吉祥寺駅から徒歩1分。カウンター8席なので行列必至
JR吉祥寺駅公園口を出ると「バスが来ますので、道を開けてくださ〜い」と大きな拡声器の声。一方通行でそれほど広くない道幅に、「通れるの?」と心配になるくらいギリギリをバスが行き過ぎていく。駅前の通り一帯はカフェやパチンコ、飲み屋など店がずらり。バスを避けながらもたくさんの人がごちゃごちゃと歩く、パワフルでにぎやかな繁華街にちょっとわくわくする。やっぱり吉祥寺は魅力的な街だな。
目の前はごちゃごちゃ繁華街だが、店内はすーっと静かな雰囲気。8席のカウンターのみと狭いものの、店名が染め抜かれた白い暖簾や照明など、ちょっとした和食料理店の風情がある。
鴨も鶏も小麦粉も。こだわりの素材を無化調で
メニューはスープによって、大きく2つに分けることができる。鴨ロース麺や中華そばは、鴨の胴ガラと鳥取県のブランド鶏・大山(だいせん)どりの丸鶏をじっくり炊き上げた濃厚なスープ。醤油そばと塩そばは、炭火で焼いたアジの煮干しで取る淡麗なスープだ。
麺もスープに合わせて2種類。麺の太さだけでなく、厳選した小麦粉や全粒粉の配合をスープに合わせたオリジナル麺は、はっきりとわかるほど色にも違いがある。
とくにこだわりを感じたのが、鴨ロース麺にトッピングされる鴨ロース。鴨の胸肉の中でも最高級といわれる「マグレ・ド・カナール」を炭火で焼き、低温調理して提供するという手間のかかった一品だ。
「すべて無化調なので、食材には手を抜けません」と店長の菅野さんは話す。
鴨の旨味が凝縮。和食としてのうまさを感じる
ふわんとおいしそうな醤油の香り。透き通ったスープが映える真っ白な器に、鴨ロース、焼いた九条ネギ、刻みタマネギがトッピングされている。
スープは見た目以上に濃厚で芳醇。パンチのある鴨出汁と、鶏の旨味を存分に楽しめる。塩味の少ないまろやかな醤油の風味と相まって、ついついスープを飲んでしまう。ラーメンのスープというより、そばの出汁に近い感じだ。
全粒粉を配合したストレート細麺はコシが強く、しっとりした口当たり。スープがよくしみ込むので、麺と出汁の一体感もいい。細すぎず、太すぎず、スープとのフィット感が抜群の麺は、オリジナルならではだ。
特筆すべきは鴨ロースのおいしさだ。噛むほどに感じる鴨肉の深い旨味に加え、炭火焼きの香ばしさと繊細な甘い脂が見事に調和している。刻みタマネギのシャリッとした食感もいいアクセントだ。スープには鴨の脂や炭火焼きの風味が徐々に溶け込み、食べすすめると味が変化していく。気づくとすっかり食べ終わっていた。さらっと食べるにはちょうどいい分量とバランスで、女性客が多いのも頷ける。
刺し身と合うのも納得。新しいスタイルのラーメン
大盛の設定がないため、少し物足りない…と思うなら、100円で替え玉するのもいい。ライス150円、奥久慈卵のたまごかけご飯250円をオーダーするのもアリだが、店のおすすめは「魚屋三代目のたたきサーモン丼」350円だ。
ふつうのラーメンだったら「刺し身?!」と驚くところだ。しかし、刺し身の丼に付いてくる吸い物の代わりがこのラーメンだと考えてみると、確実に合うと感じた。
毎日食べられるようなおいしさと安心感があり、日本食とラーメンの新しい関係も提案する。今後も目が離せない店だ。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ