マグロ副長がうれしくなる、焼き加減が絶妙なあんかけ焼きそば

マグロ マグロ

初めて入る町中華で必ず注文するメニューが「五目あんかけ焼きそば」だ。とくにビールを注文したときはマスト。若い頃は餃子にビールで、〆に麺かご飯もの食べていたけれど、五十を過ぎてから餃子とビールで十分になり、その先に進めなくなった。なので、五目あんかけ焼きそばなのだ。ビールをぐびぐび飲みながら、あんかけの具材をつまむのがいい。若い頃はかた焼きそばが好きだったけれど、今は中華鍋でうまく焼かれたやわらかい麺が好きだ。しかし、麺の焼き具合が難しい。焦げすぎてもダメだし、焦げがまったくないのもダメだ。浅草の『ぼたん』の麺の焼き加減は絶妙で大好きだ。何度注文してもいい塩梅でそばが焼かれているとうれしくなる。

女性人気もバツグン! 上品なあんかけ香る、浅草『ぼたん』の五目焼きソバ

創業は1948年、『ぼたん』は戦後すぐに浅草に誕生した。五目焼きソバ900円は、女性からも高い人気を誇るこの老舗の看板メニューの一つだ。キクラゲとシイタケ、タケノコといろいろな具材が味わえて、野菜もたっぷり。味が濃すぎず上品なあんかけが中華感をより高める。辛子やお酢で味変を楽しむもよし、ビールのアテとしておつまみとして楽しむもよし。両面が香ばしく焼かれた焼きそばは、冷めてからもおいしくいただける。野菜の下ごしらえも多く手間がかかる料理だが、あらかじめ茹でた麺をストックしておくことで手早く調理。素早く提供するための繁盛店らしい工夫だ。具材、餡、そして麺。三位一体のごちそうは、思わず目を閉じて噛みしめたくなる一品だ。

3、4代目が歴史を引き継ぐ浅草の老舗

3代目川瀬茂高さん(左)と4代目の二朗さん。親子が継ぐのは昔からの『ぼたん』の味であり、街の人に愛される食堂としてのあり方だ。浅草の人々が気軽に食べられる中華を今日も作り続けている。
3代目川瀬茂高さん(左)と4代目の二朗さん。親子が継ぐのは昔からの『ぼたん』の味であり、街の人に愛される食堂としてのあり方だ。浅草の人々が気軽に食べられる中華を今日も作り続けている。

この店では古くから焼きそばやおでんなどを提供していたという。「甘味どころの延長として始まり、浅草寺を訪れるお客さんの手荷物預かりもやっていたんです」と浅草らしいエピソードを話してくれたのは、3代目の川茂高さんだ。以前は中華にこだわらず、食堂として近隣の人々に愛されてきたが、3代目がこの店で働きだした頃に「中華」に絞り込んだ。先代の味を引き継ぎつつも、夜に飲むお客さんも多いということから一品料理を増やし、常連の心をしっかりキャッチ。勤め人はもちろん家族連れ、観光客とあらゆる客層をカバーする浅草の名店は、4代目・二朗さんとの父子鷹の店でもある。古き良き町中華を感じられる場所ながら、未来の町中華を支える店でもあるのだ。

先代からの味、しっとりとしたチキンライス750円は人気が高くこればかり頼む客も多い。ラードで炒めたこってり感がやみつきに。ずっと変わらぬキャベツたっぷりのスタイルが愛され続けている、餃子400円とも相性抜群。
先代からの味、しっとりとしたチキンライス750円は人気が高くこればかり頼む客も多い。ラードで炒めたこってり感がやみつきに。ずっと変わらぬキャベツたっぷりのスタイルが愛され続けている、餃子400円とも相性抜群。
店頭のサンプルの美しさもこの店の特徴の一つだろう。東武スカイツリーライン浅草駅の目の前にあり、店の前を通る人々は思わずこのサンプルに見とれてしまうはず。近くを訪れたらぜひのぞいてみてほしい。
店頭のサンプルの美しさもこの店の特徴の一つだろう。東武スカイツリーライン浅草駅の目の前にあり、店の前を通る人々は思わずこのサンプルに見とれてしまうはず。近くを訪れたらぜひのぞいてみてほしい。
3代目と4代目が共に厨房に立ち、店は常に中華鍋を振る音が響く。「『ぼたん』という名は、店のある花川戸の町会のマークなんです」と3代目。花の名前がつけられているだけに、店には浅草らしい品のよさも感じられる。
3代目と4代目が共に厨房に立ち、店は常に中華鍋を振る音が響く。「『ぼたん』という名は、店のある花川戸の町会のマークなんです」と3代目。花の名前がつけられているだけに、店には浅草らしい品のよさも感じられる。

浅草『ぼたん』店舗紹介

取材・構成=半澤則吉 撮影=山出高士