名物“軍艦”は頭の柔軟体操の場である。『東京堂書店』[神保町]
日本随一の本の街・神保町にあって信用を得ているのは、まずは地道な仕事だ。乱雑にならず、棚に空白をつくらず、常にメンテナンスを心がけている。そして1階中央、「軍艦」と呼ばれる平台は、新刊と共に既刊も置く濃厚な知の泉。ここで頭を柔らかくして2・3階へと向かうのがおすすめだ。そして、フェア。全書店員さんが楽しみながら考え、続々と案があがってくる。フェアは書店員さんの頭の中。本好きでなくとも、のぞいてみたい。
『東京堂書店』店舗詳細
本とギャラリーが補い合う人のつながり。『山陽堂書店』[表参道]
2011年、創業120周年を機に全面リニューアル。1階は書店、2階はギャラリー、3階は喫茶(不定期営業)。本とギャラリーはよくなじみ、イラストレーターや写真家の展示が続く。「それまでは発信力が足りなかったと思います。ギャラリーを併設して、本にとって装丁や編集の仕事がどれほど大事かわかりました」。4代目のひとり、遠山秀子さんは話す。展示をすることで人との交流もみるみる広がった。「本が人とつなげてくれていることを実感しています」。
『山陽堂書店』店舗詳細
ハイレベルの「普通」、街の書店の理想形。『今野書店』[西荻窪]
「ごくあたりまえの街の本屋ですから、どなたにも利用価値があるように、できるだけ多くのジャンルをカバーしたいと思っています。コロナ禍以降は学校が閉鎖になったこともあってドリル類がよく売れ、その流れで児童書や絵本は意識して増やしました」。こう話してくれたのは、今野英治代表だ。
今野書店をよく知る人がまず向かうのが、入り口すぐ右手の文芸書と人文書の平台。ここに厳選されている本を見れば、「いま」という時代が何を問題とし、思考しているかがよくわかる。スタッフの自由度が高く、例えばスタッフの1人が注目する1冊の本と、それに関連する別の数冊を並べたフェアなども成立してしまう。
「どなたにも利用価値がある」というのはつまり「普通」ということ。しかし「普通」はどこにでもあるステレオタイプとは違い、日々の工夫の中で維持されているものだ。そして尖った個性を際立たせようとしないことでもある。こんな行き届いた「普通」が駅の目の前にあるなんて。そして地下には漫画専門フロアまであるのがまたうれしい。
『今野書店』店舗詳細
本を愛する者同士の真剣勝負を銀座で!『教文館』[銀座]
1階は雑誌や地図がある小さなフロアだが、2階へ上ると雰囲気は一変。土地柄から、歌舞伎、落語の棚はもちろん、料理書のスペースがかなり広い。そして奥は岩波書店、みすず書房など人文書の棚。価格も高く、そうそう売れる本ではないが、知識欲旺盛なお客さんの需要に応えるべく欠かさず置いている。書店員さんの読書量も相当なもので、経験から売れる本がわかるという。本を売る側と買う側の固い信頼関係が成り立っている。
『教文館』店舗詳細
「真剣に生きろ」と店主は言った。『読書のすすめ』[篠崎]
店主の清水克衛さんは、お客さんの悩みを聞いて、その人に合った本をすすめる書店員だ。店内に置いてある本は、450年前から薩摩藩に伝わる教科書など、他店ではあまりみかけないものが多い。段ボールに書かれたポップ兼注意書きも秀逸で、3冊並んだ本の読むべき順番が指示してあったり、読む回数のアドバイスがあったりする。心が豊かになるというようなあやふやなものでなく、生きることに直結した真剣な読書を、すすめている。
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谷根千のうれしい路面書店。『往来堂書店』[千駄木]
谷根千(やねせん)といえば、地域雑誌「谷中・根津・千駄木」がそのままエリアの名称として受け継がれたことを知る人も多いだろう。今や全国で行われている「一箱古本市」の発祥の地でもある。そんな街にあるのが『往来堂書店』。入り口近くにはその「谷中・根津・千駄木」バックナンバーや東京の本などが並ぶ。
そしていちばんの醍醐味は、1つのテーマに沿った本がまとまって見られること。大型書店で同一テーマの本が集中しているのは当然だが、そこにたどり着くにはあらかじめ自分の中で読みたいテーマが決まっていないといけない。でも往来堂書店なら、数歩歩く中に「アイヌ」「フェミニズム」「登山・冒険」といったテーマでほどよい数の本がまとめられ、それが自分でもぼんやりとしか気づいていなかったテーマについての興味の発見になってくれるはずだ。
『往来堂書店』店舗詳細
読者はもちろん作家も大切にする老舗書店。『BOOKSルーエ』[吉祥寺]
「ルーエ(Ruhe)」とは、ドイツ語で「静けさ」のこと。なるほど、人通りの多いサンロードから店内に入ると、喧騒がスッと静かになる。1階が雑誌と文芸書、実用書など。2階が人文書や歴史書、文庫、新書など。3階がコミックはじめビジュアルもの。いずれも表紙を見せた面出しのスペースが大きく取られていてとても見やすい。
「私、自発的に営業なんかもしてまして(笑)、キン・シオタニさんの作品は本になりました。江口寿史さんの画集『彼女』が出た際にはオリジナル・ポストカードを作りました」。代表の永井健さんはそう語る。吉祥寺は漫画家やイラストレーターが多く住む街であり、それら「地元」の作家との関係を大切にし、応援してきた。作家と普段から顔の見える付き合いをしていることで、そこから生まれたグッズやフェアなどがお店にやってきた人々にうれしい特典をもたらしていることは間違いない。
『BOOKSルーエ』店舗詳細
書店チェーンながら地元密着書店。『文教堂 赤羽店』[赤羽]
書店チェーンながら“地元密着”を掲げ、赤羽関連本の品揃えは他の追随を許さない。雑誌や漫画の新刊発売を目指して開店早々来店し、そのまま書棚を回遊する人も多い。各書店員が手がけるコーナーもユニーク。10名ほどの書店員が担当する棚は、“タイル”、悪魔や草などの“辞典”など、個性的なテーマ多し。美しい装丁にも引かれ、趣味の世界が広がりそう。
『文教堂 赤羽店』店舗詳細
未知の本との出会いに心が動く。『Title』[荻窪]
幅広いジャンルを揃える新刊書店。店主の辻山良雄さんのブックセレクトは多くの本好きから支持を得ている。現在はコロナ禍により休止しているが、著者によるトークイベントも魅力。1F奥はカフェスペース、2Fはギャラリーになっている。
『Title』店舗詳細
間口の広さで惹きつける。『文禄堂 荻窪店』[荻窪]
「間口が広いことで、多くの人に入っていただけるとうれしいです」と店長の前田さん。『文禄堂 荻窪店』は店の横幅すべてが間口であり、実質上、すべてが出入り口となっている。多くの人が入りやすい店を目指して、気になって店内を除いた人は自然と店の中に吸い込まれていく仕組みだ。
店頭のワゴンには月ごとの企画で雑貨が並ぶ。ぬいぐるみやしゃれた雑貨、バッグなど店に入るだけでも楽しいめるのだ。本は話題で売れ筋のものだけでなく、長く愛される本を多く紹介しており、ジャンルも文芸から実用書、子供向けの本までさまざま。24時までやっているのもうれしい。
『文禄堂 荻窪店』店舗詳細
取材・文=屋敷直子、北條一浩、佐藤さゆり(teamまめ)、ミヤウチマサコ 撮影=金井塚太郎、北條一浩、高野尚人、ミヤウチマサコ