アクセス
鉄道:JR・地下鉄東京駅からJR東北本線で約1時間30分の小金井駅下車。小金井駅から約3分で自治医大駅、同約7分で石橋駅。
車:東北自動車道川口JCTから東北自動車道・北関東自動車道を利用し、壬生ICまで約86km。同ICから下野市中心部まで約11km。
古くから人や文化の往来が盛んだった下野
かんぴょう生産量日本一を誇り、カンピくんなるキャラクターも地域に定着している下野市。幼い頃から巻き寿司の具材として慣れ親しんでいるかんぴょうだが、本連載の編集担当のN嬢はかんぴょうの原料が何か、どうやらすぐには分からなかったらしい。親子ほど歳の差が離れているとはいえ、これは由々しき問題である。
そこで頼まれてもいないのに、下野の魅力を勝手に発信しようと調べを進めると、かんぴょうもさることながら、「東の飛鳥」との見慣れないキャッチフレーズが随所で目に留まった。
その理由を下野市教育委員会文化財課の木村友則さんに尋ねると、「古くから災害が少なく、暮らしやすい地として有力な豪族が多くの古墳を残したこと。飛鳥時代に入り、大宝律令の選定などに携わった下毛野朝臣古麻呂(しもつけのあそんこまろ)が創建に関与した下野薬師寺が建立され、東国屈指の隆盛を誇ったこと。都と東北を結ぶ地として、下野国分寺や下野国分尼寺が置かれ、さらに時を経た江戸期には日光街道の宿場町として栄えるなど、人や文化の往来が盛んだったことなどから、『東の飛鳥』と銘打ち、地域づくりを進めています」と矢継ぎ早に教えてくれた。
聞けばパンフや地図の作成だけでなく、史跡に近づくと往時の様子をVR映像で見られるアプリを開発するなど、あの手この手と工夫を凝らして地域の魅力発信に腐心している姿勢がひしひしと伝わり、微力ながら応援したくなるほどである。
締めくくりのカフェで家路に就くのをためらう
さて下野市とは、石橋町・南河内町・国分寺町が2006年に合併して誕生した市とのこと。栃木県のかつての令(りょう)制国名を冠した市名はいささか大げさに思えたが、「東の飛鳥」のいわれを教わり、深く納得した次第である。ちなみに石橋町は、石の橋を意味するドイツのシュタインブリュッケン村と1975年に姉妹都市提携を結び、交流が芽生えたそうだが、同村のあるヘッセン州がグリム兄弟ゆかりの地であったことにちなんで、「グリムの里づくり」を推進したとのこと。「下野市でなぜグリム?」の疑問もこれで解けた。
ところで以前から気になっていたのが旧国分寺町内にある小金井駅だ。「国分寺」「小金井」と聞けば、都民の1人としては地元にいるような気分になる。その小金井駅からほど近い住宅地で目にした「おとなに向けた隠れ家カフェ」のボードに誘(いざな)われ、旅の締めくくりに『rust.』の低い扉をくぐってみた。喧騒から隔てられた店内には落ち着きある時間が流れ、居合わせたお客さんも各々のペースで静かに過ごしている。「ここが近所なら、急いで帰らなくていいのに」と嘆きつつ、食事を終えても、居心地のよさになかなか席を離れることができなかった。
大松山運動公園
心地よい汗を流し、日頃の運動不足を解消
陸上競技場や多目的グラウンド、テニスコートなどを備えた近隣利用者向けの運動公園。全長600m、1000m、1200mと3つのウォーキングコースがあるほか、こもれび広場にはぶら下がりやひねりなどの運動に取り組める大人向け器具も設置されている。園内の『下野市立石橋図書館』には地域とゆかりのあるグリム童話関連書籍も揃っているので、こちらも足を運びたい。
かんぴょう加工品
素材の魅力を生かした食感の妙を楽しめる
夏に収穫した夕顔の実(瓢ふくべ)をひも状に剝き、天日干ししたかんぴょうは下野市の名産品で、生産量日本一を誇る。一般的な巻き寿司の具だけでなく、コロッケにがんもどき、焼き菓子、クッキーからラーメンやもつ煮に至るまで、コリコリした食感を生かした加工品があれこれ揃うのも特産地ならではだ。『道の駅しもつけ』などで入手できる。
ゆうがおパーク
3世代で楽しめる農産物直売所
一見ごく普通の農産物直売所と思いきや、公園広場にドッグラン、さらにはカラオケスペースまで整備。セグウェイや電動キックボードの貸し出しもあり、手ぶらでバーベキューまで楽しめる(4人以上/要予約)。メニュー豊富なフードコート(10~16時)も併設。
下野薬師寺歴史館
東国筆頭の寺院が歩んだ歴史を解説
約1300年前の飛鳥時代に建立され、奈良時代の761年には東大寺、筑紫観世音寺と並ぶ三戒壇(僧の養成所)の1つが置かれた下野薬師寺。発掘調査で出土した遺物展示や文献解説を交えながら、寺院が歩んだ変遷を学べる。周辺の史跡散策もおすすめ。
しもつけ風土記(ふどき)の丘資料館
施設周辺に史跡や古墳が点在
「下野国分寺跡・下野国分尼寺跡」をはじめ多くの史跡や古墳が集まる天平(てんぴょう)の丘公園内にある資料館。古墳時代・飛鳥時代・奈良時代における地域の歩みをふんだんな図解とともに紹介している。2014年に国内で初めて発見された機織(はたおり)形埴輪(はにわ)も必見!
SANDO×SANDO 自治医大店
目を引く色鮮やかなサンドイッチ
JR自治医大駅近くに店を構える手づくりサンドイッチとこだわりプリンのテイクアウト専門店。毎日店内で丁寧に仕込むサンドイッチは20種前後で、海老とアボカドのコブサラダ620円をはじめとする定番に、旬の食材をアレンジした季節感あふれる新作が加わる。
グリムの森
グリムの里づくりの中核施設
グリム童話をモチーフとした遊具などを配した都市公園で、ドイツをイメージした建物の「グリムの館」や、宇都宮の人気カフェ『マツガミネコーヒービルヂング』がテナントで入る「お菓子の家」が目を引く。
吉田村VILLAGE(ヴィレッジ)
築約80年の石蔵をリノベーションした複合施設
かつて農協の米貯蔵庫として利用されていた石蔵を、マーケット・カフェ・宿泊施設として活用。近隣で収穫した農産物をはじめ加工品、酒、雑貨、アクセサリーなどが揃うマーケットでは、季節の花々が彩りを添え、ガーデニンググッズも充実している。併設のカフェ(10~15時/ベーカリーは不定期営業)では地元野菜を添えたオープンサンドプレート(ドリンク付き)を注文し、2階のイートインスペースでゆったり過ごしたい。ホテルやグランピングでの宿泊も可能だ(月・火休)。2024年秋には別棟にイタリアンレストランもお目見え(営業時間は異なる)。
のののクラフト
とんぼ玉工房で制作体験を楽しむ
とんぼ玉とは金属の棒に熱したガラス棒を巻き付けて作る、穴の開いたガラス玉のこと。色合いや模様を自分の好みに工夫できるのが魅力だ。体験教室2時間2500円では3個のオリジナルとんぼ玉を作ることができ、ストラップに加工してもらえる(要予約/1~2名で受講可)。
rust.(ラスト)
ゆるやかに心がほぐれる非日常の空間
住宅地にある材木倉庫をセルフリノベーションした隠れ家カフェ。シックなモルタルの壁にむき出しの梁、控えめな照明、ゆったりとしたピアノの調べなど、心穏やかに過ごせる大人の空間が広がる。メニューはカレーセットとケーキセット(13時~)のみでドリンク単品の注文は不可。
【耳よりTOPIC】秋の風物詩が5年ぶりに開催予定
例年11月第1日曜日に、『しもつけ風土記の丘資料館』などがある天平の丘公園内の花広場で開かれる「天平の芋煮会」。芋煮用大鍋にはサトイモ、長ネギ、ゴボウのほか、生産量日本一のかんぴょうが加えられるのがいかにも下野市らしい。3000食用意され、完売次第終了。問い合わせは下野市観光協会☎0285-39-6900。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年10月号より