北海道や岩手県遠野市など、一部地域の名物だったジンギスカンが、東京を中心にブームとなったのが2004年ごろ。各地でジンギスカン屋がオープンした。BSEや鳥インフルエンザなどの問題もありあらたな食肉として注目されたのだ。が、同ブームはわずか2年ほどで収束。最盛期には200店を超えていた都内のジンギスカン店も、あっという間に激減してしまった。
一度は衰退した羊肉だが、再び静かなブームを迎える。日本人にとって、肉といえば 「牛 ・豚・鶏」 だった。それが、エスニック料理の人気も後押ししたのか、皆が 「羊」 の魅力に目覚めたのだ。その証拠に、スーパーや精肉店でも、羊肉を見かける機会が増えてきている。2000年代のジンギスカンブームは店や企業、業者などの牽引型だったのに対し、今では消費者主導型。ジンギスカンはもちろん、そのメニューも百花繚乱だ。中華をはじめ洋の東西を問わず各国料理。そして、ワインバルやビストロなど、店のスタイルも幅広い。羊人気は増す一方だ。
大陸仕込みの豊富な鍋メニュー『味坊鉄鍋荘』[湯島]
店主の梁宝璋(リョウホウショウ)さんは、神田駅前にある中国東北料理「味坊」のオーナー。「故郷の満州でよく食べていた鍋料理を出したくて」、2015年1月にこの店をオープン。基本コースのみで、3500円と5000円の2種。鍋料理と前菜を、それぞれお好みで数種の中からチョイスするスタイルだ。煮込みには現地から取り寄せた鉄鍋を使用。味付けはシンプルに、醤油や塩ベース。かすかに利かせたスパイスで肉の臭みを抑えるなど、小技が効いている。
『味坊鉄鍋荘』店舗詳細
目指すはジンギスカンで世界征服!『ヤマダモンゴル 神田北口店』[神田]
店名は、ジンギスカン普及に貢献した羊飼育技師の”山田”喜平氏と、チンギス・ハンが築いた”モンゴル”帝国から。「ジンギスカンで世界征服したいです!」と店長の中野大介さん。チルド輸送にこだわったオーストラリア産の生ラムは赤身と脂のバランスが良く、ジューシーで柔らかい。歯ごたえがあり、より旨味も強いマトンも人気高し。少し赤みが残るくらいで頬張れば、その味わいに納得、世界征服も夢じゃない。
『ヤマダモンゴル 神田北口店』店舗詳細
丸ごと一本!肉付きのいい羊足『中国料理 喜羊門』[湯島]
客の目の前で、約1.5kgもの羊足を丸ごと炭火で炙(あぶ)る。肉の表面を炙った後にハサミで切り分けるのだが、その一つひとつに火が通るのが待ちきれない。『喜羊門』が扱う羊足は前足のみ。「前足は、筋肉質の後足よりも旨味があって柔らかいんです」と店主の寧作偉(ねいさい)さん。玉ねぎや八角、韓国人参などを混ぜた甘ダレに、24時間じっくり漬け込んでいるので、味わいは香ばしく濃厚。羊の奥深さを、心ゆくまで味わえる一品である。
『中国料理 喜羊門』店舗詳細
日本一ラムチョップを売る店『下町バル ながおか屋』[上野広小路]
『ながおか屋』の仔羊の骨つきあばら肉は、旨味が凝縮された自慢の一本。香ばしい匂いに、思わずかぶりつきたくなる。生後約7カ月のニュージーランド産ラム肉は、驚くほど柔らかい。コクのある醤油ベースのタレに1日漬け込む「タレ」味と、スペイン産の塩でサッパリ系「シオ」味の2種類がある。常連には、1年で350本もラムチョップを食べた「ラムクイーン」なるツワモノも。通いたくなる気持ち、わかります。
『下町バル ながおか屋』店舗詳細
良質な羊と秘伝のタレの絶妙タッグ『ジンギスカン霧島 御徒町店』[御徒町]
店に入ると「新弟子募集!」の貼り紙が。ここは元大関・霧島の陸奥親方がプロデュースするジンギスカン専門店。自慢の生ラムは脂と赤身のバランスが絶妙。ジューシーな脂の甘さが赤身のしっかりとした味わいを引き立てる。フレッシュがゆえに、羊特有の臭いが少なく肉質もやわらか。野菜とフルーツをブレンドした醤油ベースの秘伝のタレをつければ、脂の甘みと相まって、口中に力強い旨味がほとばしる。
『ジンギスカン霧島 御徒町店』店舗詳細
編集部おすすめ!
辛旨のスパイス香る中国伝統の味『故郷味』[御徒町]
中国東北地方ハルピン出身の店主・ユ・カンスさんが、この地に店をオープンしたのは2001年。以来、不動の人気を誇るのが羊肉串だ。ごま油で香りをつけた羊のモモ肉を、クミンなど15種のスパイスで味付け。炭火でじっくり焼いて、肉汁が滴り落ちてきたら食べ頃だ。口の中にじんわり広がるスパイスの味わいと、脂がのっていて香ばしい肉の香り。1本176円とうれしい価格も相まって、つい何本でもおかわりしたくなる。
『故郷味』店舗詳細
極上和羊を塊肉でガッツリと『ラムミートテンダー』[神保町]
店内はオープンキッチン&カウンターのバル風。羊好きなら狙うべしは、信州産の黒毛和羊(時期により産地が異なる場合あり)。毎月末に入荷するが、売り切れ次第終了なので要注意。「肉は契約農家から一頭買し、店で捌(さば)いています」とのこと。300gの超ビッグサイズの炭火焼きは、噛みしめるたびに極上の肉汁があふれだす。なお、ランチタイムはビーフとポーク、羊肉はディナータイムのみなので要注意。
『ラムミートテンダー』店舗詳細
取材・文=佐久間春奈、稲葉美映子、今田壮(風来堂) 撮影=井原淳一、本野克佳