一度は廃線となるも奇跡の復活を遂げた鉄道
単なる移動手段や旅の始まりの地点ではなく、それ自体が旅の目的となる鉄道・駅がある。
高千穂あまてらす鉄道は、高千穂駅から高千穂鉄橋まで、往復約5kmを30分で結ぶ観光鉄道。見た目こそかわいらしいけれど、スリル満点かつ、地元の人々の熱意と愛情が込められている。
もともとは宮崎県と熊本県を結ぶ九州横断鉄道の計画の一環で、国鉄高千穂線として開業。昭和14年(1939)に日ノ影線として延岡~日ノ影が開通。その後昭和47年に日之影~高千穂間まで延伸、名称も日ノ影線から高千穂線に改称された。
しかし、熊本側の工事で異常出水が発生し、工事は中止。1989年に旧高千穂鉄道として開業することになる。
地元住民の足として、そして観光列車としても愛されていたが、2005年9月の台風により橋梁や線路が甚大な被害を受けて廃線に。しかし沿線の有志が立ち上がり、2008年に「高千穂あまてらす鉄道」を設立。観光鉄道として復活させた。
かつての高千穂駅や線路はそのまま残されていて、どこか懐かしい気持ちになる。敷地内には、旧高千穂鉄道~高千穂あまてらす鉄道に至るまでの歴史を学べる高千穂鉄道記念資料館も。
約30分のグランド・スーパーカートの旅は絶景の連続。棚田に旧駅舎、高千穂の峰々……。途中のトンネルもイルミネーションで照らされていて、目まぐるしく変わる景色に心が躍る。
いよいよこの鉄道旅のハイライトである高千穂鉄橋へ。橋に入る前にゲートで風量を計測(一定の風速を超えると入ることができない)し、無事に通過することができた。
鉄橋からの大パノラマは最高の絶景! 途中、運転士さんがシャボン玉を飛ばす粋な演出も。乗客は総立ちで大興奮、童心に返って楽しんだ。
帰りは元来たルートを戻る。途中、学校帰りの小学生や線路際の家のおばあちゃんが手を振ってくれた。あまりにも自然な光景で、この鉄道が地元の人々に大切にされてきたんだなぁということをしみじみ実感、胸にじんときた。
高千穂あまてらす鉄道
☎0982-72-3216
9:40~15:40(1日10便、日により臨時便あり)、第3木休(祝の場合は営業し、別日に振替休。荒天時休)。
乗車料2000円、資料館入館料1000円(セット券2500円あり)
宮崎県高千穂町三田井1425-1
JR日豊本線延岡駅からバス1時間18分の高千穂駅下車、徒歩1分(高千穂駅)
列車の待ち時間さえ楽しくなる駅
宮崎県を後に向かった鹿児島県には、かつては閑散としていたが活気を取り戻しつつある駅がある。2024年3月22日にリニューアルオープンした、霧島神宮の最寄駅・霧島神宮駅だ。
小さな駅ながら、構内にはセレクトショップやガレット店を併設。内観は木のぬくもりが感じられる。
JR九州とパートナー企業が協力し、駅にあるスペースを活用&にぎわい創出する「九州 DREAM STATION」事業の一環として進められたこのリニューアルを手がけたのは、リノベーション事業などを営む鹿児島のデザイン会社・IFOO(イフー)。代表取締役の八幡(はちまん)秀樹さんは旧霧島町出身だ。
駅には随所にIFOOのこだわりが。建材として利用された杉はほとんどが県産、柱となる大木は鹿児島大学の演習林から切り出した。ガレットに使うそば粉も霧島産、IFOOの社員が一つ一つ手作りで焼き上げる。
ショップに置いてある扇子や焼き物などは、すべてが九州各地を中心に集めたものであり、オーガニッククッキーは駅舎内で職人が製造しているものだ。「手しごとを生業にしているからこそ、川上から川下まで手がけたいんです」と八幡さん。
霧島神宮駅のほど近くには『Gallery天地人』もオープン。こちらもIFOOによる、築100年以上の石蔵を利用したギャラリー。アーティストの表現の場であるとともに、朝食や喫茶が楽しめるカフェバーや、フィンランド式サウナを併設している。2025年春には、新たにレストランや宿泊施設もオープンする予定だとか。
リニューアル前は人もまばらだったという霧島神宮駅。旅人にプラスアルファの楽しみをくれる場所に生まれ変わり、さらなる進化を続けている。
Gallery天地人
☎099-813-7481
10:30~17:30(サウナは要予約)、火休
鹿児島県霧島市大窪418-3
JR日豊本線霧島神宮駅から徒歩4分
旅の締めくくりは新しいD&S列車に乗車!
南九州の旅を終え、博多に戻るのならばぜひ乗っておきたい列車がある。2024年4月にデビューしたばかりのD&S(デザイン&ストーリー)列車「かんぱち・いちろく」だ。
博多~別府間を走行し、久留米から大分を結ぶゆふ高原線(JR久大本線)の車窓風景やおもてなし、食などを思う存分に楽しむことができる。月・水・土曜運行の博多発「かんぱち」号と、 火・金・日曜運行の別府発「いちろく」号があり、今回は別府から「いちろく」号に乗車した。
車両デザインは、霧島神宮駅のリニューアルも担当したIFOO。1号車は大分・別府の火山を想起させる赤、3号車は福岡・久留米の平野や山々をイメージした緑のインテリアで、走行ルートの風土を感じさせる工夫がいたるところに。座席も2人掛け、4人掛けの半個室型のBOX席、ソファ席や畳個室などさまざまで、目的によって使い分けができる。
列車が大分駅を過ぎ、山間部に入ると食事の提供が開始。客室乗務員さんが一つ一つ、丁寧にお弁当を届けてくれた。あおさの味噌汁も注がれ、ふわりと香る磯の香りにほっとする。
料理は曜日により異なり、この日は金曜担当・大分の和食店『裏舌鼓(りぜっこ)』による二段重弁当。料理にはおおいた和牛のローストビーフ、佐伯産鮑の柔らか煮、中津綿雲豚のかわり揚げなど、地産の食材を使用している。
ここからは沿線風景も見逃せない。由布岳、伐株山(きりかぶさん)、豊後森機関庫…列車旅のハイライトとなる車窓が目白押しだ。
由布院駅では数分停車。「ゆふいんの森」と「かんぱち・いちろく」がそろった写真を撮ろうと待ち構えていたものの、位置取りを誤り見事に失敗……。すごすごと列車に戻った。徐々に晴れ間が見えてきて、旅の気分も盛り上がる。
そして列車は最初のおもてなし駅・天ケ瀬(あまがせ)に到着。歌とギター演奏に出迎えられ、ホームへ。
天ヶ瀬温泉の湯みくじ、温泉卵、新米と名産品が盛りだくさんで目移りしてしまう。「また来てね~」と、最後は温かく見送ってくれた。
山間部を過ぎ、住宅地もちらほらと見え始めた頃、二つ目のおもてなし駅・うきはへ。「フルーツ王国うきは」の名にふさわしく、旬の果物が並ぶ。
ほかにも、うきは市のやきもの「一の瀬焼」のガチャガチャや、市唯一の酒蔵「いそのさわ」の日本酒などお土産がたくさん! 跨線橋からの眺めも風情がある。
旅の締めくくりは、2号車「ラウンジ杉」で「五感イベント」を体験。思い出を振り返りつつ、オリジナルの金平糖が配られた。ちょっとした心配りがうれしい。
約5時間の列車旅はあっという間に終了。客室乗務員さんに見送られ、名残惜しくも博多で下車した。
「かんぱち・いちろく」
●運転日/ 【特急「かんぱち」号】月・水・土、 【特急「いちろく」号】火・金・日
● 運転区間/ 【特急「かんぱち」号】鹿児島本線・久大本線・日豊本線 博多~由布院・大分・別府間、 【特急「いちろく」号】日豊本線・久大本線・鹿児島本線 別府・大分・由布院~久留米・博多間
● ねだん/ソファ席・BOX 席1万8000円、畳個室2万3000円(各席に定員と使用可能人数あり。2名掛けのBOX席を1名で利用時は+1万3000円) ※JR券(片道)+食事を含む(2024年12月現在)。
● 発売箇所/かんぱち・いちろく専用ホームページ(乗車日の5日前までに要予約)、主な旅行会社
●問い合わせ/かんぱち・いちろくお問合せ窓口☎092-474-2217
●かんぱち・いちろく専用ホームページ/https://www.jrkyushu-kanpachiichiroku.jp/
南九州には地域に根ざした観光列車がまだまだあるほか、往時の姿をいまに留めたなつかしい駅舎などが数多く残っている。それはきっと地元の人々が大切に守り、そして育ててきたからなのだろう。
今度はおトクなきっぷを使って、肥薩線の木造駅舎をめぐる旅をしようか、D&S列車を乗りつくそうか……。まだまだ楽しみは尽きない。
南九州 DE 超回復~HEALING JOURNEY in 熊本・宮崎・鹿児島~ 開催中!
九州南部3県では「南九州 DE 超回復~HEALING JOURNEY in 熊本・宮崎・鹿児島~」を3月31日まで開催中。
期間中は、JR九州アプリから参加できるチェックインラリーやInstagramのキャンペーン、おトクなきっぷに、割引レンタカープランなど、うれしい企画が盛りだくさん。心と体を癒しに、南九州へ旅をしよう!
●南九州 DE 超回復の概要はこちら
https://www.jrkyushu.co.jp/train/cho-kaifuku/
南九州までどうやって行く? どうやって旅する?
山陽九州新幹線「みずほ」を利用すると、新大阪~熊本間が最速2時間58分!
またキャンペーンにあたり、熊本県・宮崎県・鹿児島県の周遊に便利な「南九州 DE 超回復!きっぷ」も発売中。対象エリアの新幹線、特急列車、普通・快速列車の普通車自由席に連続する3日間乗り降り自由で1万5000円と、破格のおねだんだ。
「南九州 DE 超回復!きっぷ」を持っているとB&Sみやざき号がおトクに利用できる「B&Sみやざききっぷ」もあわせて発売。ぜひ鉄道を組み合わせて、旅行の計画を練ってみよう。
取材・文・写真=『旅の手帖』編集部 協力=九州観光機構