1997年創業のパリの雰囲気が漂うおしゃれビストロ
JR恵比寿駅東口から恵比寿ガーデンプレイス方面に出て徒歩3分ほど。くすの木通りを進んで交差点に差しかかると、外壁にツタが這う3階建ての建物が見えてくる。
建物は雰囲気がいいし、店頭に並ぶスイーツはおいしそうだし、これはランチも期待できそう。
ビストロ『Rue Favart』の創業は1997年。初代オーナーがパリを旅行した際に訪れた「ファヴァール通り」(リュ・ファヴァー)を気に入って、その名を店名に冠したという。
「日常を忘れてくつろげる場所にしたい」という創業時のコンセプトと、異国情緒あふれる空間はそのままに、現在は3代目のオーナーが店を経営している。
2階と3階の客席は天井の模様と壁面の色が異なっていて、とても印象的。アンティークのランプでほんのり灯りをともし、全体的にダスティーな色調の空間になっている。ランチ時に訪れたのだが、なんだか夜のように感じる、不思議な空間だ。
「もともと3階建ての家屋だったものを、そのまま店舗に改築してるんです。なかには『田舎の祖父母の家みたいで落ち着く』とおっしゃる方もいるんですよ」と、店長の佐藤紀子さん。お客さんの声に筆者も共感! ここで1日中、過ごす客もいるんだとか。
「恵比寿の街は新しさもありますが、どこか下町っぽいんですよね。休日はいろんなところからお客さまがお見えになりますが、普段は地元の方がよく来てくださいます」。地元に密着した昔ながらのビストロって感じなのかな。
かつてインテリアコーディネーターだった佐藤さんは、仕事を通じて3代目オーナーにヘッドハンティングされ、初めて飲食の世界に飛び込んだ。
「この店で働き始めてうれしかった出来事は、ここで初めてデートをされて結婚したお客さまが、20回目の結婚記念日にお祝いをしたいとディナーを予約してくださったことですね」と佐藤さん。「時を経ても『Rue Favart』が大切な場所であり続けていることを知って感激でした」。
1000円以下のボリュームランチは、セットの内容も充実すぎ!
さて、おしゃれな恵比寿のビストロランチはどんな感じだろう? 黒板のメニューを見ると、カジュアルな料理が並んでいる。意外や意外、丼ものまであるぞ!
今回いただくのは、人気ダントツのお肉ランチ。豚ロース肉のソテーにマスタードソースがかかっているもので、見るからにボリュームがありそう。
日替わりランチのお肉は豚肉オンリーで、毎回ソースを変えて出している。ちなみに、お魚ランチ・パスタ・リゾットは、日によって具材やソース、味付けが変わる。
目を見張るのは、サラダの量! お肉におおいかぶさるほど、たっぷり盛られている。セットでこんなにたくさん野菜をいただけるなんて、うれしすぎ~!
バジルをしっかり効かせたしょうゆベースの手づくりドレッシングが、葉物にすっごく合っていてウマウマ。
「サラダはもりもりのほうがお客さまが喜ぶだろう」というオーナーのひと声で、「運ぶ時にこぼれ落ちそうになるくらいの量をイメージして盛ってます」と笑う佐藤さん。
ランチは7品あるうち1品を除いて、平日はどれも1000円以下でいただくことができる。しかも、すべての料理にサラダ・スープ・パン・ドリンクが付いているというコスパの良さ! およそ恵比寿のランチとは思えない価格とボリューム感だ。
ほどよく塩味の効いたふわふわ食感のフォカッチャは、おかわり自由。毎朝厨房で焼いており、客の要望で予約販売もしている。
まだまだあります、お楽しみ♪ 店自慢のソフトクリームを、ランチ限定でいただけるチャンスがある。
ランチを注文すると「プチソフト サービス券」がもらえて、次回ランチをいただく際に利用できるのだ。「リピーターさんには、なるべくサービスしたいので!」と、休日は店頭に行列ができるほど人気のミルキーなソフトクリームをミニサイズで提供。この濃厚なソフトがまた食べたくて……、リピ確です!
フレンチらしからぬ発想で新たな味と、老舗の魅力を発信し続ける
オーナーが代替わりをしてからは、「昔ながらの空間はそのままに、お客さまに寄り添った店にしていきたい」と、さまざまな工夫を凝らしている。
2016年に厨房を改装した折、客席もプチ・リニューアルしようと、創業時の雰囲気を崩さないように天井画を修復し壁を塗り直しただけでなく、もっと雰囲気を良くしようと床を全面張り替え、客の使い勝手を考えて新たにボックス席を設けた。
女子ウケするインパクト大のピンク色のトイレも、客を楽しませるアイデアのひとつ。
コロナ禍になってからは店に入ってすぐのところに、何十種類ものアルコール消毒液を置いた。その数の多さと説明書きには、客に対する配慮と遊び心が感じられる。
フレンチレストランに対するハードルを下げようと、ランチでは「安い・早い・うまい」という定食屋さながらのお得感を打ち出して、新たな客の心をつかんだ。変わり種の丼ものなどの新作も取り入れて、常連客も飽きさせない。昔から変わらぬ味で客の期待に応えながら、新たな味も提供している。
「前任の店長時代に、開店当初から勤めていたシェフに店に戻ってきてもらったんですが、そのシェフがつくるポークカレーは絶品でして。どこか家庭の味っぽいところもありつつ、さすがフレンチのシェフ特製といった味なんですよ」と佐藤さん。そうと聞いたらテイクアウトして帰ります!
この店には、居心地のいいアーティスティックな空間の魅力と、ユニークな試みによるおどろきが入り混じっている。『Rue Favart』に心をわしづかみにされた筆者は、生姜焼き丼とカレーの入った袋を手に、満足気に店を後にした。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ