降りる直前、奇跡的にあいた空の穴
富士山はいままで何度も空撮をしてきたが、そのたびに違う顔を見せてくれる。
この日は、富士山を空撮するために早朝から山梨側の富士山麓に向かったものの、空は厚く雲に覆われて日の出を過ぎても暗かった。
今日はあまりいい写真は撮れなさそうだなと思いつつ、モーターパラグライダーで離陸した。
空に雲が広がっているが、高層雲のため山頂までしっかり見えてはいる。とりあえず高度を上げて撮影することにした。
予報どおり高高度の風はそこそこ強く、あまり山には近づける条件ではなかったが、少し離れた場所で安全を確保して高度を上げていく。
1時間半ほど飛び、かなり気温も低かったのでそろそろ降りようかと考えていると、富士山山頂のやや東の上空の雲にぽっかり穴があいていることに気がついた。
穴は徐々に大きくなり、そこから太陽の光が差してきて富士山を照らし始めた。
後でわかったことだが、これは「穴あき雲」という珍しい自然現象だ。雲に含まれる過冷却の水滴の一部が氷に変化し、それが周辺部にも広がり落下していくことで穴ができる。
飛んでいるときはそんなことを知る由もなく、ただ奇跡が起きたのではないかと感動のあまり寒さも忘れてシャッターを切り続けた。
モーターパラグライダーの撮影では、飛んでいる間に景色が変わってきて、想像もしていなかったような絶景に出会える。今回はそんな、ならではの撮影となった。
取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2024年1月号より