変化と伝統の絶妙なコンビネーション

所沢の変化が止まらない。コロナ禍に駅東口に『グランエミオ』がグランドオープンし、西口駅前にはタワーマンションがまた一つ増えた。『西武』の裏には鉄板で囲われただだっ広い更地。ここ何だったっけ……?
「昔はヘリポートや、西武鉄道の車両工場がありました。これからは映画館も入る大型商業施設ができるそうですよ」
と、『Sukeroku Coffee!』の店主で地元っ子の岡﨑博之さんが教えてくれた。

所沢駅の東口ロータリーにあるモニュメント「トトロの生まれたところ」。ぐるり一周眺めてみて。
所沢駅の東口ロータリーにあるモニュメント「トトロの生まれたところ」。ぐるり一周眺めてみて。
『Sukeroku Coffee!』の店主、岡﨑さん。
『Sukeroku Coffee!』の店主、岡﨑さん。

その一方、駅からそう遠くない住宅地では突然空がぽっかり開け、茶畑が広がる。所沢でお茶?と思うが、所沢市は入間市に次ぐ狭山茶の生産地で、市の茶業協会会員は80名以上も。ことのほか多く出合える所沢の原風景なのだ。
「うちは農家で10代目。曾祖父からお茶を始めたんです。この一帯は昭和50年代まではもっと畑でしたね」
とは、『増田伊之助茶園』の増田義紀さん。すぐそばの茶畑で摘んだお茶がいつも飲める、うらやましい環境だ。

でも、この街が他の茶どころと違うのは、だんごだ。街なかを歩けば必ず当たるほど焼きだんご屋が点在し、気軽に1本から食べられる。なんて絶妙なコンビネーション! 2019年に踏切脇にできた『みや古だんご』には、遮断機が下りるたびに車や自転車から視線が集中。そりゃみんな気になるだろうな〜。
「この間、初めて車から声がかかって注文を受けましたよ(笑)。だんご屋さんは減っているから、所沢の食文化を守りたいんです」
と、店主の金子美也子さんは頼もしい。

特急ラビューも走る西所沢駅そばの線路沿いにも広がる茶畑。暮らしの中にお茶がある。
特急ラビューも走る西所沢駅そばの線路沿いにも広がる茶畑。暮らしの中にお茶がある。
『みや古だんご』店主の金子さん「事前に連絡をくれれば焼いておきますよ♪」。
『みや古だんご』店主の金子さん「事前に連絡をくれれば焼いておきますよ♪」。

それからもひとつ、所沢の欠かせない伝統工芸が雛人形。今も工房やメーカーはあるが、実際買う用がないと立ち寄りにくい。そんな気持ちを汲み取ってくれたのか、『倉片人形』の展示場には『けずり氷(ひ) 雛物語』なるかき氷店が出現。
「もちろん夏でもお雛様は飾ってます」
と、5代目社長。うーん、新しい!

商店街は寂しくなっても、新旧の交わりが面白さに変わる

明治時代に日本初の飛行場が開設された広大な航空記念公園を散策したら、飛行機新道を通って銀座通りへ。

広さ約50haの所沢航空記念公園。中型輸送機C-46のある広場では、模型飛行機を飛ばす人がよく集まる。
広さ約50haの所沢航空記念公園。中型輸送機C-46のある広場では、模型飛行機を飛ばす人がよく集まる。

かつての街の中心地も今では銀座と呼ぶには商店は少なく、にぎわいもいまいち。代わりに立つのはタワマンだ。
「30年ほど前までは西所沢駅まで切れ目なくお店が続いていたんですけどね」
とは、銀座通りで137年、はかり専門店『野﨑商店』の野嵜憲一郎さん。昔は織物や畑物を扱う店も多かったというから、何かと計量器が求められたのかな。
「店が減って知ってる顔が見られなくなったのはさみしい。でも、新しい人が来て所沢に長く住んでくれればいいなと思います。ここは元々、宿場町。知らない人でも受け入れる気風は街に根づいていると思います」
と、大らかだ。建物は新しくても意外な老舗もちらほら。三角の塔屋のタワマンと足元の東川の古めかしい川景色のように、あからさまな新と旧が交わる面白さがここにはある。

タワマンを背景に、連続するアーチが美しい旭橋。昭和5年(1930)製の国登録有形文化財だ。
タワマンを背景に、連続するアーチが美しい旭橋。昭和5年(1930)製の国登録有形文化財だ。
飲み屋街の盃横丁。2020年から元住民の蛭子能収さんの絵がにぎやかす。
飲み屋街の盃横丁。2020年から元住民の蛭子能収さんの絵がにぎやかす。

“ちょうどいい”のがチャームポイントです

また、街の人が所沢を語る上で、よく聞いた言葉が“適度”とか“ちょうどいい”。欧米暮らしが長かったという『NIKSEN』の藤本智美さんは
「所沢は適度に田舎。オランダみたい」
と言い、『深井醤油』の6代目社長は
「都心からのちょうどいい距離感、ちょうどいい自然がある。農・商・工(製造業)がバランスよく揃っているんです」
と言ってたっけ。確かに、納得。

変貌の真っ最中の所沢。これからどんな景色が待っているかは計り知れないけれど、どうか、“ちょうどいい”ままでいてほしい。

所沢にも残る弘法大師伝説。訪れた僧が指した場所から水が湧いたという弘法の三ツ井戸付近には、弘法橋や弘法の湯も。
所沢にも残る弘法大師伝説。訪れた僧が指した場所から水が湧いたという弘法の三ツ井戸付近には、弘法橋や弘法の湯も。
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【ちょうどいい所沢おすすめスポット】

Sukeroku Coffee!

自宅1階を改装したポップなコーヒー店

高品質の生豆を店主の岡﨑さんが選び、焙煎したスペシャルティコーヒーを販売。店内にはイランのキリムの小物や雑貨も。トルコの甘~い伝統菓子・バクラヴァはコーヒーと相性バツグンだ。喫茶席6席と庭に4席あり。

●10:00~18:00、月休。
☎04-2923-0612

増田伊之助茶園

金賞受賞茶葉とも出合える、茶畑脇のお茶屋さん

明治43年(1910)から茶づくりを続ける茶園。店に隣接する3000坪の茶畑で栽培、製茶された茶が並ぶ。世界緑茶コンテスト2020金賞受賞の伊之助茶は、昔ながらの製法により葉の形を残した茶葉が印象的だ。缶入り50g各1300円。

●10:00~18:00、日・祝休。
☎04-2992-5058

みや古だんご

思わず自転車でドライブスルー!?

うどんと並ぶ、所沢名物といえば焼きだんご。子供にも愛される郷土の味だ。
うどんと並ぶ、所沢名物といえば焼きだんご。子供にも愛される郷土の味だ。

踏切脇で電車の通過を待つ人たちをい~い匂いで誘う。生地は埼玉県産の有機栽培の米を使い、焼だんご130円には深井醤油(後述)を二度付け。自家製あんこがモリモリの草だんご180円もたまらない。

●木・土の11:30~16:00のみ営業。
☎︎090-1556-0152

倉片人形/けずり氷(ひ) 雛物語

雛人形とかき氷の不思議な組み合わせ

関東最大級の展示場を構える創業180年の節句人形メーカーになんとかき氷店!夏の閑散期に向けて2021年に生まれたが年中食べられる。蜜は自家製で、イチゴは市内の農園から仕入れる。和紅茶とセットで1050円。

●11:00~16:30LO
☎04-2993-6176

見澤食品

毎週土曜はお得な直売デー!

大正15年(1926)創業の生麺メーカーは週に1回、工場直売を開催。1袋数十円からと安い!「大特価品は売り切れ御免だよ!」と3代目の見澤英一さん。深井醤油と共同開発した所沢名物「ところざわ醤油焼きそば」も購入できるぞ。

●土の8:30~14:00のみ営業。
☎04-2994-5588

彩翔亭

航空公園に隠れた和のオアシス

所沢航空記念公園の東側に池泉回遊式の日本庭園あり。園内の数寄屋造りの茶室では立礼席を喫茶として開放し、景色をめでながら狭山茶や季節の和菓子を味わえる。狭山茶抹茶「明松」を使ったまっ茶セット440円。

●10:00~15:45LO(日本庭園は9:00~16:00)、不定休(HPを要確認)。
☎04-2991-4310

インフラスタンド

ガソリンスタンドみたいなここは何?

「リードフックがあるから犬の散歩中にも便利ね」。
「リードフックがあるから犬の散歩中にも便利ね」。

トイレのイメージアップを目指す水道工事会社が2022年に設置。ユニークなデザインの公衆トイレは高さ6mもあり開放的で設備も充実。フリーWi-Fiやサイクルステーションもあり、4月にはKAWAYA市も開かれる。

●トイレ利用は8:00~18:00(土・日は9:00~17:00)。

深井醤油

所沢民の食を支える調味料といえば

安政3年(1856)創業の老舗醤油店。2020年のリニューアルで創業当時の道具や建具などを古蔵に移設した展示資料館を公開。店舗では醤油商品だけでなく、スタッフ作のレシピカードも配布。かわいくて役に立つ。

●10:00~18:30、不定休。
☎04-2924-2015

伝統の所沢織物をモチーフにした雑貨もあるよ! 所沢織物インスパイアtokoriマスキングテープ500円~、箸置き500円、醤油皿700円。
伝統の所沢織物をモチーフにした雑貨もあるよ! 所沢織物インスパイアtokoriマスキングテープ500円~、箸置き500円、醤油皿700円。

野﨑商店

はかりというはかりが集まる!

上皿自動はかり6600円~(写真下段)をはじめ、重さも長さも量も温度もはかれるいろいろな計量器が揃った専門店。明治19年(1886)にガラス器販売で創業し、「明治37年(1904)に計量器の販売免許を取ったそうです」と4代目の野嵜さん。

●9:00~18:00、土・日・祝休。
☎04-2922-2307

NIKSEN

ソースでも醤油でもないオリジナル味!

北欧風の一軒家に本や漫画がいっぱいの2023年開店の喫茶店。元料理人の藤本悠真さんが手がける焼ソバ700円は独特な洋風の味わい。助っ人の母・智美さんもいいムードメーカーだ。コーヒーゼリー300円、メロンソーダ300円。

●11:00~21:00、日・月休。
☎なし

西乃処珈琲

おうち感覚でくつろげる、まさに隠れ家

「毎週水曜は自家培養酵母の手ごねパンが届きます!」。
「毎週水曜は自家培養酵母の手ごねパンが届きます!」。

築53年の一軒家を改修した商業施設の一室。線路を望める店内では、店主の伊藤雅彦さんが片手鍋で直火焙煎したコーヒーをフレンチプレスで味わえる。本日の珈琲550円、キャロットケーキ650円。

●12:00~18:30LO(火は15:00~)、月休。
☎050-3557-2455

和いんや まる

割烹料理の技光る手間隙かけた酒の供

「ツナ入りポテトサラダはツナから自家製です」。
「ツナ入りポテトサラダはツナから自家製です」。

ふぐ調理やソムリエの資格を持つ和食料理人の長嶋利幸さんが切り盛りする創作和食居酒屋。酒はワイン以外も幅広く、選ぶのが楽しい。おまかせ5種盛り合わせ880円、くんせい盛り合わせ1430円~、グラスワイン700円~ほか。

●17:00~22:00LO、不定休。
☎04-2941-4368

取材・文=下里康子 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2023年3月号