多種多様な文化を育んできた港町の懐は深い
石川町駅の南口改札を出ると、個人店が軒を連ねるひらがな商店街。山手や中華街から流れてくる観光客も多いが、大半は近隣住民で、ちょっとのんびりしている。近頃は移住組や若い世代の店が増え、「古参の人たちも喜んでいます」と『チングルベル』の店主・後藤幹雄さん。自身も藤沢在住なので「いわばよそ者」だが、「ここは港町。昔から人の出入りが激しかったせいか、よそ者をよそ者と思わずに受け入れてくれるんです」。約40店舗が出店する街を挙げてのイベント「石川町裏フェス」は、コロナ禍で中止されていたが、2022年に3年ぶりに再開(2023年は5月21日に開催)。
中華街の人混みを突破し、海へ。石川町、元町・中華街、海岸通りと歩いて気づいたのだが、この辺りは街と街の境目にグラデーションがない。通りを渡るとカラーがパキッと変わり、景色が急変。『SDN-yokohama』の店主・新保隆二さんはこれを「横浜は小国の集まりだから」と表現する。なるほど! ちなみに、開港広場前や大さん橋付近には「ドラマ『あぶない刑事』の横浜が残っている」のだとか。
むしろ「横浜」の方からこちらに歩み寄ってくる
北仲通りで『LOCAL BOOK STORE kita.』を運営する森川さんは、「これまで通り過ぎるだけだった北仲エリアが、再開発されて目的地に生まれ変わりました」とうれしそう。抜け感を考慮してビルを建てたり、街路樹を植えたり、歩きたくなる工夫がされている。位置的にイーストエリアの中心と言ってもよく、どこへ行くにも近い。ブックマンションには横浜の情報を集めた棚もあるので、その中の1冊から次の行き先を探すのもいいかも。
根岸線の高架をくぐり、買い物客に混じってイセザキ・モールをぶらぶらしていると、どこからか哀愁を帯びたメロディが。音の出どころを探すと、人形たちが時を告げるからくり時計だ。「1978年に作られたんだけどね、ここ数年止まってた。でも一昨年(2021年)復活したんですよ」と、地元のおじさん。「また見に来てくださいね」と笑顔で立ち去る姿が、なぜか心に染みる。
18時か。どうりでおなかがすいている。夕飯は『ワンタンスープ専門店くぬぎ屋』にしよう。家族経営の食堂みたいな気さくさがあり、それでいてカウンター越しに職人のこだわりが垣間見える横浜らしい店。
さらに、締めの一杯は『JAZZY AFTER HOURS』。古いジャズに酔いしれて音に身を委ねれば、歩き疲れた体も少しずつ緩んでいく……。
【歴史ある街並みも素朴な商店街も、どちらも横浜】
LOCAL BOOK STORE kita.
出会いが見つかるブックマンション
棚ごとにオーナーが異なり、大学生や図書館司書、会社員、教育者など60名以上。どの棚からも熱い思いが感じられ、「店長は交代制。本の話をするのも楽しい」と、この場所を営むマスマススクエアの森川正信さん。
・11:00~18:00、不定休。
Aonoha / by Crony Club
作り手の熱意がにじむ品々がずらり
国内ブランドを中心に洋服、雑貨などが揃うライフスタイルショップ。店主の西沢元さんが案を出し、作家が作るオリジナル商品のほか、「ショルダー紐がほしい」というお客さんの要望を取り入れたトートバッグなど別注品も評判。
・12:00~18:00、水休。☎︎045-341-0595
SDN-yokohama
革靴の深い色合いを眺めつつ、ゴクリ
台湾のハンドメイドシューズ「SDN」の代理店だが、クラフトビールも常時50~60種ほど用意。購入後我慢できず、すぐ飲みたい人は、軒先のベンチで角打ち気分を味わうことも可能。1缶1000円~。
・11:00~19:00(金は~22:00)月・火休。☎045-900-2226
COFFEE ROASTERY MEGURO
乾いた喉にはすっきりしたコーヒーを
店内からガラス越しに焙煎室が見え、臨場感大。コクとすっきりした風味を併せ持つ深煎りがウリで、「エグミを取るため、ローストする直前に豆をお湯で洗うんです」と店主の上原英一さん。コーヒー500円。ほうじ茶ラテ680円も人気。
・9:00~19:00、水休。☎045-306-9010
MITSUTEA
茶葉専門店でスリランカを体験
店主の中永 美津代さんは、開業前に1年かけてスリランカを回り、紅茶の各産地に移り住んで収穫を手伝ったとか。「高低差があって地域によって気候が違うので、多種多様な茶葉が採れます」。試飲して違いを実感し、好みの味を探そう。
・12:00~17:00、月休。☎045-263-6036
チングルベル
店内にあふれかえるレトロなデザイン
日本やアメリカ、ヨーロッパの古着が充実。60~80年代の柄物シャツ、カラフルなスカートなど、特徴的なデザインが今はむしろ新しいものとして目に映る。在庫が豊富で毎日新入荷品を追加しているらしく、お直しが済んだ状態のいいものばかり。
・13:00~21:00、無休。☎045-681-0355
よつばベーカリー
翌朝までふっくら!手作り柔らかパン
「親子、孫と3世代にわたって愛される町のパン屋さんを目指しています」と入村夫妻。「腹ペコの時にバクバク食べられるように」と柔らかめが多い。それでいて程よく食感があり、噛み締めると小麦のうまみがじわり。
・10:00~18:00(売れ切れ次第終了)、日・月・祝休。☎045-298-5291
JAZZY AFTER HOURS
ダイニングバーでジャズに浸るひととき
店主の柴田淳さん(写真中央)はジャズの街・横浜で育ち、10代の頃からジャズファン。所蔵CD・レコードは50~60年代に録音された作品が多く、分厚いリストを挟んでおしゃべりするのも醍醐味。月1回、ジャムセッションも。
・17:00~24:00、月休。☎045-264-4524
横浜ジン蒸留所
原酒も自社製造するクラフトジン
横浜ベイブルーイングのジン蒸留所。バーでは横浜の競馬場にいたとされる伝説の暴れ馬にちなんだ「BRONCO 20」をはじめ、スパイスやハーブなど、それぞれ特徴の異なるクラフトジンを味わえる。
・17:00~22:00(金は~23:00、土は13:00~23:00、日は13:00~)、火休。☎045-334-8080
ワンタンスープ専門店くぬぎ屋
すべて手作り。真心も包む
舌触りはトゥルン! 人気のミックス ワンタンスープ(並)1210円は、たっぷりの肉餡に大根が入ったオリジナルとエビワンタンを同時に楽しめる。鶏そぼろ飯(並)370円。
・11:00~15:00・17:00~24:00(金・土は~翌1:00、土・日・祝は通し営業)、火休(祝・祝前日は営業)。☎045-261-6656
なかや植物店
長居したくなるいい雰囲気の花屋
重厚な店構えは「ビルオーナーのお兄さまがバーを営業していた時のまま」。入り口にある「直利庵」の看板も当時の名残だ。店主の中川勉さんに花の名前を教わったり、カウンター越しに会話が弾むことも。1本から購入可。
・12:00~19:00、月・火休。☎045-264-9724
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2023年5月号より