【吉祥寺の個性を引き出す個人店】

生活に根付いた街の古本屋さん『古本のんき』

店主の西村美香さん。絵本はこれから力を入れて揃えていきたい、とのこと。「文庫は岩波、ちくまなど良いものを揃えています!」。
店主の西村美香さん。絵本はこれから力を入れて揃えていきたい、とのこと。「文庫は岩波、ちくまなど良いものを揃えています!」。

店主の西村美香さんは、新刊書店と古書店で働いたのち、2021年3月に自分の店を開いた。入り口付近には漫画、暮らしの本、絵本、文庫と親しみやすいジャンルが並び、奥の棚に文芸、歴史、哲学と続く。「いろいろな分野の入り口になるような、興味をもつきっかけになる本を置きたい」と話す。木の本棚は近所の材木店から材料を買って自作。一から立ち上げた店を、こつこつ育てる日々だ。

レジの後ろには希少な本もあり。
レジの後ろには希少な本もあり。
店主の好みで揃える相撲関連の本。
店主の好みで揃える相撲関連の本。
店のロゴは、グラフィックの本を参考に自身でレタリングした。店名と書体の雰囲気が合っている。
店のロゴは、グラフィックの本を参考に自身でレタリングした。店名と書体の雰囲気が合っている。

『古本のんき』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町2-4-6/営業時間:12:00~20:00/定休日:火(臨時あり)/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩3分

店主とお客さんの「対話」で棚ができていく『古書防破堤』

2020年1月にオープン。お客さんからの買い取り内容によって日々ラインナップは変化する。
2020年1月にオープン。お客さんからの買い取り内容によって日々ラインナップは変化する。

中道通りから路地に入った2階。読書家の部屋のようで集中して本を選ぶことができる。哲学や思想などの人文書、音楽、映画が充実しているのは「自分の趣味」と店主の堤さん。「何かを知りたいと思ったときに助けになるのが文学や思想だった」と話し、年代順や作家順など、ジャンルによって探しやすいように本を並べている。棚のつくりに呼応して買い取りも増え、より豊かな棚が生まれている。

CDやDVDも扱っている。
CDやDVDも扱っている。
音楽や映画関連の新刊も一部あり。
音楽や映画関連の新刊も一部あり。
店主の堤雄一さん。かつては大阪で新刊書店を経営していた。のちに上京。「店名は防波堤ではなく防『破』堤 です」。
店主の堤雄一さん。かつては大阪で新刊書店を経営していた。のちに上京。「店名は防波堤ではなく防『破』堤 です」。

『古書防破堤』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-25-7 中山ビル201/営業時間:12:00~20:00/定休日:木/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩6分

唯一無二の空間で世界中の絵本を堪能『MAIN TENT』

冨樫さんは「楽しいだけじゃなく、サーカスがもつ哀しみも忘れずにいたい」と話す。「店内の隠れたしかけや住人たちを探してみてね」。
冨樫さんは「楽しいだけじゃなく、サーカスがもつ哀しみも忘れずにいたい」と話す。「店内の隠れたしかけや住人たちを探してみてね」。

店主の冨樫チトさんはダンサーでもある。演出も手がけ、舞台セットをつくっていたが「公演が終わると壊してしまうことが寂しく、つくり続けられる場所が欲しかった」という。自ら設計を手がけた店内はサーカスのような祝祭感があり、随所に遊び心が光る。幼少期に絵本に囲まれて育った経験から、当時おもしろかった感覚を忘れずに本を選ぶ。国内だけでなく、東欧など世界の絵本も数多い。

一段高くなったレジの下部にはポストがあり、会計時に子供が本を出し入れする。
一段高くなったレジの下部にはポストがあり、会計時に子供が本を出し入れする。
店主と妹さんが描いた絵が壁面を飾る。
店主と妹さんが描いた絵が壁面を飾る。
入り口から祝祭感。
入り口から祝祭感。

『MAIN TENT』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-7-3 フェリオ吉祥寺102/営業時間:10:30~17:00(土は~17:30、日・祝は~18:00)/定休日:水/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩6分

新旧の絵本と世界各地の雑貨が並ぶ『あぷりこっとつりー』

中央の3つの島は新刊コーナー。壁沿いの棚には、チェコなど東欧の絵本が並ぶ。
中央の3つの島は新刊コーナー。壁沿いの棚には、チェコなど東欧の絵本が並ぶ。

原宿から移転して中道通り沿いに開店したのは、2021年2月。子供を連れたお母さんから、80代の方まで、幅広いお客さんが来店するようになった。店主の藤原さん夫妻が、外国旅行の際に買い集めてきた絵本や雑貨が並び、新刊の絵本も扱う。目指すのは「自分が子供のころに商店街にあった駄菓子屋さんのような、毎回新しい発見がある、冒険できる店」。絵本は、いつの時代も思い出をつないでいく。

ドイツのクリスマス市で購入したもの。
ドイツのクリスマス市で購入したもの。
新刊の絵本は、ゆるやかにジャンル分けされている。
新刊の絵本は、ゆるやかにジャンル分けされている。
藤原さん夫妻。ふたりで外国を旅するのが趣味。「買い取りも受け付けているのでぜひどうぞ」。
藤原さん夫妻。ふたりで外国を旅するのが趣味。「買い取りも受け付けているのでぜひどうぞ」。

『あぷりこっとつりー』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町4-6-2 秋元ビル101/営業時間:11:00~18:00(金は14:00~)/定休日:月・火/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩7分

本から始まる人とのつながり『百年』

写真集やデザイン関連の本が充実している。手に取る楽しみがある本ばかり。
写真集やデザイン関連の本が充実している。手に取る楽しみがある本ばかり。

吉祥寺にお店を開いたのは2006年8月。以来、「本を売る場」ではなく「本を通して人とやりとりをする場」を目指してきた。店内の古本は、お客さんからの買い取りが8割も占めるが、本を大切に扱い、誠実な値付けをし、必要としている人のところへ本を届けることを愚直に続けたからこその結果だろう。磁石のように、良書は良書を呼ぶのだ。本を読む行為は孤独だが、そこから始まる対話があることを、『百年』は教えてくれる。

徒歩1分のところに姉妹店『一日』もあり、あわせて訪れたい。
徒歩1分のところに姉妹店『一日』もあり、あわせて訪れたい。
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10-2F/営業時間:12:00~21:30/定休日:火/アクセス:JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩5分

実物を手にとる貴重な体験『よみた屋』

ハヤカワ・ポケット・ミステリのシリーズが大量に入荷。圧巻。
ハヤカワ・ポケット・ミステリのシリーズが大量に入荷。圧巻。

店主の澄田さんは「古書店を商いとして成り立たせる」ことに長年心を砕いてきた。古本といえども、売れ筋や旬のものがある。このごろはビジュアル重視の“見る本”が増えてきた、とのこと。曰く「絵や写真は、やはり実物の力が違います。デジタルでは再現できない」。昭和30年代の絵本を手に取ってみれば、その紙質やインクの鮮やかさに五感が刺激される。実物のありがたみを、ひしと感じる。

左から時計回りに『キンダーブック』(昭和31年発行)2000円。『アンチ・オイディ プス』(ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ)2000円。1ページごとに違う画家が 描いている『猫町』(萩原朔太郎・著)、5万円。
左から時計回りに『キンダーブック』(昭和31年発行)2000円。『アンチ・オイディ プス』(ジル・ドゥルーズ、フェリックス・ガタリ)2000円。1ページごとに違う画家が 描いている『猫町』(萩原朔太郎・著)、5万円。
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町2-6-10/営業時間:10:00~21:45/定休日:無/アクセス:JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩3分

本が好きな気持ちをそのまま売り場へ『BOOKS ルーエ』

キンシオタニさん画の書皮と袋。
キンシオタニさん画の書皮と袋。

『BOOKSルーエ』の2階には、花本武さんという本の話を始めると止まらない書店員がいる(取材当時)。売り場で静かに輝いているのは、本を読んだときの興奮を的確に伝えようとするポップ。「人間の頭の中って整理されていなくて、でもごちゃごちゃなままでいいんじゃないかと思うんです。いつも迷っていますが」。その勢いと迷いが、売り場づくりの原動力だ。「いかに楽しんでやれるかが勝負です」。その楽しさがお客さんに確実に伝わっているのだ。

左『通勤電車でよむ詩集』小池昌代編著、713円。“わからない”を楽しむことの豊穣さを実 感できる。右『まばたきとはばたき』鈴木康広、2700円。現代美術家の作品写真やその源であるスケッ チなどを収録。
左『通勤電車でよむ詩集』小池昌代編著、713円。“わからない”を楽しむことの豊穣さを実 感できる。右『まばたきとはばたき』鈴木康広、2700円。現代美術家の作品写真やその源であるスケッ チなどを収録。

【地域に寄り添う大型書店】

百貨店開業当初から、地域に寄りそう『紀伊國屋書店 吉祥寺東急店』

レジ横の棚。『文藝春秋』や健康関連の本などが並ぶ。新聞広告の切り抜きを持って来店するお客さんも多い。
レジ横の棚。『文藝春秋』や健康関連の本などが並ぶ。新聞広告の切り抜きを持って来店するお客さんも多い。

東急百貨店内にあって、低めの棚で通路が広く、ゆったりと本を選ぶことができる。特に力を入れているのは児童書で、ロングセラーから最近の人気の絵本までが揃う。そのつながりで小学校受験の参考書も充実するなど、子育て世代のニーズに応えている。レジ横には、とくに問い合わせが多い雑誌やNHKのテキストが集められたコーナーがあり、客層を熟知した細かい気づかいが伝わってくる。

にぎやかな絵本コーナー。長く売れているのは『ぐりとぐら』。世代を超える名作だ。
にぎやかな絵本コーナー。長く売れているのは『ぐりとぐら』。世代を超える名作だ。
店長代理 小松篤史さん。吉祥寺東急店に約20年勤務。おすすめは『クララとお日さま』。
店長代理 小松篤史さん。吉祥寺東急店に約20年勤務。おすすめは『クララとお日さま』。

『紀伊國屋書店 吉祥寺東急店』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-3-1 東急百貨店吉祥寺店8F/営業時間:10:00~19:00/定休日:不定/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩5分

【休業】通りすがりに立ち寄って「今」を知る『ブックファースト アトレ吉祥寺店』

駅ビルにあるためか、文庫や雑誌など気軽に買えるものが売れ筋。
駅ビルにあるためか、文庫や雑誌など気軽に買えるものが売れ筋。

駅ビルの通路に沿う細長いつくりで、通勤通学や買いもの帰りに気軽に立ち寄る人でにぎわっている。通路寄りの平台には奥の棚に並ぶジャンルから厳選したラインナップが置かれていたり、おすすめポイントを書いたポップを立てたりと、本を探しやすくする工夫が光る。スタッフは巷で話題になっている本を、いち早く並べるために広くアンテナを張っていて、旬の売り場が日々更新されている。

文庫棚の通路寄りの平台。階段状に本が積まれていて、見やすくなっている。スタッフによる手書きポップも熱い。
文庫棚の通路寄りの平台。階段状に本が積まれていて、見やすくなっている。スタッフによる手書きポップも熱い。
売り場担当おすすめは、映像化された『正体』、ハードボイルド作品『宿命』。
売り場担当おすすめは、映像化された『正体』、ハードボイルド作品『宿命』。

【休業】『ブックファースト アトレ吉祥寺店』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-1-24 アトレ吉祥寺2F/営業時間:10:00~21:00/定休日:無/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩1分

思いがけない出合いがある、地域随一の品揃え『ジュンク堂書店 吉祥寺店』

2022年6月に店内を改装。
2022年6月に店内を改装。

実用書から学術書、入門書から専門書まで、圧巻の品揃えで知識欲を満たしてくれる。扱う冊数が多いため、目的の本を見つけやすくするためにスタッフは試行錯誤を繰り返していて、ジャンル、著者名、テーマなどを横断する本の並びが楽しい。何かを始めようとする欲求を後押ししてくれる、頼もしい存在だ。

人文書担当 梅田昌伸さん。イチオシはサンロードの謎を解明『中央線がなかったら』です。
人文書担当 梅田昌伸さん。イチオシはサンロードの謎を解明『中央線がなかったら』です。

『ジュンク堂書店 吉祥寺店』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-5 コピス吉祥寺B館6・7階 
/営業時間:10:00~21:00/定休日:無(コピス吉祥寺に準ずる)/アクセス:JR中央線・京王電鉄井の頭線吉祥寺駅から徒歩5分

取材・文=屋敷直子 撮影=木村心保、金井塚太郎、鈴木愛子

リトルプレス好きが集って毎回にぎわうイベント『吉祥寺ZINEフェスティバル』。このフェスを仕掛けた張本人、『ブックマンション』の中西功さんが、街の西側に、ZINE作りの拠点をオープン! その動きを追いかけてみた。
本誌『散歩の達人』2022年4月号で「吉祥寺がZINEの街になる!?」との企画をお送りしたがその後の展開はいかに? のぞいてみたら着実に広がっているではないか。新しい動きやZINE作りについて、主宰の中西功さんに案内していただいた。