島根の文化が詰まっている
清らかな玉湯川のほとりにある『界 玉造』。「界」は星野リゾートが全国23カ所に展開する温泉旅館ブランドの一つだ。
館内に太鼓橋が設けられ、窓ごしの日本庭園にほっとする。廊下には青めのう、鉄の行燈(あんどん)など地元の伝統工芸品が置かれ、島根の風情が感じられる。
玉造温泉は約1300年前の『出雲国風土記』に「一度入浴すれば肌が若返り、二度入れば病も治る」と記述された名湯。さっそく大浴場に入ると、やわらかな湯に体が包まれていく。
スタッフから「日本酒パック」ができると聞き、試してみることに。温泉と日本酒を枡に入れ、浸したシートで顔を覆うこと10分。お酒の栄養が顔に浸透するようで気持ちがいい。
島根の地酒がそこここに
夕食は「タグ付き活松葉蟹(かつまつばがに)会席」。カニ料理一品ずつに合う島根のお酒が供される、日本酒ペアリングを初体験。お酒が料理の味を引き立てる。
島根は日本酒発祥の地とされ、酒蔵も多い。館内の「日本酒BAR」では、島根の地酒40種類以上が味わえる。出雲神話で八岐大蛇(やまたのおろち)を酔わせた「八塩折(やしおり)の酒」を再現したというお酒をいただく。仕込み水の代わりに醸した酒で酒を仕込む「再仕込」を重ねたもの。強い甘みとコクのある独特の風味がクセになりそう。
この八岐大蛇が登場する石見神楽(いわみかぐら)「大蛇」が、館内で毎夜演じられる。八塩折の酒で酔ったとはいえ、素戔嗚尊(すさのおのみこと)に猛攻する大蛇の動きは迫力満点だ。
温泉と酒蔵の幸せな組み合わせ
客室に戻り、今度は部屋の露天風呂で再び温泉に浸かる。『界 玉造』は全客室が露天風呂付き。
売店で購入した浴用の日本酒を湯船に注ぎ、酒風呂に。お酒の香りがふわっと漂うなかでの湯浴みに「あ~幸せ」と思わずつぶやいた。飲んでよし、浸かってよしの日本酒。明日は地元の酒蔵に行ってみることにしよう。
伝統の湯で肌と心を潤して
温泉の泉質はナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉。大浴場や露天風呂はもちろん、客室露天風呂でも存分に湯浴みできる。肌がしっとりする温泉に浸かって、空を眺められ快適。
「温泉いろは」を学び、入浴効果をアップ!
定番から希少酒まで! 地酒をたっぷり
約30の酒蔵がある酒処・島根。「日本酒BAR」(予約制)では、個性的な島根のお酒を県内の窯元の酒器で味わえる。日本酒3種とおつまみ1000円、希少な八塩折の酒とおつまみ1000円。
蔵元で見学や特別試飲、宿では酒造り体操を
ご当地文化体験「手業(てわざ)のひととき」では、酒造り最盛期の酒蔵を訪ね、見学や特別試飲が楽しめる。2025年2月1日~3月31日の火・水曜。1名1万円。14日前までに要予約。
出雲国の伝説が大迫力の「神楽」に蘇る
島根の伝統芸能「石見神楽」を毎日21時15分から上演(約20分)。指導者から教えを受けたスタッフが、演目「大蛇」を熱演する。冬は、出雲の雪景色のなかの見事な剣さばきが見られて圧巻だ。
取材・文=福島恵美 撮影=中野一行 協力=界 玉造
『旅の手帖』2025年3月号より