ノミネート全34作品
華々しく幕が上がりました寅さん“冒頭夢シーン”映画祭。
ノミネート作品は下表の通り全34作品です。
冒頭夢シーン全34作リスト
第2作 瞼の母
第5作 おいちゃん死す
第9作 木枯らし寅次郎
第10作 マカオの寅
第11作 さくら身売り
第12作 国賊ヒーロー 寅次郎
第13作 結婚報告 届かず
第14作 産土の神 寅
第15作 海賊キャプテン・タイガー
第16作 西部劇タイガーキッド
第17作 ジョーズVS寅さん
第18作 アラビアのトランス
第19作 寅版 鞍馬天狗
第20作 みんなお金持ち
第21作 猿のUFO来襲
第22作 寅地蔵
第23作 便秘の研究
第24作 マドロス寅さん
第25作 ねずみ小僧寅吉
第26作 天狗のたたり
第27作 浦島寅次郎
第28作 寅さんノーベル医学賞
第29作 雀のお宿
第30作 ブルックリンの寅
第31作 無宿人・寅吉 故郷に帰る
第32作 ニセ寅さん結婚
第33作 酒場とマフィア
第34作 宇宙大怪獣ギララ
第35作 姥捨山
第36作 宇宙飛行士
第37作 幸福の青い鳥
第39作 回想 はじめての家出
第43作 車小路寅麻呂
第45作 無声映画風 文豪・車寅次郎
※タイトル名は筆者の独断によるもの。
※第1、3、4、6~8、38、40~42、44、46~48作、および50作は、冒頭夢シーンなし。第49作は第25作のリメイクのため除外
この中から各個人賞・部門賞、グランプリ、準グランプリなど各作品賞が選出されます。栄冠に輝くのはどの作品でしょうか。まずは各個人賞・部門賞の発表です。
助演男優賞/助演女優賞 見逃さないでね!名脇役
助演男優賞/助演女優賞の選考に際し、さくら、博、おいちゃん、おばちゃん、タコ社長、源公などのレギュラー出演者はほぼ主役級の存在感のため除外。なお主演男優賞(および主演女優賞)は、主演は寅さんと決まりきっているので設定していません。
さて、まずは助演男優賞。
ノミネートされた俳優のうち特筆すべきは、本編では旅の一座の座長を好演した吉田義夫さん。夢シーンではおもに悪代官などの役で、9~12作ほか全10作に出演。もはや夢シーンに欠かせない名脇役です。ほかにも本編で巡査役サラリーマン役でたびたび登場した米倉斉加年さんの夢出演(15作、16作)、上条恒彦さん(16作、19作)も捨てがたいところ。
しかし、そんな有力候補を抑えて助演男優賞に輝いたのは、レオナルド熊さん(第32作「ニセ寅さん結婚」)!
ニセ寅さんを演じた熊さんですが、それが胡散臭いのなんのって!さらに、寅さんが夢から覚めたところまで登場し、本編への流れをコミカルに作り出しました。
続いて助演女優賞。
松竹映画往年の名脇役・水木涼子さん(第13作ほか。本編ではタコ社長の奥さん役)、松竹最後の大部屋女優と言われる谷よしのさん(第26作ほか。本編では神出鬼没の名脇役)らの強豪を抑えて、栄冠を勝ち取ったのは岡本茉莉さん!
本編では旅の一座の看板女優役で出演されていた岡本さんですが、夢シーン第20作「みんなお金持ち」ではかわいいメイドさんを好演しています。ちなみに岡本さんは声優としても知られ、『いなかっぺ大将』のキクちゃんほか、数々のアニメや洋画の吹き替えでも活躍。
個人的には、「とらや」でバイト雇うならこの娘がいいなあ~と思う次第です(そんな権限ありませんが…)。
特殊効果賞/特撮賞 タコが輝く!
続いて特殊効果賞の発表です。最後の最後まで受賞を争ったのは第17作「ジョーズVS寅さん」。リアルなジョーズ、食いちぎられた源公やさくらの腕などなど迫真の特殊効果は称賛に値します。
ただ、せっかくの海モノなんだから、タコ社長を出さなくちゃ、タコ社長を(サメのエサ役とかで)。そこが評価の分かれ目で残念ながら次点。
僅差で特殊効果賞に輝いたのは、第27作「浦島寅次郎」です。受賞理由はただ1つ「タコの着ぐるみを着けたタコ社長」。これに尽きます! 本編でも寅さんがその様子を社長本人に話して、恒例のバトルの引き金となります。
特撮賞には、その規模の大きさから圧倒的多数の支持で第34作「宇宙大怪獣ギララ」が本命視されていました。しかし、受賞は第21作「猿のUFO来襲」~!
受賞の決定打となったのは、劇中、チャチなUFOに呆れる博に向かってタコ社長が自嘲気味に放つ「予算がねえんだろ。アメリカ映画のようにはいかねえよ」のひと言。
同作品の公開は1978年。時あたかも『スターウォーズ』『未知との遭遇』『スーパーマン』など、ハリウッドの名だたるSF大作が日本公開された年。その一方で、日本映画界は低迷期を迎えていました。作中のタコ社長のセリフは、そんな70年代の日本映画界の実情を痛切に皮肉りつつ、巧みに笑いに転化しているのです。
以上2つの受賞作、タコ社長の好演が光る結果となりました。やるねっ、タコ社長!
映画音楽賞 SKDが圧巻です!
冒頭夢シーンには、音楽劇的な要素が強い作品も多くみられます。クレイジーキャッツ『五万節』のパロディっぽい楽曲が印象的な第15作「海賊キャプテン・タイガー」、さくらの独唱(&源公のバンジョー)が涙を誘う第16作「西部劇タイガーキッド」などなど。
しかし、それらを差し置いて栄冠に輝いたのは、第30作「ブルックリンの寅」! スケこましのジュリーの独唱など音楽要素満載のミュージカル仕立てですが、なかでも圧巻なのはSKD(松竹歌劇団)のパフォーマンス。
「ウエストサイドストーリー」を彷彿させるストリートダンスから代名詞のレビューまで、たっぷり魅了させてくれます(倍賞千恵子さんもSKD出身)。いろいろなダンスユニットがはびこる現在ですが、やっぱSKDってスゲー!
封切られた1982年は、SKDの本拠地であった国際劇場(浅草)が惜しまれつつ閉鎖された年。スクリーン上での心からの餞(はなむけ)でもあったことでしょう。
特別賞は2作品選出 寅さん知るには欠かせない!
さあさあ、いよいよ各作品賞の発表です。
まずは特別賞。この賞は『男はつらいよ』シリーズのストーリーを補完し、背景を知る上でぜひ押さえておきたい作品に与えられます。受賞作は2つ。第2作「瞼の母」と第39作「回想 はじめての家出」です。どちらも寅さんの実話の回想で構成されています。
第2作「瞼の母」は冒頭夢シーンの記念すべき1作目。上映時間1分40秒と最短ですが、
・実母の名前が「菊」
・38年前に寅次郎を生む
という事実がはじめて語られています。また作中登場する母親役が、本編で母親に扮するミヤコ蝶々さんではなくて、寅さんが母親と勘違いする旅館の中居に扮する風見章子さんであるという芸の細かさにも脱帽です。
一方、第39作「回想 はじめての家出」。こちらはシリーズが“満男グダグダ恋愛編”へと脱線する前の最後の夢シーン。寅さんのひとり語りと無声映画風の字幕、それに障子越しのシルエットで、殴られたり叱られたりと、父親との葛藤が寂しく描かれています。
このシーンを
「こんな父親(保護者)になっちゃあいけねえ」
という父を反面教師にした寅さんの覚悟と受け取ってしまうのは深読みが過ぎるでしょうか。同シーン、同作品を境に、”ヤクザな兄貴“から、“頼れる(?)伯父さん”的な色彩が強くなっていくような気がするけどなあ。
ともあれ、1つの重要なターニングポイントであることは間違いないでしょう。
さあ、このあと、いよいよ準グランプリとグランプリの発表です!
必殺だ! 鬼平だ! 準グランプリだ!
いよいよ佳境に入って参りました。準グランプリの発表です。
僅差で惜しくも準グランプリとなったのは、第25作「ねずみ小僧寅吉」!
ストーリーは言わずと知れた「ねずみ小僧次郎吉」のパロディ。でも評価はそこじゃあない。ここで絶対に見逃せないのはその映像美、松竹時代劇独特の「陰影」に他なりません。
ほれ、思い出してください。同じ松竹制作の「必殺シリーズ」「鬼平シリーズ」によくある、暗闇の中にわずかな光と人の影が一体化してうごめくシーンとか、顔の半面だけが浮かび上がるライティング、あれですよ。
その職人芸の映像美がほんの数分のシーンに再現されているのです。寅さんと同じくらい鬼平を愛する者としちゃあ、盆と正月と万馬券の的中と原稿料の値上げがいっぺんに来たような感激です。
高羽哲夫カメラマンをはじめとした撮影スタッフ陣の渾身のオマージュを見た気がします。
栄えあるグランプリは「寅さん歌舞伎」
さあ、残るはただ1つ、グランプリの発表です。寅さん“冒頭夢シーン”映画祭、栄えあるグランプリに輝いた作品は………
第31作「無宿人・寅吉 故郷に帰る」!
この作品、本格的どころかホンモノの歌舞伎の世話物(時代設定が江戸時代の演目)です。しかも渥美さんはじめ、レギュラー陣が出演している歌舞伎の一幕ですよっ。感涙です!!!
おもに映画でしか拝見せず舞台の印象が薄い名優のみなさんですが、(映画の一部と言えど)舞台の芝居も板についています。さっすが役者だねえ。
舞台装置、照明などもおそらく歌舞伎そのもの。大向う(客席から舞台・演者への掛け声)も忠実に再現……と思いきや、「後家殺し!」などと本来あり得ない掛け声が……こんな喜劇的なアレンジが、オリジナルの歌舞伎にはない寅さん的歌舞伎として独創性を醸し出しています。
この「寅さん歌舞伎」、劇中劇として完成度は驚愕の域ですが、ぜひ独立した芝居として観てみたかった! これこそ松竹映画の底力であり総力の結晶と言っていいでしょう。
受賞、おめでとうございます!
選考を終えて~冒頭夢シーンとは何だったのか~
ミュージカルあり、アクションあり、特撮あり、パロディあり、時代劇あり……。こんなバラエティーに富んだ冒頭夢シーンだが、そもそも何のために設定されているのだろうか。
答えはいろいろ浮かぶ。
一つには落語で言うところの「枕」。世情を絡めながら本編へと客を誘う噺(はなし)の導入部分だ。自身も落語の原作を手掛けたりするほどの落語ファンとして知られる山田洋次監督のこと、そんな落語の表現法を転用していたとしても不思議ではない。
「夢」という要素も見逃せない。
夢にはじまり、夢から覚めて現実に戻るという展開が、観る者にも本編があたかも現実であるように錯覚させるのである。一種の映画的マジックだ。
とまあ、冒頭夢シーンの存在理由は本編とヒモづけて考えられるが、きっとどれも正解だろう。
でも、そんな理屈以上に、なにかもっと大きくて単純なものに支配されているような気がする……。そう!理屈じゃない! きっと演じる者も作る者も映画が心の底から大好きで、件のシーンを作るのが楽しいんだ。
夢シーンの各作品は、片手間お手軽に撮った映像じゃない。セットもメイクも衣装もシナリオも撮影も、プロが真剣に、そして楽しんで作り込んだ作品だ。映画およびその他のエンターテイメントへの思慕もヒシヒシ伝わって来る。
それを感じる度に筆者もメディアの作り手(のズーーッと端くれ)として、この上なく羨ましく思う。
上映開始のブザー鳴り、場内が暗くなり、松竹富士とテーマミュージックが流れた後、銀幕に映し出されるお馴染み夢シーン。
それは映画ほかエンターテイメントへの最大のオマージュを込めて、映画人たちが楽しんで制作した壮大な記録フィルムなのだ。
取材・文=瀬戸信保
【”冒頭の夢”映画祭受賞作(者)一覧】
助演男優賞⇒レオナルド熊(第32作「ニセ寅さん結婚」)
助演女優賞⇒岡本茉莉(第20作「みんなお金持ち」)
特殊効果賞⇒第27作「浦島寅次郎」
特撮賞⇒第21作「猿のUFO来襲」
映画音楽賞⇒第30作「ブルックリンの寅」
特別賞⇒第2作「瞼の母」
第39作「回想 はじめての家出」
準グランプリ⇒第25作「ねずみ小僧寅吉」
グランプリ⇒第31作「無宿人・寅吉 故郷に帰る」