部屋全体に音楽が広がる。漂うもよし。くつろぐもよし
道に面した小さな階段を2階に上がり、ガラスの扉を開けるとモーツァルトのレコードがかかっていた。常連さんのリクエストのようだ。ママ・小林眞理子さんと二言三言話してからは、すっと音楽に聞き入っていた。
大きすぎず小さすぎず、音楽を愉しむのにちょうどいい音量が心地いい。当たり前だけど、ヘッドフォンで音楽を聴くのとはまったく違う感覚だ。最後にレコードを聴いたのはいつだったろう……。
店内の奥の方を見ると、古い大きなスピーカーが。音にゆとりがあり、自然とくつろぐことができる。コーヒーを飲みながら、ゆっくり本を読みたい気持ち。一人で来るお客さんが多いのも納得だ。
この日はコーヒーとクッキーを注文。ソフトとビターが選べるブレンドコーヒーは、一杯ずつていねいにドリップ。人気は手作りのクッキーで、ほろりと崩れるやわらかな食感。紅茶や昆布茶、ケーキなども提供する。
なんでチェンバロが? ギャラリー兼レンタルスペース
もともとは喫茶室に併設された「私語厳禁」の音楽鑑賞室が、現在はギャラリースペースになっている。この日も常連さんの油絵が展示されていた。
この部屋でびっくりするのはチェンバロが置いてあること。チェンバロの製作者の方から借りていて、コンサートなどで使用するときだけ使用料を払うそう。見学の場合はママにひとこと確認すること。
荻窪で約60年。「変わったお店」を続けるということ
『名曲喫茶ミニヨン』は「名曲喫茶」全盛期の昭和36年(1961)に荻窪でうまれた。場所は少し変わったけれど、ずっと荻窪。長い長い歴史を持つお店だ。
「自分でやってきたわけじゃないの。なんでもお客さんがやってくれちゃうから。」と、シャイに笑うママ。音楽が好きで、レコードコレクションをどんどん増やした初代ママの元で働き、その意志を継いだ2代目だ。お店に関わって約50年!と聞いてびっくり。お店が長く続いているのは、きりっとしていてやさしいママの人柄によることも大きい。
「変わった店もたまにはあったほうがいいと思うからね」と軽く言ったその言葉が忘れられない。
往年の音楽ファンはもちろん、レコードに触れたことのない人も、この空間の体験はきっと新しい発見がある。これからも、ゆたかな時間と空間を提供してほしい。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ