【紹介ルート】
王子駅前→飛鳥山→滝野川一丁目→西ヶ原四丁目→新庚申塚→庚申塚→巣鴨新田→大塚駅前
変化に富んだ土地に 多彩なスポットが潜む
飛鳥山の崖下にある王子駅前停留場から、JRの駅を潜って、急階段の王子稲荷神社を横目に進むと、なかなかに険しい崖を覆う鬱蒼(うっそう)とした森に出くわす。名主(なぬし)の滝公園の静けさと滝の音に心洗われ、北区役所の斜め裏に立つモダンな煉瓦造りの「旧醸造試験所第一工場」に見惚れる。のはいいけど、まぁ坂道を上ったり下ったりと忙しい土地柄だなぁ。
西ヶ原四丁目停留場のホームに寄り添う『Tram(トラム)』は、バルをbaruと表記するようなご近所さんのお食事&飲み処。ランチだけどビールも頼んで、行き交う都電をぼんやり眺めたい。そのまま線路に添って新庚申塚停留場。おぉ、行列もなくてラッキー! 『SONOHI BAGEL(ソノヒ ベーグル)』で変わり種ベーグルをしこたま仕込んで、これは明日のお楽しみ。
エンタメもグルメもひと癖ふた癖当たり前
近いからそのまま歩いて庚申塚停留場の『ガモール堂』で、学生たちが作るSDGsなスムージーで喉を潤し、時間が合えば、『シネマハウス大塚』で映画が見たい。シネコンやおしゃれな単館じゃやらない社会派ドキュメンタリーが見られる貴重な場所だから。巣鴨新田停留場の踏切を渡り、宮仲公園脇の坂道の途中にある『カカオ工房 トリビュート』。香ばしい匂い、程よい甘み、濃厚にしてキレのよい、既成概念を覆すチョコレートドリンクが飲めるんだ。
さぁ大塚エリアに突入。北口『ペンギン堂雑貨店』を冷やかし、同じビルの4階、『OMO5(おもふぁいぶ)東京大塚 by星野リゾート』で毎夜開催のオーツカ下町DJナイトの、感涙モノの昭和歌謡オンパレードと窓越しに見える鉄道風景を堪能したら、南口の『29Rôtie(ニッキュー ロティ)』で一日の散歩をおいしく大団円。口の中でとろける生ハムと感動的に合う燗酒(かんざけ)を傾けつつ、五感を刺激する多彩なミクスチャー散歩を反芻(はんすう)しようか。
1. 名主(なぬし)の滝公園 [王子駅前]
街なかの渓谷で耳をすませば
江戸時代から浮世絵にも描かれた名所。野趣に富んだ渓谷を、水音頼りに歩くと現れる滝の面白さ。街なかとは思えない風景に、しばし立ち尽くす。周囲の曲がりくねった坂道も趣深く、季節の折々に訪れたい。
●9:00~17:00、無休。
2. 旧醸造試験所第一工場 [飛鳥山]
巨匠の作品を愛でながらひと休み
日本酒などの醸造の研究や改良、技術の普及を目的に、明治37年(1904)に創立。横浜赤レンガ倉庫などを設計した妻木頼黄(つまき よりなか)による美しい建物は、国の重要文化財に指定。一部跡地は公園になっている。
●園内自由(建物は通常非公開)。
3. cafe & baru Tram(トラム) [西ヶ原四丁目]
優しきひと皿と都電に乾杯
店主・釜野芳一、寿美鈴さん夫婦が、多彩な料理メニューと酒類を供する、子連れOKの心優しき料理店。クラフトビール4種飲み比べセット1580円。厚切り豚ロース生姜焼きセット1280円など。
●11:30~14:30・16:30~22:30(木は夜のみ、金・土は23:30まで)、水休。☎03-5980-8743
4. SONOHI BAGEL(ソノヒ ベーグル) [新庚申塚]
アイデア満載のもっちり食感
店名通り、日によって週によって品揃えが変わる楽しいベーグル専門店。季節感も取り入れて、これまで50種以上のメニューを開発。大きめサイズのふっくらした姿と、想像力豊かな具材、そしてもちもちした食感がたまらない。プレーン250円~。
●11:00~18:00、月・火休。☎03-6903-6620
5. ガモール堂 [庚申塚]
おいしいSDGsをめしあがれ
大正大学地域創生学部の学生が企画・運営。地元の豊島市場の余剰青果を使いフードロス削減と地域活性化を目指す。宇都宮産とちおとめスムージー550円、黒ごまばななスムージー・淡路産フレッシュスムージーはSサイズ500円など。
●10:00~18:00、土・日のみ営業。☎なし
6. シネマハウス大塚 [巣鴨新田]
元映画少年たちが作った夢の砦
同じ都立高校で芝居や映画作りに没頭した同級生が再会し作り上げた、エリア唯一の映画館。コンパクトでも設備は完璧。「自主上映やトークライブなど、自由な表現の場として利用してほしい」と、館長の後藤和夫さん。
●☎03-5972-4130
7. カカオ工房 トリビュート [巣鴨新田]
芳醇な香りと味に酔いしれる
ニカラグアから直輸入したカカオ豆を使い、焙煎から製品化まで行う。カカオに魅せられたロマンさんたちが作るのはオリジナルチョコレートドリンク520円、ガトーショコラ550円など。濃厚なのにすっきりした口当たりは、想像を超える。
●11:00~18:00(土・日は10:00から)、火休。☎03-5944-5539
8. ペンギン堂雑貨店 [大塚駅前]
都電の車窓から見える謎の暖簾
『OMO5東京大塚』と同じビル1階にある、東京唯一のペンギングッズ専門店。臨時休業も多く、マニアには幻の店とも言われる。店主はペンギンより都電沿線に詳しいとか。暖簾(のれん)が出たら営業中。
●13:00~18:00、水・木・土・日・祝休(不定休あり)。☎03-3917-8427
9. OMO5東京大塚 by 星野リゾート [大塚駅前]
キッチュでポップな昭和にご案内
ホテルのロビーが毎晩DJフロアに早変わり。80年代の昭和歌謡中心の「オーツカ下町DJナイト」を開催。DJはホテルスタッフ! ショップでビールやソフトドリンクなども買える。大塚チックな看板が目印よ。
●20:30~22:00。緑茶deアールグレイ450円、味噌クッキー250円。都電ルームの宿泊は1万2000円~。☎0570-073-022(予約センター)
10. 29Rôtie(ニッキュー ロティ) [大塚駅前]
見目麗しく、味さらによくしみ渡る
厳選したイタリアの生ハムを燗酒で提供。店主・江澤雅俊さんがカットした肉の美しさと風味、燗用日本酒の品揃えも壮観。3種盛り合わせ1800円、羊のクミン串焼き2300円、玉櫻 山廃純米五百万石 正一合950円(別途サービス料10%)。
●18:00~最終入店21:00、火休。☎03-6902-1294
取材・文=高野ひろし 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2022年5月号より