリー)。
どの味も忘れがたいが、
街散歩の締めくくりに必ず味わった一杯がある。
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