レアルプ➡オーバーヴァルト
絶景の氷河特急、その語源は
サン・モリッツとツェルマットという、二大山岳リゾートを結ぶアルプス横断ルートとして人気の「グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)」。
フルカ峠にあるローヌ氷河のすぐそばを走っていたことから“グレッシャー(氷河)”の名が付けられた。
しかし、スイスで最も人気の高い景勝路線は多雪地帯を走るため、大雪や雪崩(なだれ)に悩まされる。フルカ峠はその最難所であり、冬は運休せざるを得なかった。
そこで1982年にフルカ峠の直下を貫く、長さ約15.4㎞のフルカトンネルが開通。周辺住民の悲願は叶い、列車は一年を通じて運行できるようになったが、その代わりにローヌ氷河は見えなくなってしまう。
そして、それまで走っていた旧線は廃線に。
ボランティアの熱意によって復活!
廃線になると、この歴史ある旧線を残したいという鉄道ファンたちが動く。
翌年には、すぐにボランティアによる活動がスタート。路線を修復し、ベトナムに売却されていた蒸気機関車を買い戻して整備。「フルカ山岳蒸気鉄道」として復活させるのだ。
2000年に、まずはレアルプから途中のグレッチまでが開通。2010年には、レアルプ~オーバーヴァルト間の旧線の全線が開通した。
「グレッシャー・エクスプレス」からは見られなくなったローヌ氷河を間近に、むかしの絶景を思いきり楽しむため、「フルカ山岳蒸気鉄道」に乗車してきた。
汽笛に煙、振動を肌で感じる
レアルプ駅では、シンプルでかわいいSLが準備万端で待っている。これから乗り込む乗客たちは、あちこちで記念撮影。みんな笑顔で楽しそう。“鉄ちゃん”は万国共通みたいだ(笑)。
SLの後ろには、1920年代の状態が再現されたノスタルジックな客車が。2等車は木製のベンチシート、1等車は高級感あふれるシートが配置されている。窓を思いきり開けられるのもうれしい。
さあ、出発だ~! 力強い汽笛を上げたら、SLは重い体を揺らしながら、峠に向かっていく。
気持ちいい風を感じながら窓の外に目をやると、アルペンローゼが咲いている。シートに座って眺めるのはもちろん、SLの後ろを陣取るもよし、客車の前方にある展望スペースに行くもよし。
トンネルが近づくとアナウンスがあり、煙が入ってくるので窓を閉める。何度か繰り返すと、その作業も手慣れたものに。
フルカ駅でしばしの休憩
中間のフルカ駅で、オーバーヴァルトから来た列車とすれ違い、SLの給水タイム。少し長めの停車なので、出店で軽く一杯やったり、軽食をとったり、写真を撮ったり。思い思いに過ごす。
往時に思いを馳せて
SLがたっぷり水をもらったら、後半の旅へ。
しばらくすると、車窓右側にローヌ氷河が見えてきた! ところが氷河の後退はすさまじく、上部にかすかに残っているものの、下のほうは岩山になっている。
そして谷を流れるのはローヌ川。いったんレマン湖に入り、ジュネーヴから再び川として流れ、フランスのリヨンを通り南下してプロヴァンス地方を抜け、地中海に注ぐ。ローヌ氷河はローヌ川の水源なのだ。
グレッチ駅で再びSLに給水。一度降りて、駅の周辺を少し歩く。
スタッフがむかしの写真を見せてくれた。100年ほど前は、駅のそばに立つ『グランドホテル・グラシエ・デュ・ローヌ』の近くまで氷河があったという。温暖化の影響で、いまはもう氷河の末端がとても遠い。
●『グランドホテル・グラシエ・デュ・ローヌ』についてはこちら
https://www.myswitzerland.com/ja/accommodations/grand-hotel-glacier-du-rhone/
※現在、リニューアル工事中のため閉業中。2026年夏に営業再開予定
ガタゴト揺れながら、オーバーヴァルトへ到着。名残惜しいけれど、SLとはここでお別れ。
この先、3つの峠をバスでめぐってレアルプへ戻る人たちがいて、駅前にはレトロなポストバスが待っていた。そんな旅もステキだな。
フルカ山岳蒸気鉄道
レアルプ~オーバーヴァルト間を約2時間かけて走る。6月下旬〜10月初旬の期間限定運転。車内販売や食堂車はないが、フルカ駅で軽食、ドリンクなどを購入できる。人気の列車なので要予約。
動画はこちら
[気候]春・秋は8~15度、夏は18~28度、冬は-2~7度。山岳地帯と麓の村では温度差があり、日中と朝晩の気温差も激しいので、レイヤード(重ね着)が基本。着脱しやすい服装を準備したい
[時差]日本の-8時間(夏は-7時間)
[言語]ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4言語(地域により異なる)。ホテルやお店では英語が通じる
取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部 協力=スイス政府観光局、スイス インターナショナル エアラインズ、スイストラベルシステム