『ヨリミチ』燗酒とスパイスの越境ペアリング
客がセルフでお燗できるお燗場の設置をはじめ、店主・史路(ふみじ)さんの日本酒LOVEが随所に。
「ぜんぶ半合550円なのは、自分の愛するお酒たちに価格差を付けられないから!」。スパイス料理とのペアリングがウリで、この日はクミン香るラム肉のキョフテ(トルコ風肉団子)で、熟成酒の燗を提案。一方隣には「このラベルかわいい~」と、日本酒ビギナーの若き女性客の姿もあり、お店の門戸の広さを実感。
『ヨリミチ』店舗詳細
『蔵元直送 埼玉の地酒処 うりんぼう』埼玉地酒の名店が発酵食に開眼
2005年の開業時に、埼玉の酒蔵36軒を巡った佐藤紀子さん。「おいしい温度帯が広く、主張が控えめで食事に合う酒質に魅力を感じ、扱う日本酒はすべて埼玉県産と決めました」。2022年に移転してからは、自家製発酵調味料による発酵食に注力。発酵ゆずシロップのラペや秩父えのき醬油麹なめたけなど、どれもお酒の名脇役に。砂糖を使わない自然な甘さの発酵あんこで、燗酒をゆるゆる飲む幸せときたら。
『蔵元直送 埼玉の地酒処 うりんぼう』店舗詳細
各串にパワフル大将、渾身(こんしん)の技が詰まる『路地裏食堂 たけぞう』
大将の山本充典(みつのり)さんは赤坂のやきとりの名店『ろく助』で修業。総州古白鶏(そうしゅうこはくどり)のモモを半身も使うねぎまは、一度火を通し、箱の中で休ませ、さらに火入れするほど巨大。肉の旨味を師匠考案「ろく助塩」が引き立てる。返す刀でつくねを頬張れば、炭火で焦がしつけた香ばしさと黒胡椒・オレガノなどのスパイスが口の中で渾然一体に。お酒の品書きもCOEDO伽羅の生770円などセンスがきらり。
『路地裏食堂 たけぞう』店舗詳細
雑居ビルの奥で、実直な酒と料理に唸(うな)る『馳走番波』
喧騒(けんそう)から離れた立地にあり、靴を脱いで上がるため心からくつろげる。お酒はザ・プレミアム・モルツマイスターのスタッフが注ぐプレモルや角ハイなど、サントリーが中心。きめ細かな泡で喉を潤したら、いざお通しへ。当日はアジフライで、手間隙かけた味に期待が膨らむ。山椒のたれで味わうしびれ鶏490円(料理写真手前)やさばのへしこ刺650円など、飲み助の心をつかむ肴に頬緩みっぱなし!
『馳走番波』店舗詳細
自然派ワインと野菜で心ほくほく『ワイン居酒屋 NECCO』
白いんげんと菜の花のくたくた煮700円を食べて驚き。味付けはあっさりなのに白インゲンがとにかく滋味深い。「味の濃い在来種や固定種の野菜を作るときがわ町の有機農家さんから、野菜を仕入れてます」と店主の藪上充(やぶかみみつる)さん。グラス6種、ボトル70種ほど揃うワインも多くがナチュール系。食材を活かした味付けや料理に寄り添うワイン、穏やかな店主など“やさしさ”に満ちる良店なのだ。
『ワイン居酒屋 NECCO』店舗詳細
家族の笑顔と新鮮なモツが最高の酒肴『もつ焼 大阪屋』
ネオン煌(きら)めく南銀座から逃れ、暖簾をくぐると2代目女将・赤坂治子さんの「いらっしゃい」という温かい声。名物のやきとんを焼くのは息子の架月(かづき)さんで「大宮の食肉市場で2年間働いたのでモツの扱いは自信があります」。薄膜を丁寧にはがし軽く包丁でたたいたカシラはジューシーで、シロは大腸を使っており脂プルプル。「5歳の頃から遊びに来てたこの店を潰したくなくて継ぎました」という3代目の話を聞くと、酔いがさらに深まるのだ。
『もつ焼 大阪屋』店舗詳細
並ぶ短冊に心躍る酒飲みの竜宮城『ろばた焼 北海』
短冊メニューが店内をぐるりと囲み、カウンターの氷には鮮魚や貝が彩りよく並ぶ。カワハギやアジが泳ぐ水槽の前では、ねじり鉢巻きの男衆が手際よく魚をさばいており、この風景だけで気分が高揚!「代表と私で毎日大宮市場に仕入れに行ってます。旨味も水分も抜けるから炉端焼きを含め冷凍ものは使いません」と店長の浅野裕史さん。確かに生にしん焼きは身がふっくら、キンメの刺し身は脂ノリノリ。「冬はズワイや毛ガニも登場します!」。
『ろばた焼 北海』店舗詳細
大宮の酒場と言えば、この店抜きには語れない『いづみや本店』
もとは定食屋として開業したため、開店は朝の10時。高く抜けのよい天井の周囲に、ぐるりと設えられた採光窓から日の光が差し込み、その光の向こうには壁一面に圧巻の手書きメニュー短冊。まだ日の高いうちからこの空間で、端正な佇まいの肉豆腐をつまみに、梅割をちびちびとやる時間には、他に替えがたい喜びがある。「長いお客さんとは、みんな友達みたいになっちゃって」と言って楽しそうに働く店員さん。大宮を代表する大衆酒場は、決して気取らず、しかしきちんと店の味わいを守り続ける、この街の奇跡そのものだ。
『いづみや本店』店舗詳細
大迫力のマグロの頭に仰天!『いろは三世』
暖簾をくぐると奥のカウンターの上に、マグロの頭がドンと置かれているのが目に入る。これを指さし、「その刺し身は頭のこの部分ね」を説明してくれるのは店主・新井國広さん。顎あごや頬など、同じ頭でも部位によって味が変わるという。毎朝仕入れるマグロの頭の刺し身は脂がのっていて、酒が進む。お店は1946年の創業で、新井さんが3代目ということで「三世」なのだそう。リーゼントがキマった名物店長だ。
『いろは三世』店舗詳細
おでんを肴に全国のレアな日本酒を『おでんと魚菜 基』
埼玉県産野菜をはじめ、この店のおでん種は個性豊か。利尻昆布、トビウオ、魚のアラでとる出汁は、京風の上品で控えめな味付け。約20銘柄がそろう日本酒は、全国各地から厳選。随時入れ替わるので、訪れるごとにおすすめを聞いてみたい。おでんと並んで店の二枚看板が刺し身。大間のマグロ、高知のシマアジなど、各地の旬が並ぶ。冬場には、高知や九州産のクエのしゃぶしゃぶも登場する。
『おでんと魚菜 基』店舗詳細
地酒愛から生まれたほぼ全蔵飲み放題『酒蔵 栄楽』
創業60年の居酒屋で1年前に始めたのは、埼玉県内34蔵の酒の飲み放題(2000円)。ほぼ全蔵網羅するのは現在こちらだけらしい。「数年前に仙台で地元の人の通う酒場に行ったら、全部宮城県の酒だったので衝撃を受け、コレだ! と。埼玉の人は地方の酒は知ってても地酒を知らない人が多くて残念だと思っていたんです」と30代の店主・安田大輔さん。飲み放題は先入観なしで気軽に飲めるようにと考えてのこと。さらに飲んだ酒を忘れないよう全種類のラベルのコースター(しかもQRコード付き)やスタンプカードも自作する。料理は刺し身に焼き物、炒め物に煮物と和食全般。串天ぷらと〆鯖の新旧名物はぜひお供に。
『酒蔵 栄楽』店舗詳細
【BAR】
いい酒、いい音、いい時間。『BAR Dram Beg』
バーの名は、ゲール語で「少しのお酒」。転じて「ちょっと寄って行こうか」を意味する。安藤大介さんの「職場と家の往復だけでなく、短時間でもリフレッシュできる場所になれば」という思いがこもる。スコッチ、薬草酒、リキュールに頼らず旬のフルーツでつくるカクテルに力を入れる。初めの一杯は、まろやかなフランス産ジン、レモンとライムの果汁、オレンジビターズをしっかりステアするジントニックを。Bowers & Wilkinsのスピーカーから流れるレコードの音がいっそう心を緩ませる。
『BAR Dram Beg』店舗詳細
知られざるラム酒と出合う、味わう『Bar R』
開店は2016年3月。揃えるラム酒は200種を超え、さらに毎月必ず新しい種類をラインナップしている。マスターの柴田博美さんは、「多種多様な文化の中で造られているため柔軟性があって自由度が高く、まだまだ知られていない銘柄があります」と、その魅力を語る。冬の一杯目でトライしたいのが、ホットバダードラム。シナモンやクローブなどのスパイスに蜂蜜、バター入り。ダークラムを使った深い味わいのホットカクテルだ。
『Bar R』店舗詳細
取材・文=高木健太、下里康子、平野貴大、光松 瞳、本田直子、パリッコ、沼 由美子、鈴木健太 、風来堂 撮影=加藤昌人、オカダタカオ、井上洋平、井原淳一、金井塚太郎、本野克佳、門馬央典、原 幹和