細部に宿るラーメンへの情熱とこだわり
黒地に白抜きのファサード看板に、白地黒文字の暖簾(のれん)。パキッとしたスタイリッシュな外観は旨い一杯への期待を高めてくれる。
清潔感のある磨きこまれたカウンターに打ちっぱなしのコンクリート。大人モダンな雰囲気の店内はキリッと美しい。
『ラーメン渡邉』のラーメンのベースは鶏白湯。塩スープの白ラーメン900円と醤油スープの黒ラーメン900円、味噌スープの銀ラーメン980円が基本のラーメンだ。
今回は黒ラーメン900円と鶏白湯飯200円をオーダー。
漆黒のどんぶりと黄金色のスープの対比、そして中央に陣取るだいだい色の蝶。黒らーめんはアート作品のように目を奪う。
ラーメンの湖を舞う蝶はにんじんの飾り切りだ。中華料理で腕を磨いた店長の技術が光る。
スープをひと口啜ると、濃厚な鶏の旨味が口いっぱいに広がる。鶏白湯をベースにしたスープは繊細かつコクがありしつこさはない。シルクのように滑らかで後を引かず、ただただおいしさの余韻だけが残る。
麺はスープと適度に絡むストレートの中太。しっかりコシがある麺は濃厚なスープに負けない風味を持っている。
チャーシューはやわらかくしっかりと味のついた豚もも肉だ。優しい味わいで、スープに浸すと肉の旨味がさらに引き立つ。
鶏白湯飯は、鶏白湯のスープとチャーシューのスープを合わせて炊いたごはん。カリカリのフライドガーリックとラードが添えられている。まずは、そのまま一口いただく。ほのかに香る出汁がすっと鼻に抜けて心地よい。つづいてフライドガーリックとラードを混ぜて、テーブルに備え付けられている鶏白湯飯専用の醤油を数滴たらす。
すると、一瞬で香ばしくパンチの効いた味わいに様変わり。ラーメンのスープをかけるとさらに絶品だ。
味にも見た目にも全力投球、最高の一杯を作るために
黒ラーメン900円のスープには脂が浮いておらず、濃厚で深い味わいかつまろやかですっきりと飲める。その秘密はこだわりぬいた乳化にあると渡邉さんは語る。
「塩や醤油は徹底的に乳化させて脂を浮かせないようにしています。タンパク質、脂質、ゼラチン質のバランスが大事で、しっかりと白濁させます。脂を閉じ込めているわけですね。これにより、やわらかいけどガツンとくる、だけどしつこくないスープになります。このバランスを少しでも超えてしまうと、とたんに胸焼けしてしまうようになります。香油なんかも一切使いません」
スープのコクの深さとすっきりとした後味の両立は、絶妙なバランスによって支えられていた。
「麺は三河屋製麺さんのものを使っています。いろいろ試しましたが、ここが桁違いによかったですね。麺の表面や切り口もきれいでした。食事は耳で聞いて、匂いを感じて、舌で味わって、最後にのど越しが大事だと思っていますが、三河屋製麺さんの麺はのど越しも素晴らしいです」
精緻な盛り付けを壊さない美しい切り口の麺は、デリケートなスープにほどよく絡む。
チャーシューはスープによって3種類を使いわける。塩には鶏チャーシュー、醤油には豚もも、味噌には豚バラ。とくに塩と醤油に使うチャーシューは見た目のバランスを考慮して色がつかないように炊くという。鶏白湯をベースに塩と白醤油など色のつかない調味料を使う。味玉も色が付かない調味料を使っているため真っ白だ。
鶏白湯飯は、オーナーに「ニンニクを使ったラーメンはないのか」と尋ねられたことがきっかけで生まれたという。店長の渡邉さんは、オーナーのリクエストに対して「ニンニクはスープの繊細な味のバランスを崩してしまうので使いたくない」と考えた。そこで、ニンニクを使用した上で鶏白湯スープのラーメンにマッチする料理として鶏白湯飯が誕生したのだ。
じつはこのこだわり、カウンターに並ぶ調味料にも反映されている。ラーメンの味のバランスを崩してしまうニンニクや胡椒のかわりに置かれているのは山椒。ピリリとした山椒は鶏白湯スープになじむからだ。
細部に至るまでこだわり尽くした『らーめん渡邉』
絶妙なバランスで作られた黄金色のスープ、色がつかないよう気を使われたチャーシュー、味の調和を考えておかれた調味料、美的な観点から技巧を凝らされた盛り付け、磨き上げられた店内。『らーめん渡邉』には美意識とこだわりがぎゅっと凝縮されている。
乳化にこだわり、極限のバランスで脂を閉じ込めた濃厚なコクのスープはここでしか味わえない一品だ。
取材・文・撮影=かつの こゆき