閻魔さまや鬼たちだって大変なのです

この竹刺しが一番イヤ。赤鬼がガチャピン似。

こっそり悪いことをしても閻魔(えんま)さまは全部お見通し。死んだら地獄に堕(お)ちて、恐ろしい鬼卒(きそつ)に残虐な仕打ちをくり返され、死ぬより辛(つら)い日々が延々と続く……と、人は自分の辛さばかりアピールするが、閻魔さまや鬼たちだってメッチャ辛い。人は毎日たくさん亡くなるから、死後35日目に裁くと決まっている閻魔さまは全然休めず、座りっぱで次々に裁かねばならない。鬼も亡者を切り刻んだり煮たり焼いたりなんだりを毎日続ける超絶ハードな肉体労働で、シフトとかないっぽい。しかも、いくら働いても鬼は浄土へ行けない。
これではあんまりなので、毎年1月16日と7月16日は地獄が休みになった。年休2日制だ。地獄の釜の蓋が開き、閻魔さまをはじめとした地獄のスタッフも亡者ものんびり過ごすから、「エンマの休日」と呼ぼう。
この日は藪入(やぶい)りと呼ばれるこの世の休日でもあった。閻魔堂の前に露店がにぎやかに並んで、たくさんの人が閻魔詣でをした。それほど、閻魔さまやあの世が身近だった。

深川の街角からいつでも地獄へ行ける

深川ゑんま堂のしゃべる閻魔さまは、寄木造りで高さ3.5m。掌上に金色のお地蔵さまが。

今でもこの日は閻魔堂をご開帳して、秘蔵の地獄絵を公開したりするお寺が多い。だから年に2度は地獄に行きたい。でも今、祝日でもなんでもない日に詣でるのは難しい人も多い。そんな忙しい人にもうれしいのが法乗院、深川ゑんま堂だ。
このお寺では閻魔さまを毎日自由に拝めて、賽銭するたびに光と音の演出とともに閻魔さまの声が聞ける。賽銭箱は投入口が「怨敵退散」「うそ封じ」「いじめ除け」「浮気封じ」など19の願い事に分かれていて、19穴すべてに順々に賽銭(さいせん)したら、閻魔さまが全部違う話をした。2周目に突入してもまだ違う話をしてくる!

願い事別にお金を入れると、いろいろ光ったり鳴ったり声がするので、賽銭がはかどる。
毎月1日と16日に入れる閻魔堂の内部は、死後の世界を表現。床まで光ってスペイシー。

月2回(毎月1日と16日)もあるご開帳の日には、閻魔さまの背後に隠れた地蔵空間にも行けて、護摩木を奉納すると仏さまが出現する。
さらに、本堂1階には地獄絵(千葉県南房総市の延命寺所蔵の地獄極楽絵図) の複製が16幅、ずらりと並んでいて毎日見放題。地獄絵を毎日自由に心ゆくまで見ることができるお寺は、東京あたりではここしか思い浮かばない。源信の『往生要集』などをもとに非常に細やかな設定と豊かなストーリーが詰め込まれているので、いくら眺めても飽きない。

鬼を次々に針の山に落とす豪傑。逃げる鬼も。

よく見ると、亡者が2人がかりで鬼をメッチャ叩いていたり、豪傑 (酒呑童子<しゅてんどうじ>らを退治した源頼光がモデルらしい)が鬼をバンバン針の山に落としていたりする。エンマの休日でゆるゆるな様子も描かれていて、亡者より鬼たちのほうが人間味にあふれている。
このお寺はまるで地獄のミニテーマパーク。地獄へ日帰り旅行した気分になれる。かつてお寺はまさにテーマパークのような場所だったし、閻魔さまは恐いけれど某マウスのように身近な存在だった。その意味で、ここの閻魔さまは今、東京で一番閻魔さまらしい閻魔さまだろう。年に2回は会いに行こう。

エンマの休日。マッパなのは子鬼か。子供の亡者と遊ぶ子鬼もいて、平和な一日。江戸の絵師、宋庵の作。
三つ目の鬼が茹で上げた亡者を高く掲げる。
月代(さかやき)の人面獣! 畜生道に堕ちた亡者たちだ。
畜生に生まれ変わった亡者。緑鬼が気弱そう。
三回忌に亡者が救われて、踊って喜ぶ鬼も。
住所:東京都江東区深川2-16-3/定休日:無/アクセス:地下鉄東西線・大江戸線門前仲町駅から徒歩6分

取材・文・撮影=中野純
『散歩の達人』2021年7月号より