――互いのお店を見て、どう思われましたか。
今野 本を選び、それらをどうやってお客さんに売るのか、一つ一つ見極めながら置いているなと感じました。開店当初から一貫して芯がありますよね。うちの店は、学習参考書や児童書、雑誌など、ジャンル的にまんべんなく置いていて、するとやはり文芸書や人文書のスペースを絞らなくてはならないんですが、その部分に特化してしっかり売り、さらに肉付けしているのが、いいですね。
辻山 『今野書店』さんは、誰が来ても満足する店だと感じました。うちにはない雑誌も多く置いていますし、絞っているとはいっても、文芸や人文も担当の方が選ばれたものがしっかり積まれていて、本好きの気持ちも満たす。たとえば病気になったときに知りたい情報など、あらゆるニーズに応えられる店だから、街の人は安心すると思うんです。配達や教科書販売もやられてますよね。
今野 教科書販売は10校ほど担当してます。
辻山 見えないところでも街の役に立っている。共に歩んでるという感じがします。
――どのような視点で本を選んでいますか。
今野 駅前にある街の本屋なので、基本は取次から入ってくる新刊や雑誌を全て並べます。新刊については、取次からの配本に頼らずに出版社と話をして、こちらが希望するものを置いてもらうこともあります。
辻山 うちの店は取次の配本がないので、基本的には事前にこちらが注文した本が入ってきます。毎日お客さんと接していて、誰が何を買っていったかというのが自分の中に蓄積されているんですね。ウェブショップでは全国から注文がきます。そうした蓄積を基に、本を選んだり、入荷数を考えたりしてます。
本自体が持つ力を信じる
――入荷した箱を開けて新刊を手にとった時点で売れるかどうかわかる、という話を聞きますが、そんな勘のようなものはありますか。
今野 ありますよ。僕の場合は担当を外れて時間が経っていますが、たまに棚に入れにくい本があります。ジャンルがどっちつかずだったり、タイトルが新しいワードだったり、そういう本にはすごく可能性がある。それが書店員の琴線に触れて、積極的に仕掛けてみると、お客さんに本の存在を気づいてもらえるんですね。すっと棚に入る本っていうのは意外と没個性なんですよ。どこに置けばいいのか困る本のほうが楽しいし、面白い。
辻山 ジャンルがないというのは類書がないということで、新しいんですね。これまで言葉にされていなかったけれど、じつはみんな待っていた、というような。たとえば、フェミニズムは昔からある考え方ですが、ここ最近、生きづらさや言葉にできなかったものが本になり、さらに声が上がって類書が増えて、今では棚ができるほどです。
――2店とも、本が見やすいと感じるのですが、日々の基本作業がありますか。
辻山 本自体をきれいに見せてあげれば、本は勝手にお客さんに対してプレゼンをするので、きれいに並べていればそれでいいと思っています。たとえば、平積みは手前を低くして、後ろを高くすれば手に取りやすい、とか。
今野 僕は、棚の作り方の基本は雑誌にあると思ってます。ジャンルごとに隣に並ぶ雑誌を考えることで、書籍の棚の作り方も分かっていく。この本の隣には、この本があるべきという感覚を養うことです。
辻山 今野さんは長くお店を続けていますが、品揃えを良くすることで、お客さんに来てもらえると感じますか。
今野 西荻は作家さんも住んでいますし、本好きが集まっていると言われています。昔から書店も多くて、しのぎを削っていた。今は駅前ではうちの店しか残っていませんが、閉店した書店さんたちが連綿と種を蒔(ま)いていたと思うんですね。おもしろい本屋さんがあるから本好きが集まってきたんじゃないか、と。
辻山 うちは、荻窪でも西荻でもない中間地点にありますが、昔から住んでいらっしゃる方も多く、これまで種を蒔いてくださった書店とか、いろいろな要因があって店をやっていけていると感じます。ネットだけだと、自分が興味のある範囲でしかないけど、実際に新刊・古書店に行ってみると、思いもしない本が見つかる。そうして自分が耕されていくし、本が好きになっていく。1軒だけじゃなくて、何軒もあるからこそなんです。
『今野書店』
『本屋Title』
取材・文=屋敷直子 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2023年8月号より