「住みたい街ランキング」でトップ争い常連の街、吉祥寺。カフェや居酒屋の有名店も多いが、個性的な書店が数多く営業している。今回はそんな吉祥寺の書店から新刊書店・古書店とりまぜておすすめ4店を紹介します。
神保町が本屋街となったのには、街の歴史に秘密があるという。江戸時代、周辺には武家屋敷が非常に多かった。それが明治に入って各地に移り、屋敷は空き家に。そこへ多くの学校が建てられた。次々と学校が建てられたことで、自然と書物の需要も増えていったという。ずらりと並ぶ書店は、それぞれに得意分野があるので、競合もしない。むしろ、ここへ来ればきっと見つかる! そんな宝探しのようなワクワク感を味わえる、貴重な本屋街に感謝。

中央線の“スキマ”に息づく幸せな循環。『古書 音羽館』[西荻窪]

店内は小さくBGMが流れ、静かな緊張感がある。

いつ行っても、お店が呼吸している。棚の前では、お客さんがくつろぎつつも真剣に本を選び、 毎日本が入れ替わっていく。店主の広瀬洋一さんは、 「野菜や日用品みたいに、本を毎日買いに来るものにしたい」 という思いが強い。ものをつくっている人が多い土地柄が、お店の活気につながってもいる。多様な本を、きちんとした価格で売ることは、本を買う人ばかりでなく、売る人をも呼び込むのだ。幸せな循環がここにある。

入り口はふたつ。右は人文、海外文学、音楽、映画、写真集、左は絵本、漫画、文芸、生活など。
店主の広瀬洋一さん。

『古書 音羽館』店舗詳細

住所:東京都杉並区西荻北3-13-7/営業時間:12:00~22:00/定休日:火/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩5分

時代を映す本を次世代へと受け継ぐ。『よみた屋』[吉祥寺]

扱う本はおよそ5万冊におよぶ。発見型総合古書店である。

店主の澄田喜広さん曰く「本屋さんは、本が通る通路をつくる仕事」 。本を選ばず、できるだけ多くの本を通したいという思いから、 思想、 歴史、 数学、 科学、環境、精神医学、芸術、演劇とあらゆる分野を網羅した品揃えになっている。その分類も店内の眺めも、まるで図書館のようだ。 「地域の本を受け継いで、次の世代へと伝えるのも、古書店の大事な役目です」 という言葉を聞いて、古本は歴史の資料のひとつであることに気づく。

代表の澄田喜広さん(左)と、店長の佐藤佳奈さん(右)。
絵本のラインナップも豊富。時代を問わず、洋の東西を問わず。

『よみた屋』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町2-6-10/営業時間:10:00~21:45/定休日:無/アクセス:JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩3分

大学街で長年生き抜く安心の目利き。『古書現世』[早稲田]

向井さんは鬼子母神での「みちくさ市」など地域の古本市にも力を入れている。

高田馬場から早稲田にかけて、古書店が点在している。かつては 40軒ほど、現在は半分くらいになったとはいえ、大学のお膝元として脈々と続く古本街だ。 『古書現世』 の向井透史さんは二代目。古本業に就いて20年を超える。「大学の先生を中心に、大量の買い取りが多いです。お客さんも大学関係者が主ですね」 。とはいえ敷居が高いわけではない。ジャンルでなく価格で本が分けてある一角があったり、現代史が充実していたり、探究心に火が付く店である。

店頭も注目。

『古書現世』店舗詳細

住所:東京都新宿区西早稲田2-16-17/営業時間:12:00~18:00/定休日:日/アクセス:地下鉄副都心線西早稲田駅から徒歩5分

愛と笑いの不思議な古書店。『古書往来座』[池袋]

明治通り沿い。この大きな赤い看板が目印。

明治通り沿い。この大きな赤い看板が目印。なんとも不思議な店である。店に入ってすぐの正面は、たいてい何らかの企画棚になっていて、取材時は新聞連載の切り抜きを束にして綴じた本がいくつも積まれていた。これは実にめずらしく、ユニークだ。他の古書店でこういうものを見る機会はほとんどない。かと思うといきなり服(!)が並んでいたりする。「『ノマド雑貨店めずらしいことり』という屋号を持つ方の出張販売スペースなんです。毎週続々と納品してもらって、ちゃんと売れていきます」(代表の瀬戸雄史さん)

そして極めつけが名物店員・のむみちさん。東京都内の名画座の上映プログラムをポケットサイズにまとめた『名画座かんぺ』(持ち帰り自由)は、今や名画座に通う熱心な映画ファンの必須アイテム。そこから発展した「名画座手帳」も毎年発行・販売している。次はいったいどんな手で驚かせてくれるのか。常に目が離せない古書店である。

面白い人が作った面白い本は、それを積極的に面白がる古書店にたどり着く。
「名画座かんぺ」と「名画座手帳」を手にするのむみちさん。

『古書往来座』店舗詳細

古書店は入りにくい? いや、ここなら大丈夫。『古本遊戯 流浪堂』[学芸大学]

書店としてはめずらしい、にぎやかで楽しいたたずまい。

東急東横線学芸大学の西口を出て、西口商店街を左へ。線路沿いの道を3分ほど進んで、有名な洋菓子屋さんの『マッターホルン』が見えたらその路地を右折。すぐ右側に『古本遊戯 流浪堂』がある。「新刊書店と違って、古書店というとどうしてもまだ入りにくいという方もいらっしゃいます。それを少しでも緩和させたくて、手に取りやすい雑誌を外に置いたり、女性もスッと入れるように店内の最前列に絵本を置いたりしています」と語るのは店主の二見彰さん。

およそ18坪の店内には約2万冊がビッシリ。それぞれの棚の見せ方に工夫があり、なにやら天井のほうもにぎやかで楽しい。そしてジャンル、というよりキーワードといったほうがいいだろうか、「ここは猫の本」「パリやフランスの本」「お酒の本」といった感じできめ細かく棚が編集されていることがよくわかる。さらにめずらしいのは、レジ横に「謎の小部屋?」というたたずまいでギャラリーがあること。一人でフラリと訪ねても、小さな子連れでも満足できるうれしいお店だ。

とてもにぎやか。
ギャラリー併設の古書店としてクリエイターにも大人気。

『古本遊戯 流浪堂』店舗詳細

住所:東京都目黒区鷹番3-6-9 サニーハイツ103/営業時間:12:00~22:00/定休日:木/アクセス:東急電鉄東横線学芸大学駅から徒歩3分

気軽な本から趣味の本まで美本ぞろい『古書むしくい堂』[八王子]

店先の棚や箱の本はほぼ100円で販売する。

古書店好きな高橋良算さんが2017年3月に開店。ラジオ番組に投稿し赤江珠緒に名付けてもらったという店名に反して、美本ぞろいなのが特徴だ。絵本や音楽書、暮らしの本など、女性も気軽に手に取れる本が並ぶ一方、鉄道本の棚の豊富さにも興奮する。新刊やリトルプレス、絵葉書、切手なども扱い実に見ごたえあり。

高橋さんこだわりの木材を多用した店内。

『古書むしくい堂』店舗詳細

住所:東京都八王子市横山町10-17 グエルスクエア八王子102/営業時間:13:00~19:00/定休日:火・水/アクセス:JR八王子駅から徒歩10分

重厚かつ柔軟なシモキタの新しい顔。『CLARISBOOKS』[下北沢]

敷居が高そうな本も、とりあえず手に取ってみる。

商店街の一角に店を構える。2013年12月に開店した店内は明るくたいそう居心地がよい。文学・哲学・思想など「字を読む本」と、「写真集」に力を入れていて、新旧、硬軟とり混ぜた品揃えに知識欲をくすぐられる。幅広いラインナップの本に触れることで、人とのつながりも生まれる場所だ。

映画、生活、雑誌のバックナンバーも豊富にあり。

『CLARISBOOKS』店舗詳細

住所:東京都世田谷区北沢3-26-2-2F/営業時間:12:00~20:00(日・祝は~19:00)/定休日:日・月・祝/アクセス:小田急小田原線・京王井の頭線下北沢駅から徒歩5分

いつ行っても陽気で愉快なワンダーランド。『古書ビビビ』[下北沢]

均一本棚は店主とその父上の合作。ガラスじゃなくてビニールなのが肝。

ちょっと薄暗くて、あちこち冒険してみたくなる店内。正面の平台には古本と合わせて新刊書やリトルプレスが並び、“本日のビビビ”的に新鮮な熱気を発している。児童書、文庫、写真集なども取り揃える。店外の均一本棚(扉付き)には掘り出し物があるので見過ごしてはならない。そして何より驚きなのは、この濃密な品揃えが、お客さんからの買い取りだけで成り立っていることだ。

店主の馬場幸治さん。

『古書ビビビ』店舗詳細

住所:東京都世田谷区北沢1-40-8 土屋ビル1F/営業時間:12:00~21:00※変更あり。/定休日:火/アクセス:小田急小田原線・京王井の頭線下北沢駅から徒歩5分

本から始まる人とのつながり。『百年』[吉祥寺]

徒歩1分のところに姉妹店『一日』もあり、あわせて訪れたい。

2006年8月の開店以来「本を売る場」ではなく「本を通して人とやりとりをする場」を目指してきた。本を大切に扱い、誠実な値付けをし、必要としている人のところへ本を届けることを繰り返してきた『百年』の古本は、お客さんからの買い取りが8割も占める。磁石のように、良書は良書を呼ぶのだ。本を読む行為は孤独だが、そこから始まる対話があることを、この店は教えてくれる。

写真集やデザイン関連の本が充実している。手に取る楽しみがある本ばかり。

『百年』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10-2F/営業時間:12:00~21:30/定休日:火/アクセス:JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩5分

雑念を払ってひたすら本を選ぶ空間。『水中書店』[三鷹]

通販に頼らず店で売ることにこだわりたい、と今野さん。

開店時から力をそそぐ詩、短歌、俳句の品揃えは今や棚7本分。詩集や句集は装丁も美しい。「他のジャンルにはないエネルギーがあります」と店主の今野真さんは話す。とはいえ詩歌専門というわけではなく、文芸、芸術から絵本や漫画まで、日々の生活に寄り添う本が程よく並ぶ。どの書棚も本の背がぴしっと揃い、抜き差ししやすいように余裕があり、選ぶことに集中できる。本を大切に扱う店主の思いが随所に光っている。

文庫や新書の存在を際立たせる赤い什器。思わぬ出合いを生む。

『水中書店』店舗詳細

住所:東京都武蔵野市中町1-23-14-102/営業時間:11:00~21:00/定休日:火/アクセス:JR中央線三鷹駅から徒歩4分
本屋さんは本を売る。でも本は、食べものや日用品に比べると必ず買わねばならないものではない。生活に彩りを添える類いのものだ。だから本屋さんは、買ってもらうためにあらゆる工夫をする。その工夫は、お店ごとにさまざま。そこが本屋さんの真髄であり楽しさの源なのだ。書店員の熱と知恵と技が詰まった、東京のおすすめ個性派書店を紹介する。

取材・文=屋敷直子、北條一浩 撮影=木村心保、金井塚太郎、北條一浩、丸毛 透、本野克佳