『町田忍の手描き看板百景  ―美あり珍あり昭和あり―』

古くて新しい、目の付けどころ

文・写真 町田 忍/東海教育研究所/2200 円+税

どんな些細(ささい)なことでも、ふとしたきっかけで面白く感じられることがある。
私は今まで、出身地である茨城県北部の街並みがどうにも苦手だった。シャッターの下りた電器屋、錆びて文字の読めない広告看板、黄ばんだ暖簾(のれん)のかかった食堂……。4年前の上京の際には「こんな古臭い街、もうイヤ!」と、半ば逃げ出す気持ちでふるさとを飛び出した。でも今は違う。一度離れて見直してみると、寂れた風景の中にある“営みの名残り”こそ、東京にない、この街の魅力だと気づいた。
本書の著者・町田忍氏もそんな、意外なきっかけによってモノの見方が変わったという。なんでも学生時代ヨーロッパを流浪した経験から、逆に日本の街並みに引かれるようになったのだとか。目を付けたのは、街並みにあふれる「手描き看板」。乱雑に設置されていることも多い看板や交通表示が「アート」とは、日がな近所を散歩している私にとってはなかなか驚きだ。「噛めば噛むほど味が出る『するめフレーズ看板』」、「錆すらもアート⁉ 『美的風化看板』」など、その切り口は多彩。個人的に気に入ったのは「あなたは誰? それは何? 『キャラ&モチーフ看板』」。焼き肉専門店の手描き看板では、筋肉ムキムキの牛がガッツポーズ。ほかにも、勢いよく描かれた動物や商品に、思わず笑ってしまうものばかり。
そういえば、家の近所にも気になる看板があったかも……なんて考えもあれこれ浮かぶ。街の意外な部分を切り抜いた本書を読めば、あなたもモノの見方が変わるかも。(田代)

『東京「街角」地質学』

西本昌司 著/イースト・プレス/1800 円+税

“街角地質学者”の著者が、「石」に注目して東京の街の物語を掘り起こす。渋谷駅のハチ公像の台座(!)やモヤイ像、池袋駅の「いけふくろう」など、おなじみの駅の待ち合わせスポットも登場するが、地球の歴史が凝縮され、遠い地から運ばれてきた石の正体を知ると、たまには背を向けず、向き合ってみたい気持ちになる。(渡邉)

『降りて、見て、歩いて、調べた 山手線30駅』

鼠入昌史 著/イカロス出版/1200円+税

山手線30駅の駅周辺、街の歴史などを、私的な観点を交えながら紹介する各駅旅ガイド。著者は宮脇俊三の言葉を借りて「山手線に乗りたくて乗る人はいない」と書くが、各紹介文には、山手線の駅を歩き回った著者自身の鉄道や東京の街への思いがにじむ。個人的には大塚駅紹介文での取材の思い出が印象に残った。(土屋)

『江戸の祭礼』

岸川雅範 著/角川選書/1700円+税

江戸から現代にかけて、祭礼はどのように変化したのか。神田神社の権禰宜である著者が、神田祭や秋葉原を中心に変遷をまとめ分析した一冊。神輿を担ぐ祭風景が実は近代以降に創造されたものであるなど、「伝統」の姿が次々と明らかになり興味深い。受け継がれ更新されていく祭礼は、東京の象徴なのかもしれない。(町田)

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。