味わい深い商店街の数々

北千住を代表する特徴の一つに商店街がある。最初に目につくのは「サンロード宿場通り商店街」。アーチも石畳も、非常に丁寧に作られているのがわかる。旧日光街道、つまり千住宿がそのまま商店街になっているのだから大切にされて当然だろう。名酒場『大はし』、槍かけだんごの『かどや』、「向かい目」の絵馬で有名な吉田絵馬屋、江度時代後期に建てられた横山家住宅、タコ滑り台で愛される千住ほんちょう公園などがある。

宿場町通り入り口のアーケード。
千住ほんちょう公園のタコ滑り台は地域の愛されキャラ。

『かどや』の先を左に曲がった先からは味わい深い「いろは通り」が始まる。特に有名な店があるわけではないが、昭和レトロな理容室や洋品店などが続々出てくるタイムスリップ感がすごい。ふと気づくと通り名が「ニコニコ商店街」に変わっていたりするのもいい。その少し南に並行して走る「千住大門通り」も必見だ。『双子寿司』の佇まいなど、パラレルワールド感というかなんというか、ちょっと筆舌に尽くしがたいものがある。

実はとってもおいしい寿司屋さんだそうです。

駅の反対側にはにぎやかな「旭町商店街」が。東京電機大のお膝元とあって学生街のよう。そこを抜けて、魔法陣のような同心円状の道を抜けた先にある「柳原商栄会」がまた渋い。ポツンとある『松むら』で絶品いなりずしをぜひ!

スタート:京成本線千住大橋駅ー(4分/0.3㎞)→橋戸稲荷神社ー(2分/0.1㎞)→奥の細道 矢立初めの地碑ー(6分/0.4㎞)→千住宿歴史プチテラスー(13分/0.9㎞)→勝専寺ー(4分/0.2㎞)→宿場町通り商店街ー(2分/0.1㎞)→千住街の駅ー(5分/0.3㎞)→横山家住宅ー(すぐ)→かどやー(10分/0.7㎞)→ゴール:JR常磐線・地下鉄千代田.日比谷線・つくばエクスプレス北千住駅今回のコース◆約3.7㎞/約1時間/約4900歩

千住と言えば銭湯

千住と言えば銭湯である。町田忍が「キング・オブ・銭湯」と名付けた「大黒湯」は2021年6月に閉業してしまったが、「キングオブ縁側」の『タカラ湯』は今も健在。かつて「銭湯のゴールデントライアングル」と呼ばれ、36もの銭湯があった千住。足立市場やお化け煙突で有名な東京電力千住火力発電所、色町があったおかげで、どの銭湯も沢山の客でにぎわったというが、いまやのこるは7つ。鯉のタイル絵が美しい『梅の湯』、瓦屋根が立派な『美登利湯』、唐破風の『大和湯』と、千住の銭湯はいまだに一見の価値あるものが多い。

キングオブ縁側とも呼ばれる『タカラ湯』。イベントも多数開催される。
2021年6月30日、キングオブ銭湯と呼ばれた北千住の「大黒湯」が、100年近い歴史の幕を下ろした。女将さんいわく、「本当はもう少し頑張りたかったんですが、建物が老朽化していて、体調も良くないところ天井の部材が落下したアクシデントがあり、お客さんに迷惑がかかってしまうのではと思い、閉店の決断をしました」とのこと。あまり大騒ぎしないでほしいという女将さんの意思を尊重し、われわれも最終日まで静観することに決定。そして今日、その幕は静かに閉じられた。さて「大黒湯」はどこがそんなに「キング」だったのか? 名付け親である町田忍氏によるオマージュを読みながら、キングオブ銭湯との別れを惜しみたい。

名酒場と人々の胃袋を支える足立市場

創業80年の『千住の永見』や三大煮込みの一つ『大はし』は、いずれも東京を代表する名酒場。串煮込みの『藤や』も唯一無二の老舗で、ここのモツ串煮込みは他では出合えない丁寧な味。串揚げの『天七』も大人気店。立ち飲みで、たばこは床にポイ捨てというルールからして昭和っぽい。老舗ではないが『酒屋の酒場』は駅から遠いにもかかわらずなかなか座れないので困る。酒も肴もこれ以上はないと思う丁度いい店。西口に巨大な横丁(矛盾を感じる言葉)があるせいかネオ酒場の質も高い。ガラス張りの『酒呑倶楽部アタル』は旨くて安くておしゃれという大衆酒場の三要素を高レベルに実現。ということで千住は、立石とともに双璧をなす下町酒場の聖地なのだ。

西口飲み屋横丁を代表する大衆酒場『千住の永見』。
ネオ酒場系で人気の『酒呑倶楽部アタル』。

また、その背景に足立市場の存在がある。千住大橋のたもとにある公設市場だが、オープンな雰囲気が素晴らしいので、是非一度足を運んでいただきたい。そして『かどのめし屋 海鮮食堂』の八戸ラーメン、そば屋『たけうち』の玉子ぞうに、『カフェ食堂みどり』の各種定食など人気メニューも食していただきたい。

金八先生の荒川土手と、お化け煙突

千住の物語といえば、やはり『3年B組金八先生』。このドラマのロケはおおむね北千住、牛田、堀切あたりで行われており、荒川土手や旭商店街は桜中学への通学路としてよく登場したので、歩くだけでノスタルジックな気分になる。また千寿桜堤中学校はドラマにちなんで名前がついたという嘘のようなエピソードがある。

『3年B組金八先生』のオープニングといえば荒川土手。

さらに古い話、千住といえばお化け煙突という時代もあった。大正15年から昭和38年まで千住桜木町にあった東京電力火力発電所の煙突で、本当は4本だが、見る方向によって3本にも2本にも1本にも見えたことからつけられた呼び名である。下町のどこからでも見えたこの煙突は地域のシンボルとして、小津安二郎の『東京物語』ほか数々の昭和の映画やドラマに登場。変わったところではつげ義春の漫画やスガシカオの歌のタイトルにもなっている。

「おばけ煙突」という名前は聞いたことがあるだろうか?隅田川に架かる尾竹橋脇にあった、千住火力発電所の4本の煙突のことだ。東京スカイツリー®ができるよりもはるか昔、大正から昭和初期にかけてできた「おばけ煙突」は、東京の下町のランドマークだった。この煙突がなくなって半世紀を過ぎたが、下町っ子の心には、にょきっと生えたままなのだ。煙突の時代の証人たちに話を聞きながら「おばけ煙突」の思い出をたどりたい。
最近はビールのCMでもよく流れている『ハルノヒ』って、じつは、2019年に公開されたクレヨンしんちゃんの映画の主題歌なのだな。歌詞の冒頭にでてくる北千住駅のプラットホームは、しんちゃんの父・野原ひろしが妻のみさえにプロポーズした場所だったという。

リノベ、トタン、キデンキ

そして現在、千住はリノベの街として注目を集めている。歴史のある街だけに、いいリノベ物件も続々と生まれている。例えば20年以上廃墟となっていたボーリング場と浴場跡を改装した『BUoY(ブイ)』はステージや稽古場、ギャラリーを備えたアート空間。築130年の元穀物倉庫を店主自ら改装した『GRANARYS COFFEEE STAND(グライナリーズコーヒースタンド )』も実に気持ちいい空間。宿場町通りの『八古屋(やこや)』も凝った造りで、居酒屋というより人と人が出合う多面的な場となっている。

リピーターが多い『GRANARYS COFFEEE STAND』。

しかし、散歩の達人としては、リノベよりトタンの美しさを愛でながら歩けばいいような気もする。前出「大門通り商店街」のトタンの三連建築は大変美しい。

柳原地区の路地に残る味わい深いキデンキ(木製支柱に裸電球のついた街頭)も可愛くて楽しい。細い路地を歩き、キデンキを訪ね歩く趣味人も多く、キデンキ君なるキャラクターが作られたこともあった。

思わず立ち止まるこの佇まい。
幻想的に浮き上がるキデンキの灯。

北千住で見かけるのはこんな人

北千住にいる人。その大半は普通の下町のおじさん、おばさんだが、JR常磐線、東武伊勢崎線、つくばエクスプレス、京成本線の各路線が集積する東京の玄関口ゆえ、たまに気合の入ったファッションセンスの人を見かける。金色でキメキメの女性がダイソーでフツーに買い物してたりする姿は痛快だ。

また、最近は学生が増えた。東京電機大学、帝京科学大学、東京芸術大学、そして東京未来大学の4校が門を構えるセンジュ。最近コスプレ姿の女性が目立つのはそのせいと思っていたが、きけばシアター1010(せんじゅ)で2.5次元系演目がよくかかるのだそう。

千住に限らず、荒川土手では散歩したり昼寝したり楽器吹いたりと、みんなが自由に好きなことやってる風景が日がな見られる。金八先生の時代と何ら変わらない、究極の無礼講地帯であろう。

街を再発見するということ

最後に、ここ数年、千住をそれぞれの立場から盛り上げている人を紹介したい。

一人目は2015年に千住で一人出版社・センジュ出版を始めた吉満明子さん。かつては中堅出版社の編集者でもあったが、千住に惚れて千住に住み着き、出産を機に千住をもっと発信したいと、会社を辞めて出版社を設立した。NHKドラマをノベライズした『千住クレイジーボーイズ』など年4~5冊の出版・編集のほか、「千住紙ものフェス」「センジュのがっこう」「あだち紙ものラボ」「読書てらこや」などイベントをぞくぞく開催。街にあらたなカルチャーの種をまいている。

センジュ出版と吉満明子さん。

その吉満さんに大きな影響を与えたのが、足立区シティプロモーション課の舟橋左斗子さん。1996年から2015年まで「町雑誌千住」というタウン誌を編集・発行し、2010年からは足立区シティプロモーション課の立ち上げ時から在籍している(現在は非常勤職員)。

シティプロモーション課とは区のイメージアップを担い、区の広報物にまつわる構成、デザインなどの相談を全課横断で引き受ける窓口で、年間400件以上の案件を扱ういわば駆け込み寺のような存在。犯罪を減らすビューティフル・ウインドウズ運動や日本一おいしい給食のPRなどその功績は大きい。

千住の歴史は長く深い。老舗や旧道、銭湯など、街のポテンシャルはもともと大きかったのだろう。しかし、ここに挙げた二人の女性や、千住を銭湯の街と謳った町田忍さん、さらにはリノベ物件の若き店主たちやドラマや映画のクリエイターなど、街の強みを再発見した人間の視点が大事ともいえる。いい街にはいい宣伝マンがついているものだ。

千住は人もうらやむ街。(写真はほんちょう公園の「かくれんぼ」像)

取材・文=武田憲人 文責=さんたつ/散歩の達人編集部
イラスト=さとうみゆき

浅草寺とその参道である仲見世商店街を中心として東西に広がる浅草。世界的にも有名な観光地であり、一時は日本人よりも海外旅行者の方が目立っていたが、コロナ以後は江戸情緒あふれる“娯楽の殿堂”の風情が復活している。いわゆる下町の代表的繁華街であって浅草寺、雷門、仲見世通り、浅草サンバカーニバルなどの観光地的なイメージや、ホッピー通り、初音小路のような昼間から飲める飲んべえの町としてとらえている人も多いだろう。また、和・洋問わず高級・庶民派ともに食の名店も集中するエリアだ。
水辺の下町でおすすめはどこ?と聞かれたら、私は深川と答える。特に清澄白河から森下にかけて辺りが最高だ。それはここが“水の都”だからなのだが、今はコーヒーの街としての方が名が売れている。だから、まずコーヒーの話から始めましょう。
いまや東京を代表する散歩スポットととなったこのエリア。江戸時代からの寺町および別荘地と庶民的な商店街を抱える「谷中」、夏目漱石や森鴎外、古今亭志ん生など文人墨客が多く住んだ住宅地「千駄木」、根津神社の門前町として栄え一時は遊郭もあった「根津」。3つの街の頭文字をとって通称「谷根千」。わずか1.5キロ正方ぐらいの面積に驚くほど多彩な風景がぎゅっと詰まった、まさに奇跡の街なのである。
JR中央線の中央特快が停車し、総武線の始発・終点でもある「三鷹」は、吉祥寺から西へひと駅。ビル群が遠ざかり空がパーンと広がる、のびやかな東京都下の玄関だ。緑も豊かで空気がうまいと感じるが、断じてローカルではない。都会のおもしろみと身近な自然がバランス良く混ざり合って、華やかでも地味でもない心地よい独自文化をゆらゆらさせている。
東京23区のど真ん中に位置し、靖国通りと白山通りが交わる神保町交差点を中心に広がる街、千代田区神田神保町。  この街の特徴をひと言でいうと、なんといっても「本の街」ということになる。  古書店や新刊書店が多くあつまり、その規模は世界一とも言われている。だがそれだけではない。純喫茶、カレー、学生街、スポーツ用品街、中華街などなど、歩くほどに様々な顔が垣間見えるのが面白い。ある意味、東京で一番散歩が楽しい街ではないかと思うほどだ。  
蒲田は、城南を代表する繁華街である。と書くと、それは品川では? いや大井町や中目黒じゃないの? という声が上がるかもしれない。しかし、城南に生まれ育った人間なら知っている。蒲田こそが城南を代表する繁華街であり、城南文化、つまり渋谷や目黒、品川あたりから吹いてくる城南の風の吹き溜まりの街であることを。
JR西荻窪駅を中心として北は善福寺川、南は五日市街道あたりまで広がるこの街。「西荻窪」という地名は1970年に廃止され現存しないが、“西荻(ニシオギ)”という街の存在感はむしろ年々増している。吉祥寺駅と荻窪駅の間に位置し、「松庵」など高級住宅地を擁するせいで、中央線の中では比較的上品なイメージで語られることも多い。しかし、ひとたびこのエリアを歩けば、上品などころかかなり個性的な地だということが分かるだろう。店主がそれぞれの哲学を貫く店と、それらを愛してやまない住民が集まる、けっこう熱くてヘンな街なのだ。
東京最北端の繁華街として栄える赤羽。その中心部にあるJR赤羽駅は、1日10万人近い乗降者数を誇る要衝駅として、街のにぎわいを支える。 駅の東口には昔ながらの横丁や商店街がドシンと構え、昼間から酔ったオヤジが管を巻いていたり、威勢のいいお母さんたちが井戸端会議に花を咲かせていたり。かと思えば女子に受けそうなバーやカフェもある。駅の西側にはショッピングモールやスーパーマーケットが並び、学生や子育て世代からも人気のエリアだ。
高円寺は、キャラの濃い中央線沿線のなかでもひときわサイケで芳(こう)ばしい街だ。杉並区の北東に位置し、JR高円寺駅から、北は早稲田通り、南は青梅街道までがメインのエリア。中野と阿佐ケ谷に挟まれた東京屈指のサブカルタウンであり、“中央線カルチャー”の代表格とされることも多い。この街を語るときに欠かせないキーワードといえば、ロック、酒、古着、インド……挙げ始めればきりがない。しかし、色とりどりのカオスな中にも、暑苦しい寛容さというか、年季の入った青臭さのようなものが共通している。