横丁をセレクトしてくれたのは——倉嶋紀和子
くらしまきわこ/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。酒場を日々飲み歩き、テレビ出演など酒をテーマにしたさまざまな活動を展開。2022年度に「酒サムライ」の称号を叙任。
狸小路はここ!
JR・私鉄・地下鉄横浜駅から徒歩2分
酔客同士、同じ穴のムジナになれる魅惑の狭さ
横浜駅西口を出て少し歩くと、駅ビルの陰にひそむような横丁が現れた。“く”の字に曲がるわずか25mほどの路地に、15軒の酒場が肩を寄せ合う狸小路だ。
「もともと昭和22年(1947)に祖母が西口で飲み屋を始めたのですが、運河の整備で立ち退きすることとなり、その代替地がここ。駅前で営業していた屋台やほかのお店も何軒か集まり、昭和26年(1951)頃にこの横丁が生まれたんです」と、『おでん はな家』店主の内野昭良さん。
当時から営業を続ける『豚の味珍(まいちん)』で、勤続約50年の簗瀬敏(やなせさとし)さんによると、「うちの初代は北海道小樽出身。札幌にある商店街・狸小路のにぎわいにあやかろうと、ここも狸小路と名づけたそうです」。
道幅はむかしと変わらないが、通る人では女性や若者が増えたという簗瀬さん。
2008年にオープンした『ワインバーヤミツキ・タヌキ』の平石さんによると「おひとりの女性客も、結構いらっしゃいますね」。
2017年開業の『みなと刺身専門店』の名物女将・川田佐和子さんは狸小路の魅力をこう語ってくれた。
「横浜駅はいつも工事中で、変化し続ける“サグラダ・ファミリア”。そんななかで昭和レトロが残り続ける狸小路に足を踏み入れてくれたら、絶対に楽しい夜が待ってますよ~」
麗わしおでんで心もぬくぬく『おでん はな家』
4代目の内野さんは日本料理店で修業。昆布や煮干しなどで出汁をとったつゆが滋味深い京風おでんや、計10種ほどの中から日替わりで1種を提供するもつ煮などに和食の技が光る。日本酒は「まんさくの花」をはじめ、5種ほど。
『おでん はな家』店舗詳細
ブゥちゃんのあの部位がこんなにうまく! 『豚の味珍』
名物は、醬油ベースで味つけしてやわらかく煮込んだ豚の珍味6種各720円。耳はねっとり感がありつつ嚙まずともとろけ、頭は煮こごりのような部分と頰肉のしっとり感が好相性。ポットから注ぐ焼酎がガンガン進む!
『豚の味珍』店舗詳細
スタンディングで気軽にワインを『ワインバー ヤミツキ・タヌキ』
二十数種がそろうワインは、なるべく単一品種のブドウで醸す銘柄にこだわる。料理はイタリアンがベースで、牛・豚・鶏の肉を赤ワインや味噌などで煮込むヤミツキ煮込みが看板メニュー。国産とアイラ島のウイスキーも充実!
『ワインバー ヤミツキ・タヌキ』店舗詳細
寿司屋クオリティーを立ち飲みで『みなと刺身専門店』
経営元が横浜市中央卸売市場の買参権を持っているため、鮮度のいい魚介を安く提供できる。活ホッキ貝は甘み濃厚で、カマスや戻りガツオは脂ノリノリ。酒を注ぐカップに名前を書いてくれ、初来店でもすぐに常連気分に。
『みなと刺身専門店』店舗詳細
取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2024年12月号より