「札幌発2泊3日 北の秘境駅、廃線跡を目指す旅」のルートはこちら!
【1日目】
札幌駅→函館本線・宗谷本線→音威子府(おといねっぷ)駅(泊)
【2日目】
音威子府駅→宗谷本線→稚内駅(泊)
【3日目】
稚内駅→宗谷本線→豊富駅…札幌駅
【1日目】札幌駅→音威子府駅 あの頃のSLと真っ黒そばに会いに行く
旅人はなぜ北へ向かうのか。理由は千差万別だろうが、“最果て”という響きに、センチメンタルな旅情をかき立てられるのは確かだ。
朝6時に札幌を発ち、旭川駅から日本最北の鉄路・宗谷本線の旅が始まった。市街地を抜けると、間もなく車窓には田園風景が広がり、剣淵(けんぶち)駅を過ぎてからは深川林地と呼ばれる林の中を縫うように突き進む。清々しい新緑のトンネルに、気忙(ぜわ)しい日常がスーッと溶けていく。
名寄(なよろ)駅で途中下車し、『名寄市北国博物館』へ。冬の鉄路を守ってきたSL排雪列車・キマロキと対面し、往時の雄姿に思いを馳せてみた。
夕方、音威子府駅に降り立ち、駅前の『ゲストハウス イケレ』へ向かう。かつて音威子府駅で“駅そばの聖地”として愛された、『常盤軒(ときわけん)』の真っ黒いそばが味わえると聞きつけたからだ。
「製麺所も廃業して一時は幻となったのですが、千葉県で食堂を営むこの村出身の店主が独自に開発し、新・音威子府そばとして復活させたんです」と宿主の竹本修さん。
真っ黒いそばをすすると、野性味あふれる力強い香りが鼻を抜け、遠い日の旅の記憶が蘇った。思い出の味を求め、遠方から足を運ぶファンの気持ちがよくわかる。
【名寄駅】『名寄市北国博物館』名寄でしか見られない! SL排雪列車を野外展示
北国をテーマに寒冷・多雪な名寄市の生活文化や自然現象などを紹介。旧名寄本線の線路上に野外展示されたSL排雪列車・キマロキの姿を求め、遠方から訪れるファンも多い。
☎01654-3-2575
9:00~16:30受付、月曜休。220円
北海道名寄市緑丘222
JR宗谷本線名寄駅から徒歩18分
【音威子府駅】北海道で一番小さな村に降り立つ
【音威子府駅】『ゲストハウス イケレ』アットホームな駅前宿では、思い出の味と再開できる
音威子府駅前にあるアットホームなゲストハウス兼食堂。個室とドミトリーの2タイプがあり、共用のリビングルームでは、旅人同士の交流も。列車の発着時間に合わせて食事を用意してもらえる。
☎01656-8-7565
1 泊素泊まりドミトリー3000円、個室4000円
北海道音威子府村音威子府511-6
JR宗谷本線音威子府駅から徒歩1分
【2日目】音威子府駅→稚内駅 日本最北の無人駅に降り立ち絶景のクライマックスへ
翌朝は始発列車に乗り、いよいよ稚内を目指す。天塩中川(てしおなかがわ)駅を過ぎると、鉄路は悠々と流れる天塩川に寄り添うように進む。そこから先は秘境駅の宝庫だ。
小さな物置小屋がぽつんと佇む糠南(ぬかなん)駅、築70年の木造駅舎の雄信内(おのっぷない)駅、かわいいキャラクターが描かれた下沼(しもぬま)駅……。それぞれに個性を放ち、凜と構える無人駅の姿に元気をもらい、車窓から夢中でシャッターを切った。
宗谷本線の秘境駅。よくばりさんはここも!
やがて終着が近づくと、鉄路は内陸から日本海沿岸へカーブを描き、その途中の抜海(ばっかい)駅に降り立つ。この駅は日本最北の木造駅舎・無人駅で、2024年6月に100歳を迎えた。古びた外壁や屋根には、厳しい風雪に耐えてきた歴史が刻まれている。
「ホームから眺める駅舎の風景が忘れられず、30年ぶりに来ました。再会できて涙が出そうです」。駅舎内のノートをめくり、旅人たちの書き込みに思いをめぐらす。帰り際、私もそっと思い出を綴ってみた。
抜海駅から南稚内駅までの区間は、宗谷本線のクライマックス。日本海の向こうに残雪の利尻山がそびえる絶景をしっかりと目に焼きつけた。
終着の稚内駅に着いたのはちょうど昼どき。まずは腹ごしらえと稚内港前の『海鮮炉端 うろこ亭』で新鮮魚介が満載の海鮮丼を味わう。とりわけ春から夏が旬の地物の生ウニはとろりと甘く、感動的なおいしさだ。
お腹を満たしたあとは、北緯45度31分、北海道本島最北の地に位置する宗谷岬まで足を延ばす。夏とはいえ、潮風はひんやり冷たく、サハリンの島影を望みながら、最果てに辿り着いた到達感をかみしめる。
【抜海駅】コバルトブルーの海と残雪の利尻山の絶景コラボレーション!
抜海駅から2㎞ほどの海岸線からは残雪の利尻山を望む。5~10月はレンタサイクル(https://reserva.be/bakkaistation。1時間500円、前日までに要予約)も利用できる。
【稚内駅】『海鮮炉端 うろこ亭』稚内港を眺めながら豪華海鮮丼を味わう
創業70年の老舗水産加工会社が営む海鮮食堂。稚内近海の新鮮な魚介を使った海鮮丼や刺身定食をはじめ、稚内名物のタコしゃぶや宗谷黒牛のステーキなども味わえる。
☎0550-81-2233
10:30~21:30(物販は9:00~17:00)、日休(連休の場合は要問い合わせ)
北海道稚内市中央5-6-8
JR宗谷本線稚内駅から徒歩11分
【稚内駅】『稚内港北防波堤ドーム』稚泊(ちはく)航路の記憶を伝える壮大な歴史的建造物
かつて稚内と樺太を結んでいた鉄道連絡船・旧稚泊航路の防波堤として昭和初期に建設された半アーチ形ドーム。古代ローマ建築物を思わせる70本の円柱と427mの回廊は、世界でも類のない独特の構造と景観が見どころだ。
☎0162-23-6468(稚内市観光交流課)
見学自由
北海道稚内市開運
JR宗谷本線稚内駅から徒歩6分
【稚内駅】「宗谷岬」サハリンの島影を望む北海道最北の地
日本のてっぺん、北海道本島最北の地に位置する岬。先端には北極星の一稜をモチーフに、北を表わす「N」の文字をあしらった「日本最北端の地の碑」が立つ。
☎0162-23-6468(稚内市観光交流課)
見学自由
北海道稚内市宗谷岬
JR宗谷本線稚内駅からバス50分の宗谷岬下車すぐ
【3日目】稚内駅→札幌駅 日本海沿いをバスで南下し、哀愁の廃線跡を訪ねる
稚内からの折り返しは、路線バスに乗って日本海沿岸に点在する国鉄羽幌(はぼろ)線の廃線跡をめぐる計画だ。
羽幌線は1958年に留萌(るもい)駅から幌延(ほろのべ)駅の全線が開通し、石炭やニシンの輸送を支えてきたローカル線。廃線から37年経ったいまも、橋梁やトンネル跡がひっそりと姿を留めている。
なかでも、現存するうちに見ておきたかった金駒内川(きんこまないがわ)橋梁を目指し、初山別(しょさんべつ)郵便局前で途中下車。海沿いを20分ほど歩くと、古びた橋梁の姿が。草木に覆われ錆びつきながらも、圧倒的な存在感を誇示する姿は、勇壮でどこか切ない。そんな哀愁に浸れるのも、最果ての旅の醍醐味だ。
【沿岸バス】道中にも続々と。車窓から眺める鉄道遺構
【初山別郵便局前バス停】バスから降り、大地に眠る橋梁へ
【留萌駅前バス停】あの駅はいま、どうしてる?
【留萌駅前バス停】『おみやげ処 お勝手屋 萌(もえ)』留萌の特産品を使った数量限定の名物おむすび
留萌観光協会が運営するアンテナショップ。カズノコや糠(ぬか)ニシンなど留萌の名産品をはじめ、近郊市町村の特産品が幅広くそろう。留萌産の米・ゆめぴりかを使った磯むすびも人気。
☎0164-43-1100
9:00~18:00、無休
北海道留萌市栄町3-2-13
沿岸バス幌延留萌線留萌駅前バス停から徒歩3分
取材・文=葛西麻衣子 撮影(名寄市北国博物館・宗谷岬を除く)=計良一春
『旅の手帖』2024年7月号より