地球環境を守るためには何かを強いられたり、ガマンをしたり、そんなイメージがありませんか? でも「サステナブル」って意外とシンプル。地産地消だって、公共交通機関を使うことだって、環境意識の高い宿に泊まることだってサステナブル。そんなサステナブルなスイスの旅、秋編を5回にわけて案内します。今回の旅の舞台はスイス南西部に位置し、“アルプスの心臓部”ともいわれるヴァレー州。マッターホルンをはじめとした4000m級の名峰群、山間に延びる谷や氷河、山の斜面に続くブドウ畑など、幅広い景観が売りのエリアです。
秋は新酒の季節。毎年「ボジョレー・ヌーボー」の解禁が話題になりますが、スイスの秋もワインで盛り上がります。そんなスイスワインの生産量トップを誇るのが、ヴァレー州。晴天率が高く、乾燥した気候と土壌がワイン造りに適した地域で、ローヌ川が流れるローヌ谷の両側に広がる山の急斜面や麓の丘を利用して、ブドウが作られています。スイスワインの魅力にふれながら、自然に囲まれた贅沢で親密な滞在を楽しめる宿泊体験「グレープ・エスケープ」をしてきました。
前回、ワインの旅をしたヴァレー州のローヌ谷。シエールやロイクからさらに東へ行った谷上にある、テラス状の高原はアレッチ地方と呼ばれ、西側からリーダーアルプ、ベットマーアルプ、フィーシャーアルプの3つの拠点があります。真ん中のベットマーアルプを起点に、秋色ハイキングへと出発!
スイスにも温泉があるって知っていますか?日本人にはあまりなじみがないけれど、ヨーロッパではよく知られ、古くはローマ時代から発展してきた温泉も。それもそのはず、スイスは国土のほとんどが山脈なので、温泉や鉱泉に恵まれているのです。ヴァレー州にある名湯は、圧倒的な湯量を誇るロイカーバート。アルプス最大の温泉リゾートで、ドキドキの湯浴みとハイキングを!
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湖畔の町・グヴァットに泊まる

(C)Deltapark Vitalresort
(C)Deltapark Vitalresort

日本からの飛行機がチューリヒ空港に到着するのは、現地時間で18時30分頃。その日のうちにヴァレー州に行くことはできないので、チューリヒに泊まる人も多いだろう。でも鉄道で素早く移動し、トゥーン湖畔に泊まるという選択肢もある。

今宵の宿は、湖畔の町・グヴァットにある『ホテル・デルタパーク・ヴィタルリゾート』。

ここの魅力は、なんといっても湖の向こうに望むベルナーアルプスの山々。そして周りが静かなうえに、敷地内からトゥーン湖を周遊する船に乗れること。

レイクビューの部屋のテラスからは庭園とトゥーン湖を一望でき、ルーフトップテラスからは湖はもちろん、逆サイドにはシュトックホルンやニーゼンの姿も。

この日は本館にあるレイクビューの部屋に泊まる。スパにはサウナや岩盤浴もあり、本館でも十分優雅な時間を過ごせるが、もっと特別な体験をしたければ、ヴィラを予約してみては。

レイクビューの部屋がおすすめ。(C)Deltapark Vitalresort
レイクビューの部屋がおすすめ。(C)Deltapark Vitalresort
バスタブのある部屋も。
バスタブのある部屋も。
シュレックホルン(画面中央)が望めるルーフトップテラス。(C)Deltapark Vitalresort
シュレックホルン(画面中央)が望めるルーフトップテラス。(C)Deltapark Vitalresort
朝食はビュッフェ。
朝食はビュッフェ。

とにかく素敵らしいと噂のヴィラを、副支配人のルドルフさんに案内してもらう。

船をイメージした造りのヴィラは5棟あり、車で乗りつけられるようになっている。中に入ると、丸い窓やライトなどが客船を思わせ、階段を上ればキッチンと開放的なリビングが。その先につながるウッドデッキの奥には、緑のトゥーン湖が広がる。

一番すごいのは、ここから小型の船でそのまま湖に出られること。京都・伊根の舟屋のようにヴィラの下が船のガレージになっていて、湖につながっているのだ。そして、船舶免許がなくても運転できるという。なんというプライベート感! 家族との記念日などに訪れたい。

海に浮かぶ船のよう。(C)Deltapark Vitalresort
海に浮かぶ船のよう。(C)Deltapark Vitalresort
広々としたリビング。(C)Deltapark Vitalresort
広々としたリビング。(C)Deltapark Vitalresort
ウッドデッキでご飯を食べるのもよし。(C)Deltapark Vitalresort
ウッドデッキでご飯を食べるのもよし。(C)Deltapark Vitalresort
落ち着いたトーンの客室。(C)Deltapark Vitalresort
落ち着いたトーンの客室。(C)Deltapark Vitalresort
小船でトゥーン湖へダイレクトに出られる。(C)Deltapark Vitalresort
小船でトゥーン湖へダイレクトに出られる。(C)Deltapark Vitalresort

『ホテル・デルタパーク・ヴィタルリゾート』
●トゥーン駅からバス12分のGwatt Deltapark下車、徒歩6分
www.myswitzerland.com/ja/accommodations/deltapark-vitalresort/

ホテルからシュピーツへクルーズ!

翌日は、敷地内の桟橋から湖船でシュピーツへ向かう。一日1便だが、ホテルの桟橋に船が寄ってくれる。

トゥーン湖では、クラシカルな外輪蒸気船「ブリュムリサルプ」を含む9艘の大型船が運航しており、「スイストラベルパス」で乗船できる。

目指すシュピーツ城の立地からいくと、船でアクセスするのがベスト。城が湖畔に立つのは、かつては港が玄関だったから。湖船は鉄道よりも歴史が古い。

甲板で風を感じている人、風景撮影に夢中な人、船内で食事やお茶を楽しむ人。それぞれに船旅のカタチがある。

出発から25分ほど。船がスピードを落とし、丘の斜面にブドウ畑とその横に城と教会の塔が見えてきたところで、シュピーツ港に到着した。

港が玄関だったことがよくわかる。
港が玄関だったことがよくわかる。

シュピーツ~“お城のワイン”とお気に入りになった教会

さっそく、町のランドマーク・シュピーツ城へ。933年に建てられたこの城は、ハプスブルク家のほか、めまぐるしく領主が変わるなか、何度かの改修、拡張を経て現在に至る。

外観に派手さはなく、むしろ質素なかんじ。ミュージアムになっている内部は、貴族の家族が住んでいた(最後に住んだ貴族は36人も子どもがいたとか!)こともあり、装飾が凝っている。扉にしても壁にしても、いちいち芸が細かいのだ。

左の塔に上れる。
左の塔に上れる。
城の中には、舞踏会ができそうなホールも。
城の中には、舞踏会ができそうなホールも。
窓の外の紅葉がきれい。
窓の外の紅葉がきれい。
手の込んだ扉。
手の込んだ扉。
壁の隅にかわいい花の絵が。
壁の隅にかわいい花の絵が。

塔の見学を終えたら、背後に広がるブドウ畑へと上る。少し上に行くと、色づいた段々畑のようなブドウ畑にシュピーツ城、碧(あお)い水を湛えた湖……。離れたくなくなるような風景がそこにあった。

スイスは面積が狭く、フランスのように広大な土地を使えない。そのため、ブドウ畑は平地ではなく斜面などに作られている。さらに機械が入れないため、手作業というところも多い。

なんとシュピーツ城にはワイナリーがあり、ここでしか飲めないワインを造っている。ブドウ畑から戻り、併設のカフェで“お城のワイン”を堪能。まさに地産地消だ。

●シュピーツのブドウ畑ハイキング:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/spiez-vineyard-trail/

城の裏を少し上れば、うっとりの景色。
城の裏を少し上れば、うっとりの景色。
収穫前のブドウが残っていた。
収穫前のブドウが残っていた。
カフェでいただいたのは城で造られた、シュピーツ産リースリング・シルヴァナー種の白ワイン。
カフェでいただいたのは城で造られた、シュピーツ産リースリング・シルヴァナー種の白ワイン。
ミュージアムショップで“お城のワイン”「Spiezer(シュピーツァー)」が購入できる。
ミュージアムショップで“お城のワイン”「Spiezer(シュピーツァー)」が購入できる。

城前の広場の先には教会もある。とにかくシンプルで素朴な造りなのだが、どこか温かさもあり、天井のフラスコ画が印象的。ここが私のお気に入りの教会になった。

派手な装飾がないのがいい。入口側にはパイプオルガンがある。
派手な装飾がないのがいい。入口側にはパイプオルガンがある。

シュピーツ城
●シュピーツ港から徒歩5分。シュピーツ駅から徒歩15分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/spiez-castle/

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湖畔の城を眺めながらトゥーンへ

内部も公開しているオーバーホーヘン城(冬期は休館)。
内部も公開しているオーバーホーヘン城(冬期は休館)。

シュピーツ港に戻り、トゥーンへ向かう湖船に乗り込む。インターラーケン・ウエスト行きほどではないが、トゥーン行きも混んでいる。

甲板のベンチに座り、再びの50分ほどのクルーズに出発!

トゥーン湖畔には城が多く、湖の東側にはオーバーホーヘン城ヒューネッグ城などが見える。遠くにあったトゥーン城も近づいてきた。船はシャダウ城の脇を入って、トゥーン駅前へと滑り込む。

湖船の乗り場は本当に駅の目の前。鉄道だったら、あっという間に通り過ぎてしまうトゥーン湖畔を、わざわざ時間をかけて船でめぐる。なんて贅沢な時間だろう。

●トゥーン湖クルーズ:https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/lake-thun-cruise/

森に囲まれたヒューネッグ城。
森に囲まれたヒューネッグ城。
レストラン利用や宿泊もできるシャダウ城。
レストラン利用や宿泊もできるシャダウ城。

トゥーン~国定重要文化財(国宝)の城と二段の道を歩く

トゥーンといえば、首都・ベルンの町を築いたことで知られるツェーリンゲン公が、12世紀末に造った美しい町。旧市街の町並みも気になるが、まずは高台になるトゥーン城へ。

5階建ての建物は、1888年から博物館になっており、先史時代から19世紀までの約4000年にわたる幅広いコレクションを展示している。

塔に上ってみると、ベルナーアルプスの山々、トゥーン湖、そして町並みを見渡せた。周りの木々も紅葉していて、ため息が出るような美しさ。

4つの塔をもつトゥーン城(画面左)は国宝。二段構造の旧市街も見える。
4つの塔をもつトゥーン城(画面左)は国宝。二段構造の旧市街も見える。
塔の上から。
塔の上から。

木製の屋根がある石段を下りると、大通りに出る。ここが二段構造といわれる道だ。

通り沿いに並ぶ建物の2階のテラス部分が上の道になっており、下の道とあわせて二段の道は、市庁舎のある広場まで続く。建物にはかつてのお店の看板が残っていたりして、それらを探しながらのぶらり町歩きが楽しい。

ターコイズグリーンのアーレ川に出ると、川沿いにはレストランやカフェが並び、多くの人でにぎわっている。水位を調整する水門には、大きな波に乗るサーファーの姿も!

19世紀のドイツを代表する作曲家・ブラームスもこの町がとても気に入り、夏にここに滞在しながら数々の名曲を残した。

 

木製の屋根がついた石段は、日本の寺院の回廊を彷彿(ほうふつ)とさせる。
木製の屋根がついた石段は、日本の寺院の回廊を彷彿(ほうふつ)とさせる。
ショッピングも楽しめる二段の道。
ショッピングも楽しめる二段の道。
石畳にはツェーリンゲン家の紋章が。
石畳にはツェーリンゲン家の紋章が。
市庁舎広場でのひとコマ。
市庁舎広場でのひとコマ。
かわいい町並みのアーレ川沿い。後ろはトゥーン城。
かわいい町並みのアーレ川沿い。後ろはトゥーン城。

トゥーン城
●トゥーン港・トゥーン駅から徒歩12分
https://www.myswitzerland.com/ja/experiences/thun-castle/

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サステナブルな旅に必携! スイストラベルパス

主な鉄道、バス、湖船、都市交通が乗り放題で利用できる「スイストラベルパス」を手に入れよう。サステナブルな旅には欠かせない。

主要都市の市内交通や全国約500カ所の美術館・博物館が無料になるほか、山岳交通の半額割引などの特典も付く。3・4・6・8・15日間と5種あり、予定に合わせて選べる。
https://www.myswitzerland.com/ja/planning/transport/tickets-public-transport/swiss-travel-pass/

【Information】日本からスイスへは

成田~チューリヒ間を約14時間で結ぶ、スイス インターナショナル エアラインズの直行便が週5便運航している。
[気候]春・秋は8~15度、夏は18~28度、冬は-2~7度。山岳地帯と麓の村では温度差があり、日中と朝晩の気温差も激しいので、レイヤード(重ね着)が基本。着脱しやすい服装を準備したい
[時差]日本の-8時間(夏は-7時間)
[言語]ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4言語(地域により異なる)。ホテルやお店では英語が通じる
[スイスの情報]https://www.myswitzerland.com/ja/

取材・文・撮影=『旅の手帖』編集部 協力=スイス政府観光局、スイス インターナショナル エアラインズ、スイストラベルシステム

旅のテーマは「サステナブル」。地球環境を守るためには何かを強いられたり、ガマンをしたり、そんなイメージがありませんか? でもサステナブルって、そんなに構えることじゃないんです。地産地消だって、公共交通機関を使うことだって、環境意識の高い宿に泊まることだってサステナブル。そんなサステナブルなスイス2週間の旅を4回にわけて案内します。
サステナブルなスイス2週間の旅の2回目。アルプスの氷河をあらゆる場所から楽しみ、旅人憧れのマッターホルンを擁する村・ツェルマットまで。絶景の連続にため息がこぼれます。眼福の旅の後半へ出発!
人気の絶景路線「グレッシャー・エクスプレス(氷河特急)」に乗ると20分ほどで行けるのだが、約2時間かけてもわざわざ乗りたい列車がある。それは、6月下旬~10月初旬に特別運転される「フルカ山岳蒸気鉄道」。子どもよりも大人のほうが楽しんでいる? サステナブルなスイス2週間の旅、はみだしの3回目に出発~!
スイスに行ったなら、とにかく大自然にふれたい。それには歩くのが一番! さすがの観光大国、総延長5万㎞以上ものハイキングコースが整備されている。かなりの高所でも、鉄道やロープウェイがあるので、体力や時間に合わせて自分のペースで楽しめるのがうれしい。この旅では、比較的楽に歩けるコースを10カ所ほど回ったが、厳選の4コース+おまけをプレイバック! サステナブルなスイス2週間の旅、最終回です。