自然災害とどう向き合って生きていくか

2016年の熊本地震、2020年の令和2年7月豪雨と、何度も災害に見舞われた熊本県。

しかしこれらの自然災害は、地球からの恵みを受けている以上は避けられない。世界最大級のカルデラを有する阿蘇の美しい景観は、幾度とない火山活動によって形成されたものだ。

災害との向き合い方について、改めて考える機会をくれるのが『熊本地震震災ミュージアムKIOKU』。2023年7月、熊本地震を追体験し経験や教訓を後世に残していくため、南阿蘇に整備された。

阿蘇の雄大な景色の中に立つ『熊本地震震災ミュージアムKIOKU』。
阿蘇の雄大な景色の中に立つ『熊本地震震災ミュージアムKIOKU』。

ミュージアムは、展示室「KIOKU」と「旧東海大学阿蘇キャンパス」などで構成されている。

展示室「KIOKU」は、瓦礫に押しつぶされた車や旧阿蘇大橋の鉄骨の一部といった震災遺構、地震発生時の映像などをとおして“その時”を振り返る展示室1、 熊本の大地を知る展示室2、災害への備えを考える展示室3からなる。

旧東海大学阿蘇キャンパスは、建物の損壊状況や断層などがそのまま残っていて、まるで時が止まったかのよう。地震がいかに甚大な被害をもたらしたか、身をもって実感できる。

展示室1の震災遺構。
展示室1の震災遺構。
展示室2にある阿蘇のジオラマ。断層の位置や地形のなりたちがよくわかる。
展示室2にある阿蘇のジオラマ。断層の位置や地形のなりたちがよくわかる。
建物の基礎が破壊された旧東海大学阿蘇キャンパス。耐震補強をしていた両端部分は被害が少なかった。
建物の基礎が破壊された旧東海大学阿蘇キャンパス。耐震補強をしていた両端部分は被害が少なかった。
地震により地表に現れた断層。
地震により地表に現れた断層。

しかし、実は熊本地震の死亡原因で一番多かったものは、避難生活が長引いたことによる災害関連死だったという。

「共助の重要性と、生き残った後の備えについて知ってほしい」と統括ディレクターの久保尭之(たかゆき)さん。いざ自分の備えを振り返ってみると、水・食べ物などの備蓄は最低限あるけれど、紙パンツや簡易トイレなどの衛生用品までには思い至っていなかった。

自然の驚異にどうやって立ち向かい、リスクを下げつつ共存していくかを探っているという久保さん。自然とともに生きるたくましい人々の姿に勇気をもらえた。

 

 

避難生活の様子などが生々しく伝えられている展示。
避難生活の様子などが生々しく伝えられている展示。
地震が起きた時、自分ならどうやって行動するかを改めて考えたい。
地震が起きた時、自分ならどうやって行動するかを改めて考えたい。

帰りがけ、2021年に誕生した新阿蘇大橋へ。

阿蘇大橋は、2016年4月16日未明の熊本地震の本震で崩落。これにより熊本市内から南阿蘇地域へのアクセスが難しくなっていたが、この橋の開通で大幅に改善された。

着々と進む復興の兆しを辿るうえで、ミュージアムとあわせてぜひ訪れたいスポットだ。

全長525m、最大橋脚高97mの新阿蘇大橋。
全長525m、最大橋脚高97mの新阿蘇大橋。

熊本地震震災ミュージアムKIOKU
☎0967-65-8065
9:00~16:30受付、月と年末年始休。500円
熊本県南阿蘇村河陽5343-1
JR豊肥本線赤水駅から車10分

 

新阿蘇大橋
熊本県阿蘇郡南阿蘇村立野
JR豊肥本線立野駅から車7分

熊本地震で倒壊した蔵をリノベーション

熊本地震からの復興のみならず、それをきっかけに新たな事業を始めた老舗の酒蔵がある。九州脊梁(せきりょう)山脈と阿蘇南外輪山(がいりんざん)に囲まれた『通潤(つうじゅん)酒造』だ。

日向(ひゅうが)往還沿いに立つ、寛政4年(1770)創業の酒蔵。
日向(ひゅうが)往還沿いに立つ、寛政4年(1770)創業の酒蔵。

250年以上の歴史をもつ酒蔵だが、熊本地震により10棟以上が倒壊。しかし、いま一度お酒を楽しんでもらえる場所をつくりたいと、3年の歳月をかけて12代目社長の山下泰雄さんがリノベーションした。「いつの間にかカフェになっちゃったけど」と山下さんは笑う。

“地元の米と水、そしてくまもと酵母で醸す”という酒づくりの信条は守りつつも、新しきを恐れない姿勢がすごい!

蝶ネクタイが似合う山下泰雄さん。
蝶ネクタイが似合う山下泰雄さん。

「寛政蔵」では、日本酒と、お酒によく合う料理がいただける。

地元・山都(やまと)町の野菜を使ったホットサンドは、生野菜のシャキシャキ感と自家製ベーコンの旨味がマッチ。日本酒とホットサンドって合うの? と疑問に思う人も多いかもしれないが、実は相性抜群。ぜひ、お酒とペアリングを体感してみてほしい。

寛政蔵は熊本県で最古の酒蔵。
寛政蔵は熊本県で最古の酒蔵。
通潤ランチ1750円はドリンクとデザート付き。セットドリンクにはグラスの日本酒も選択可能。冬のメニューはだんご汁と角煮に切り替わる。
通潤ランチ1750円はドリンクとデザート付き。セットドリンクにはグラスの日本酒も選択可能。冬のメニューはだんご汁と角煮に切り替わる。
併設の売店では日本酒を購入できる。写真は人気の「純米吟醸酒 蝉720㎖」1969円。
併設の売店では日本酒を購入できる。写真は人気の「純米吟醸酒 蝉720㎖」1969円。

通潤酒造
☎0967-72-1177
9:00~17:00、火と12月31~1月3日休。寛政蔵のランチは土・日・祝のみ(1~3月は第2・4日休)
熊本県山都町浜町54
JR豊肥本線南熊本駅前の桜町バスターミナルからバス1時間25分の浜町下車、徒歩5分

放水の瞬間を見逃さないで!

寛政蔵のランチでお腹を満たしたら、その足で訪れたいのが通潤橋。酒蔵から徒歩15分ほどで辿り着く、近世最大級の石造アーチ橋だ。

嘉永7年(1854)、現在の町長職である惣庄屋(そうじょうや)布田保之助(ふたやすのすけ)により造られた橋で、ここから上流へ6kmほどの場所にある笹原川から取水し、円形分水により分けられた用水を、白糸台地へと送る役割を果たしている。

橋の石材には阿蘇とは切っては切れない溶結凝灰岩が用いられており、通水菅は漆喰でつながれている。熊本地震で一部破損・漏水するも、2020年に保存修理工事が完了した。

石橋自体の美しさ、スケール感の大きさもさることながら、特筆すべきは石造アーチのなかで唯一“放水”ができるところ。もともとは通水管のごみ掃除のために行われていたが、その美しさから定期的に観光放水をするようになったという。

放水中の通潤橋。リフレクションにも注目!
放水中の通潤橋。リフレクションにも注目!

放水の際は、まずは橋上で木栓を抜く瞬間を目撃してから、下に下りて流れ落ちる水の様子を見る…という流れがおすすめ。金槌でカンカンカンと叩き、勢いよく水が噴き出す瞬間は大迫力だ。

放水場面が見られるのは栓を抜いてからだいたい15分ほど。貴重な光景をお見逃しなく。

いよいよ栓を抜こうかという場面。
いよいよ栓を抜こうかという場面。
橋の上からはのどかな田園風景が眺められる。落ちないように注意!
橋の上からはのどかな田園風景が眺められる。落ちないように注意!
山都町で毎年9月に行われている八朔祭の「大造り物」として作られたくまモンライダー。
山都町で毎年9月に行われている八朔祭の「大造り物」として作られたくまモンライダー。

通潤橋
☎0967-72-1177
見学自由(2024年の放水は終了。2025年の予定はホームページhttps://tsujunbridge.jp/を確認)。放水日の橋上見学は500円
熊本県山都町長原
JR豊肥本線南熊本駅前の桜町バスターミナルからバス1時間27分の通潤橋下車すぐ

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「南九州 DE 超回復~HEALING JOURNEY in 熊本・宮崎・鹿児島~」開催中!

九州南部3県では「南九州 DE 超回復~HEALING JOURNEY in 熊本・宮崎・鹿児島~」を2025年3月31日まで開催中。

期間中は、JR九州アプリから参加できるチェックインラリーやInstagramのキャンペーン、おトクなきっぷに、割引レンタカープランなど、うれしい企画が盛りだくさん。心と体を癒しに、南九州へ旅をしよう!

●「南九州 DE 超回復」の概要はこちら
https://www.jrkyushu.co.jp/train/cho-kaifuku/

南九州までどうやって行く? どうやって旅する?

山陽・九州新幹線「みずほ」を利用すると、新大阪~熊本間は最速2時間58分!

またキャンペーンにあたり、熊本県・宮崎県・鹿児島県の周遊に便利な「南九州 DE 超回復!きっぷ」も発売中。対象エリアの新幹線、特急列車、普通・快速列車の普通車自由席に連続する3日間乗り降り自由で1万5000円と、破格のねだんだ。

「南九州 DE 超回復!きっぷ」を持っていると&Sみやざき号がおトクに利用できる「B&Sみやざききっぷ」もあわせて発売。ぜひ鉄道を組み合わせて、旅行の計画を練ってみては。

取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部 協力=九州観光機構

「南九州 DE 超回復~HEALING JOURNEY in 熊本・宮崎・鹿児島~」を2025年3月31日まで開催中の九州南部三県。自然やグルメ、絶景が盛りだくさんの南九州の魅力を再発見する旅の後編は、宮崎県高千穂町にある地元の人々の思いを乗せて走る鉄道と、旅人に新たな楽しみを提供してくれる鹿児島県の駅に注目。旅の最後には、「かんぱち・いちろく」にも乗車します!