ブルワリーカフェが地域のコミュニティセンターに
むらさき橋通りと仲町通りが交差する場所に面した建物の窓から、大きな銀色のタンクがのぞく。そのすぐ脇の壁には、OGA BREWINGの文字。そう、ここが今回紹介する『OGA BREWING CAFE』だ。店のすぐ隣りで造られるクラフトビールを主役に、ビールと相性のよいフードメニューや、コーヒーなどのノンアルコールドリンクを揃える。
小笠原さんは、2018年に前身となるカフェバー「Cafe Hoooop(カフェ フープ)」をこの場所でオープン。2019年から自家醸造ビールの販売を開始したのを機に、現在のようなブルワリーカフェとしてリニューアルした。
もともとお酒好きという小笠原さん。「この仕事を始める前から、一日の終わりにはいつも居酒屋、小料理屋、バーとお酒を飲み歩いてましたね。そのなかでも、特にビールが好きで。そのおいしさや奥深さを伝えていくにはどうしたらいいかと考えたときに、最初の手段としてビアバーを開くことにしました。そして、イベントも色々と開催しながら活動していくうちに、造る方にも興味が湧いて、ブルワリーを立ち上げることになりました」。
自身のブルワリーを持つにあたり、バーからカフェに形態を変えた背景には、地域のコミュニティセンターを目指したいという小笠原さんの想いがあった。欧米ではすでに、時間やビールを飲む・飲まないに関係なく、ブルワリーカフェが地元の人々の憩いの場として活用されている現状を知り、日本にもそのような文化を定着させたいと感じたと話す。そのため、この店にはビール以外のドリンクも用意し、いろんな人が利用できるようにしている。
自由な発想で造られるビール
話を伺っている間にも、何度か目に飛び込んでくる大きな醸造タンク。小笠原さんこだわりの客席から見る醸造所の眺めは、ここが東京であることを一瞬忘れてしまうような気持ちにさせる。このブルワリーでは、小笠原さんが一から栽培を手がけた大麦・小麦・ホップを使用して、様々なビールが造られてきた。
たとえば、中央線沿線の街をイメージしたビールや、ブルーベリー、キウイフルーツといった三鷹産の農作物を使用したビール。そして、時には個人や企業からの委託醸造(OEM)も請け負っている。ビールを造るうえで小笠原さんが大切にしていることが、誰がどんなシーンで飲むのかを想像すること。委託醸造の場合は、依頼者が持つイメージや要望にも柔軟に対応する。
すべてのビールにはオリジナルのショートストーリーが用意されており、ただ味わうだけではない楽しみ方ができるのも魅力だ。さらに、ラベルのデザインにも強いこだわりを持つ。ビール造りの傍ら、デザイナーとしてデザイン事務所も営む小笠原さん。それまでの日本のクラフトビールのラベルは、商品説明やアルコール度数など専門的な内容の記載がメインで、海外のように味やブルワーの思いが表現された個性的なラベルが少ないと感じていた。
そんな思いから、自身の強みを活かして、従来にはない画期的なラベルデザインを制作。2022年12月10日からは、ラベルデザインのコンペティションを初開催する。同店のシグネチャービールのひとつである吉祥寺IPAをテーマに、プロアマ問わず、新しいラベルデザインを公募するというのだ。審査員には名立たるメンバーを揃えているようなので、興味がある方はぜひ公式ホームページから詳細をチェックしてほしい。
クラフトビール業界の未来も見据えながら、様々なことにチャレンジしていく小笠原さん。『OGA BREWING CAFE』が街のコミュニティセンターとして、地域の人になくてはならない存在になる日も近いはずだ。
『OGA BREWING CAFE』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英