今回めぐる四つの町はこちら!
【鹿島市】潮風薫る白壁づくりの醸造町へ
酒好きにはもはや常識だろうが、焼酎のイメージが強い九州にあって佐賀は生粋の日本酒県である。世界的な品評会で受賞経験をもつ蔵元も多い実力派ぞろい。
そんな佐賀の酒の歴史は古く、鎌倉時代の文献に「肥前(ひぜん)酒」と名を記す。花開いたのは江戸時代末期。第10代鍋島藩藩主・鍋島直正が余剰米を活用して酒造りを推奨したことによる。もちろん、酒造りに欠かせない米と水が豊富だったことは言うまでもない。現在も人口に対する造り酒屋の数は全国有数で、「乾杯は佐賀の日本酒で」という県の条例もあるほどだ。
旅の始まりは県の南西部、有明海に臨む鹿島から。県下一の酒処らしく、駅に降り立つとすぐに地酒が楽しめる魅惑の町である。
「ここは多良岳(たらだけ)山系の伏流水と白石平野の米に加え、有明海の海運ルートが整っとったけん、酒文化が栄えたとよ」と教えてくれたのは、肥前浜宿水とまちなみの会専務理事の中村雄一郎さん。
同会は、長崎街道の宿場町・肥前浜宿で行われる「鹿島酒蔵ツーリズム」をはじめ、日本酒と酒蔵によるまちづくりに取り組んでいて、肥前浜駅直結の『HAMA BAR』もその一つ。地元の酒が気軽に味わえる場所を作りたいと、人と人、地元民と観光客が交わる駅に店をオープンさせた。鹿島にある5つの蔵の酒がずらりと一堂に会する。ここで自分のお気に入りを見つけて蔵元を訪ねるのもいい。
肥前浜駅から車で3分、30を超える品評会受賞歴を誇る『幸姫(さちひめ)酒造』。20年以上も前にまだ一般的ではなかった酒蔵見学を始めたり、女性や子どもにも日本酒を身近に感じてもらえるよう地酒ソフトを開発したりと、革新的な蔵元である。
そのDNAは現杜氏(とうじ)である5代目にも受け継がれ、甘みと旨味は濃くもちつつも、世界に目を向けたフレッシュな独自の味わいを追求している。
日本初、駅ホーム直結の日本酒バー『HAMA BAR』
改札を通らずとも駅ホームから直接アクセスできる、肥前浜駅併設のバー。鹿島市にある5蔵の25銘柄以上がそろう。飲み比べ3種1000円〜のほか、一杯飲み500円〜も可能。「ひやおろし」や「あらばしり」など、季節限定酒も。
☎0954-60-4160
11:30~16:30(金~日は18:00~21:00も営業)、不定休
佐賀県鹿島市浜町933
JR長崎本線肥前浜駅直結
世界へ発信する鹿島の伝統酒『幸姫酒造』
有明海で赤貝の養殖を営んでいた家が昭和9年(1934)に創業した酒蔵。日本三大稲荷の一つ、祐徳稲荷神社の御神酒(おみき)も手がける。5代目が醸す酒は肉料理とも相性がよく、海外ファンも多い。酒蔵見学は通年、1名から受け入れてくれる。
☎0954-63-3708
9:00~11:30・13:15~16:00、無休。酒蔵見学は無料(要予約)
佐賀県鹿島市古枝甲599
JR長崎本線肥前浜駅から車3分
【2025年3月22日(土)・23日(日)開催!】鹿島酒蔵ツーリズム(R) 2025
肥前浜宿を中心に開催される鹿島市内5蔵合同の蔵開きイベント。酒蔵をめぐり、蔵人とふれあいながらお酒を楽しめる。各蔵元や嬉野で同時開催の「嬉野温泉酒蔵まつり」会場を結ぶ無料シャトルバスも運行。
☎0954-63-3412(鹿島酒蔵ツーリズム推進協議会)
https://sakagura-tourism.com/
協力金20歳以上1名500円
鹿島市一円で開催
【嬉野市】美肌の湯とともに酒も愛されてきた町
“独自”といえば、日本三大美肌の湯で知られる嬉野温泉、その中心部に構える『井手酒造』もそう。茶の産地でもある嬉野らしく、杜氏を含め、蔵人はすべて茶農家だという。
「冬になると茶農家さんが泊まり込んでお酒を造る風景は、私が子どもの頃から何も変わりません。とにかくチームワークがいいですね。うちは特にむかしながらの手造りですから、みんなの阿吽(あうん)の呼吸がおいしさを支えています」と、6代目の東(あずま)敦子さん。
先にも述べたが、直売所を併設する蔵は温泉街のど真ん中。美肌の湯や肥前吉田焼など、嬉野のお楽しみもあわせて、長崎街道の湯宿であった町を堪能したい。
嬉野らしさが凝縮された一滴『井手酒造』
蔵人全員茶農家で、蔵内に温泉を引いているという、嬉野ならではの酒蔵。米を洗うところから瓶詰め、ラベル貼りまで、むかしからの手作業で生まれる酒の大半は地元で消費され、県外に出回ることはほぼない。
☎0954-43-0001
9:00~18:00、日休
佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙806-1
西九州新幹線嬉野温泉駅から車5分
遊びごころあふれる肥前吉田焼『224 shop+saryo(サリョウ)』
肥前吉田焼生まれの磁器ブランド「224porcelain(ポーセリン)」の直営店。プロダクトデザイナーと作り手がタッグを組む作品は、個性が光るデザインだ。晟土(せいど)シリーズは焼く回数を減らしたサステナブルな新作。
☎0954-43-1220
10:00~12:00・13:00~16:00(土・日・祝日は10:00~18:00)、水休
佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙909-1
西九州新幹線嬉野温泉駅から車6分
日本三大美肌の湯の実力を知る『嬉泉館(きせんかん)』
自家源泉を有し、源泉かけ流しで提供する嬉野温泉の宿。ナトリウム-炭酸水素塩泉ならではのとろりとした浴感で、湯上がり肌はしっとり。その湯に惚れ込み、温泉化粧水を作りたいと化粧品会社から懇願されたという。
☎0954-43-0665
1泊2食1万4450円〜
日帰り入浴は10:30~21:00、不定休。700円
部屋数:7室
泉質:ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙2202-18
西九州新幹線嬉野温泉駅から車6分
【2025年3月22日(土)・23日(日)開催!】嬉野温泉酒蔵まつり
嬉野温泉街の『井手酒造』をはじめ、嬉野市内にある蔵元で開催される蔵開きイベント。新酒の試飲ができるほか、毎年人気の酒蔵まつり限定の3蔵セットの販売も。「鹿島酒蔵ツーリズム」と同時開催。
☎0954-43-0137(うれしの酒蔵めぐり協議会)
https://spa-u.net/facility/2017/06/post-14.php
協力金20歳以上1名300円
嬉野市一円で開催
【太良町】うまい酒とともに干満差が生み出す絶品海の幸とあったか温泉を
江戸時代、海運ルートとして使われた有明海は、いまも酒文化の発展を担う重要な存在だ。栄養豊富な干潟で育まれた魚介は、なじみの食材でも旨味が濃く、ここだけの珍味もあり佐賀の酒によく合う。
とあらば楽しまねば。かつての街道沿いに湧く温泉とともにたっぷりと。
たら竹崎温泉には「竹崎かにと日本酒の宿」と銘打つ、うってつけの宿がある。有明海で育つ“竹崎かに”のプロと日本酒のプロ、そしてもてなしのプロ、親子3人が出迎える『竹崎かにと日本酒の宿 鶴荘』だ。ウェルカム日本酒に始まり佐賀の酒が堪能できるとあって、全国の酒好きを虜(とりこ)にしている。
酒好きにはたまらない海辺の宿『竹崎かにと日本酒の宿 鶴荘』
酔いどれ覚悟でどうぞ。なにせ、佐賀日本酒界の要人である若旦那厳選の地酒がそろう宿。16種飲み放題のおともには、有明海に生息するワタリガニの一種、竹崎かにも待つ。熟練の技で茹で上げるそれは、カニの概念を覆すうまさだ。
☎0954-68-2758
1泊2食1万9800円〜
部屋数:14室
泉質:ナトリウム-炭酸水素塩泉
佐賀県太良町大浦丙928
JR長崎本線肥前大浦駅から車6分(送迎あり、要予約)
【武雄市】器も素材もとことんこだわる心遣いにうっとり
西九州新幹線の開業でにぎわう武雄温泉もいい。宮本武蔵やシーボルトなど名だたる人物が訪れた歴史ある温泉地だ。参勤交代の脇本陣だった『湯本荘 東洋館』では、おもてなしの真髄を体感したい。県内外にファンをもつ『あん梅(ばい)』も訪れるべき名店だ。
温泉宿で佐賀の歴史と文化にふれる『湯本荘 東洋館』
武雄のシンボル、楼門の前に佇む。創業400年を誇り、宮本武蔵ゆかりの宿としても知られる。有田焼や唐津焼、武雄焼が並ぶ展示室をはじめ、佐賀らしさが随所に。佐賀の焼き物で供される夕食もしかり。地元食材をふんだんに使った会席料理は佐賀の酒によく合う。
☎0954-22-2191
1泊2食1万7600円〜
部屋数:21室
泉質:アルカリ性単純温泉
佐賀県武雄市武雄町武雄7408
西九州新幹線武雄温泉駅から徒歩10分
有明海と玄界灘からの魚介をたっぷりと『あん梅』
その日の旬な食材や、お客さんの目的などに合わせてメニューを決める料理店。例えば女性2人旅なら、佐賀の幸や華やかな土鍋ご飯(要予約)が並ぶ。佐賀の地酒を中心に種類豊富な日本酒を用意。有田焼や唐津焼のお猪口を選ぶこともできる。
☎0954-23-5617
18:00~22:00、日休
佐賀県武雄市武雄町富岡7751-31
西九州新幹線武雄温泉駅から徒歩7分
終始ふわふわ夢心地だった今回の旅。杯が進みすぎたのは酒と肴(さかな)のうまさだけが理由ではない。長崎街道の宿場町として人々を受け入れてきた土地柄か、人の温かさがなんとも心地よかったのだ。
「旅先の印象を決めるのは結局、人やもんね」と話す『あん梅』の大将の言葉に深くうなずいてしまった。
【Information】佐賀の魅力、観光情報をもっと知りたい方はこちら!
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●あそぼーさが
https://www.asobo-saga.jp/
取材・文=宮﨑由希子(aun) 撮影=草野清一郎 協力=佐賀県観光連盟
『旅の手帖』2025年2月号より