圧倒的な『サンスクエア』の存在感

地元民にとって、「町のランドマークは?」と問われれば、飛鳥山と『サンスクエア』、そして「ほりぶん」くらいしか思い浮かばない。区役所もあるが、それはひとまず置いておこう。

そもそも、ほぼ何もなかった土地柄ゆえ、明治以降は軍需工場が多く建てられた。調べたところによると、北区における旧軍用地の比率は国有地・私有地含め約10%! もちろん現在の23区では最大だった。また、渋沢栄一ブームで知られたように、製紙工場やその社宅なども多かった。役目を終えたそれらの跡地は、団地などの住宅や公園、図書館、商業施設へと整備され、王子の街の特徴となった。

先述した王子駅前の『サンスクエア』は日本製紙の社宅跡に建てられた商業ビルだ。ビルの脇にはひっそり「洋紙発祥之地」という石碑もあって、地味に歴史を感じることができる。

『サンスクエア』には、「東武ストア」やレストラン街のほか、ボウリング場、バッティングセンター、ゲームセンター、ゴルフの打ちっぱなし、「ヤマハ音楽教室」など、昭和な娯楽の殿堂となっており、京浜東北線からも見えるビル屋上のボウリングピンが象徴的だ。

夕日に染まる『サンスクエア』。

物心がついたころから存在していたので、駅前にボウリング場があるのは当たり前だと思って育ってきたが、渋谷や新宿などの繁華街をのぞけば、そんな遊戯施設が駅前にあるのは郊外都市の特徴なんだと、大人になってから気づいて愕然とした覚えがある。俺はなんて田舎に住んでいるんだと……。

2021年、大河ドラマや新一万円札で話題の渋沢栄一。激動の幕末期を走り抜けた故郷 ・ 深谷と、 晩年を過ごした王子2つの街で、近代日本の発展に多大なる功績を残した巨人の軌跡とその面影を巡ろう。

意外にカルチャーの街でもあり

2021年に取り壊された旧「ほりぶん」。黄色いランドマークだった。

田舎感、といえば「ほりぶん」も半端ないアナログ感だった。

まっ黄色というド派手な外観、
自己主張が過ぎる大きさの店名看板。
2階への移動にエスカレーターなんてある訳もなく、当然、階段。
パートは高齢の方が多く「ぶあーぶあー」と息を切らせながら登っていた姿は、今も頭から離れないほど圧巻。
そんな「ほりぶん」も2022年に建て替えが決定、すでに建物は取り壊されていて、ガーン。

と、唐突に韻を踏んでみたのは、王子の有名人をお伝えしたかったから。最近の有名人として真っ先に名前があがるのは、ラッパーKOHHだろうか。荒川沿いにある豊島団地の出身で、生まれ育った団地を題材にした曲もある。歌詞の内容は想像にお任せするが、王子がどんな街だったかの一端は理解できるかもしれない。

王子のバックヤード的存在の豊島団地。

王子出身の有名人として、自信を持って名をあげられる女優がいるのだが、本人が公表していないと思われるため、ここでは控えておこう。ちなみに私と同じ中学校出身。年代が被っていなかったことが本当に悔しい。あと6年遅く生まれていれば……。

出身ではないが、1994年から2017年まで、つかこうへい氏が北区の要請を受け「北区つかこうへい劇団」を主宰し、定期的に王子で公演を行っていた。子供心に王子で演劇なんかやるんだと思っていたが、意外にも文化的素地は今も引き継がれている。

20年ほど前に『王子小劇場』という、その名の通りの小さな劇場ができてから、若手劇団がよく上演を行っているのだ。都内の小劇場の中でも、劇場の取り組みに対して評価が高いのだそう。その近くには『BASEMENT MONSTAR』というイベントホールもあって、ライブやプロレス興行もやっている。一度プロレスを見に行ったことがあって、どんなに後列でもリングが間近なので、ものすごい迫力だった。これで映画館もあれば最高なのだが、ずいぶん前に「王子100人劇場」が閉業してからは、よそに行くほかなくなってしまったのが残念だ。

老舗が多いが、ラーメン屋も多い

食文化でいうと、創業は江戸時代という圧倒的な老舗がある。落語「王子の狐」に玉子焼きが出てくる『扇屋』だ。優しい味のくずもちで有名な『石鍋久寿餅店』の創業は明治20年(1887)、赤を基調におしゃれな外観のベーカリー『明治堂』も明治22年(1889)創業、サンスクエアのすぐ横にある持ち帰り専門の寿司屋『やすけ』、かき揚げとエビ天見事なそば屋『㐂久家(きくや)』も長年地元客に愛されている名店だ。

『石鍋久寿餅店』は創業130年以上。昭和7年(1932)ごろの王子の地図(手描き)も100円で販売。

しかし、今の王子で特筆すべきはやはりラーメンだろう。私の一番のお気に入りは北口すぐの『らーめん えんや』。開店当初からの売りは塩ラーメン。昆布など魚介系の出汁がしっかりきいていて、飲んだ後の締めにもぴったり。これだけでも十分なのに、最近では激辛系ラーメンも出しており、常に好奇心を忘れないのも好印象だ。好奇心がありすぎて、一時期二郎インスパイア系に転身したときは大丈夫かと心配したが、戻ってきてくれてよかった。

忘れてはいけないのが『中華そば屋伊藤』。どこの駅からも離れているものの、ここのためにわざわざ王子に来る価値があるほど。濃厚な魚介スープは無化調で、一滴残さず飲み干したくなる。基本の「そば」だと、具がネギしかない潔さもステキだ。

その他、ビブグルマンに選出された『キング製麺』やエビ出汁の『八重桜』、北海道ラーメンの『みそ熊』などなど、さまざまなラーメン屋が林立しているので、好みに合わせてラーメン巡りも楽しんでほしい。

 

今どきのラーメン屋ではなく、昔ながらの中華そば屋『かいらく』も好きな店だ。なんてことはない普通の中華そばながら、毎日食べられる優しい味で、昼時は行列ができ、地元民に愛されていることが窺える。

ラーメン屋ではないが、『かいらく』のそばにある大衆食堂兼居酒屋『山田屋』は、わが人生史上最高の酒場だ(2021年より建て替えのため休業中)。開放感のある天井の高さ、割り物のソフトドリンクは自分で冷蔵庫から取ってくるシステム、嘘だろ?と目を疑う安さ……。

どちらも取材拒否店につき、詳細をお伝え出来ないのでご容赦を。居酒屋では、『宝泉』や『やまに』もおすすめだ。

ビブグルマンに選出された自家製麺の『キング製麺』。
王子神社や飛鳥山公園などがあり、観光地としても人気の街、王子。都電荒川線がのどかに走り、下町風情が漂うが、じつはラーメン激戦区としても知られている。広くないエリアにひしめく店は、どこも工夫を凝らして個性的な味で勝負。とことん煮干しにこだわった煮干し系から、澄んだとんこつスープ、侮れないセットメニューまで逸品揃い。この記事では手軽に食べられるのに、お腹も心も満たされる、ラーメンの名店をご紹介します。

桜だけじゃない飛鳥山探訪!

一般的に王子のシンボルと言えばやっぱり飛鳥山公園ということになる。江戸時代、将軍吉宗の時代に1200本もの桜が植えられ行楽地となり、明治以降は渋沢栄一も居を構えたという一等地。2021年の大河ドラマ『青天を衝く』で観光客も増えた。現在、小高い山の上には『紙の博物館』『北区飛鳥山博物館』『渋沢史料館』の3つの博物館と、都電やSLの保存車両のある児童公園がある。

黄色い都電がシンボルの飛鳥山頂上の児童公園。

博物館はどれも充実しているが、おすすめは『紙の博物館』。紙にまつわるあらゆることが学べ、さらに日本全国の紙の工芸品コーナー。決して派手ではないが、驚くほど充実した展示で全部見ると軽く半日かかる。建築好きなら『渋沢史料館』の「青淵文庫」と「晩香蘆」も楽しいだろう。

渋沢栄一の傘寿(80歳)に竜門社(当時)が寄贈した「青淵文庫」。書庫として使われたという。
スタート:JR京浜東北線・地下鉄南北線・都電荒川線王子駅ー(1分/0.1㎞)→飛鳥山公園ー(3分/0.2㎞)→紙の博物館ー(1分/0.1㎞)→北区飛鳥山博物館ー(1分/0.1㎞)→渋沢史料館ー(12分/0.8㎞)→王子神社ー(5分/0.4㎞)→王子稲荷神社ー(3分/0.2㎞)→名主の滝公園ー(7分/0.5㎞)→北とぴあ 展望ロビーー(2分/0.2㎞)→ゴール:JR京浜東北線・地下鉄南北線・都電荒川線王子駅今回のコース◆約2.6㎞/約35分/約3500歩

王子でよく見るのはおじさん、親子連れ、そしてJK

ひと言で表すと「普段着な人」。大分栄えてきたとはいえ、住宅地なんだから当たり前といえば当たり前ではある。とはいえ、南北線開通をきっかけに、マンションがボコボコできていて、今まであまり見かけなかったプチセレブ感のある人もいる。昔は土地柄ゆえ、尖った人も多かったが、良い意味で普通な人が増えてきたのかもしれない。また、王子周辺には女子高(および女子の多い共学校)が多く、通学時間にはJKであふれかえることもある。

「狐の行列」とディープな三角地帯

2012年まで、王子は東京の横丁密集地帯の一つに数えられていた。駅北側の「やなぎ小路」、飛鳥山の麓にあった「さくら新道」と2つの横丁があったからだ。だが「さくら新道」は2012年に火事で大半が焼失し、ほどなく取り壊された。現在、王子がディープな文脈で紹介されることが減ったが、北口の都道307号と国号122号、首都高王子出入口に囲まれた三角地帯は、実はなかなかディープなエリア。

例えば、威容を誇る「飛鳥山スカイハイツ」。14階建て240戸、長谷川工務店が1958年に建てた大規模高級分譲マンションだが、これが40年以上の時を経て、なかなかいい味を出している。1階部分はゲーセンや激安天丼店や回転ずしなど昭和なテナントが入り、懐かしの公衆電話が近未来的テイストで佇んでいて泣ける。香港のチョンキンマンションを連想してしまったが、それは書きすぎか。いずれにしても楽しそうだ。

威容を誇る飛鳥山スカイハイツ。
その入り口近くにあるノスタルジックな公衆電話。

近くの一角にある「装束稲荷神社」は、毎年恒例の年始イベント「王子 狐の行列」のスタート地点。大みそかの夜に全国の狐がここで装束を整え、王子稲荷神社に詣でたという言い伝えにちなんだ行事だ。大みそかの夜、狐の仮装や仮面をつけた老若男女がここに集まり、王子稲荷神社までの約700mを1時間以上かけて練り歩くという、海外にも知られた幻想的な初詣イベントだ(2020年と21年は中止)。

三角地帯の一角に鎮座する装束稲荷神社。夜は幻想的。

「やなぎ小路」を歩いていたら、目を見張るほどオシャレなコーヒーショップを発見した。2021年3月にオープンした『王子珈琲焙煎所 サクラピアス』。なんと桜の木が店内にあるのだ。おすすめを聞いたら、カップオブエクセレンスを受賞した「コロンビア ラ・クルズ農園」で1杯1500円だという。

だまされたと思って飲んでみたら、これまで飲んだどのコーヒーよりも上品なチョコの風味があり、冷めてくるとリンゴのようなフルーティさが漂って……なんだかすごい。

なるほど狐の街、だまされてみるもんだなと思った。

『さくらピアス』でエクセレンスな一杯をどうぞ。

取材・文=久保拓英とゆかいな仲間たち 文責=さんたつ/散歩の達人編集部 イラスト=さとうみゆき

JR中央線の中央特快が停車し、総武線の始発・終点でもある「三鷹」は、吉祥寺から西へひと駅。ビル群が遠ざかり空がパーンと広がる、のびやかな東京都下の玄関だ。緑も豊かで空気がうまいと感じるが、断じてローカルではない。都会のおもしろみと身近な自然がバランス良く混ざり合って、華やかでも地味でもない心地よい独自文化をゆらゆらさせている。
千住は広い。日光道中の千住宿は、北千住(足立区)から南千住(荒川区)まで、全長4㎞にも及んだというから驚きだ。今回取り上げる「北千住」はその北3分の2ぐらい。隅田川と荒川放水路に挟まれた日光街道(国道4号線)の東西に広がる楕円形のエリアである。JR北千住駅の乗降客数は東日本管内で9位、なんと上野や秋葉原より上。そしてSUUMOが選ぶ「穴場な街ランキング」では4年連続で1位に選出。つまり今もっとも活気のある下町なのである。
浅草寺とその参道である仲見世商店街を中心として東西に広がる浅草。世界的にも有名な観光地であり、一時は日本人よりも海外旅行者の方が目立っていたが、コロナ以後は江戸情緒あふれる“娯楽の殿堂”の風情が復活している。いわゆる下町の代表的繁華街であって浅草寺、雷門、仲見世通り、浅草サンバカーニバルなどの観光地的なイメージや、ホッピー通り、初音小路のような昼間から飲める飲んべえの町としてとらえている人も多いだろう。また、和・洋問わず高級・庶民派ともに食の名店も集中するエリアだ。
水辺の下町でおすすめはどこ?と聞かれたら、私は深川と答える。特に清澄白河から森下にかけて辺りが最高だ。それはここが“水の都”だからなのだが、今はコーヒーの街としての方が名が売れている。だから、まずコーヒーの話から始めましょう。
東京最北端の繁華街として栄える赤羽。その中心部にあるJR赤羽駅は、1日10万人近い乗降者数を誇る要衝駅として、街のにぎわいを支える。 駅の東口には昔ながらの横丁や商店街がドシンと構え、昼間から酔ったオヤジが管を巻いていたり、威勢のいいお母さんたちが井戸端会議に花を咲かせていたり。かと思えば女子に受けそうなバーやカフェもある。駅の西側にはショッピングモールやスーパーマーケットが並び、学生や子育て世代からも人気のエリアだ。
東京23区のど真ん中に位置し、靖国通りと白山通りが交わる神保町交差点を中心に広がる街、千代田区神田神保町。  この街の特徴をひと言でいうと、なんといっても「本の街」ということになる。  古書店や新刊書店が多くあつまり、その規模は世界一とも言われている。だがそれだけではない。純喫茶、カレー、学生街、スポーツ用品街、中華街などなど、歩くほどに様々な顔が垣間見えるのが面白い。ある意味、東京で一番散歩が楽しい街ではないかと思うほどだ。  
蒲田は、城南を代表する繁華街である。と書くと、それは品川では? いや大井町や中目黒じゃないの? という声が上がるかもしれない。しかし、城南に生まれ育った人間なら知っている。蒲田こそが城南を代表する繁華街であり、城南文化、つまり渋谷や目黒、品川あたりから吹いてくる城南の風の吹き溜まりの街であることを。
JR西荻窪駅を中心として北は善福寺川、南は五日市街道あたりまで広がるこの街。「西荻窪」という地名は1970年に廃止され現存しないが、“西荻(ニシオギ)”という街の存在感はむしろ年々増している。吉祥寺駅と荻窪駅の間に位置し、「松庵」など高級住宅地を擁するせいで、中央線の中では比較的上品なイメージで語られることも多い。しかし、ひとたびこのエリアを歩けば、上品などころかかなり個性的な地だということが分かるだろう。店主がそれぞれの哲学を貫く店と、それらを愛してやまない住民が集まる、けっこう熱くてヘンな街なのだ。
いまや東京を代表する散歩スポットととなったこのエリア。江戸時代からの寺町および別荘地と庶民的な商店街を抱える「谷中」、夏目漱石や森鴎外、古今亭志ん生など文人墨客が多く住んだ住宅地「千駄木」、根津神社の門前町として栄え一時は遊郭もあった「根津」。3つの街の頭文字をとって通称「谷根千」。わずか1.5キロ正方ぐらいの面積に驚くほど多彩な風景がぎゅっと詰まった、まさに奇跡の街なのである。
高円寺は、キャラの濃い中央線沿線のなかでもひときわサイケで芳(こう)ばしい街だ。杉並区の北東に位置し、JR高円寺駅から、北は早稲田通り、南は青梅街道までがメインのエリア。中野と阿佐ケ谷に挟まれた東京屈指のサブカルタウンであり、“中央線カルチャー”の代表格とされることも多い。この街を語るときに欠かせないキーワードといえば、ロック、酒、古着、インド……挙げ始めればきりがない。しかし、色とりどりのカオスな中にも、暑苦しい寛容さというか、年季の入った青臭さのようなものが共通している。