繊細で美しいラテに込めたコーヒーへの情熱と覚悟『UP TO YOU COFFEE(アップ トゥー ユー コーヒー)』【浅草】
カップを手にしてほんの20秒。スルスルと液面に模様が浮かび上がり、表面張力も織り込み済みでこんもりとカップに収まる。美しい仕上がりと澱(よど)みのない動きはまさに職人技だ。作り手はオーナーでバリスタの奥平雄大さん。2018年の「コーヒーフェスト ラテアート世界選手権」で3位に輝いた実力の持ち主。しきりに感心する横で、自己採点は「60 点」と辛い。
奥平さんが千葉県流山市にある『cafe merci』に続けて、この店を開いたのは2019年。コーヒー文化に親しんでいる海外の人たちを相手に味で勝負したいとの思いから、外国人観光客が多い浅草を選んだという。
エスプレッソの豆はブラジルとコロンビアのブレンドと、ケニアのシングルオリジンの2種類。相棒のマシンはイタリア製のカフェレーサーだ。冒頭の一杯は滑らかな口当たりで、ミルクとの一体感が絶妙。「ラテアートは喜んでもらう要素のひとつで、いわば入り口。最終的には味が大事」。その言葉に納得する一杯だ。
『UP TO YOU COFFEE』店舗詳細
スカイツリー直下、異国情緒の本格カフェ&バー『UNLIMITED COFFEE BAR(アンリミテッド コーヒー バー)』【とうきょうスカイツリー】
国内外の観光客が思わず見上げる東京スカイツリーのほぼ真下、業平一丁目交差点の角にある。2015年にバリスタのトレーニング施設を兼ねて生まれた店は、まるでどこか異国のカフェ&バーに迷い込んだかのよう。
「どなたも入りやすい店にしたいという意図で、手前のカフェは明るい白壁、奥に行くほど暗めで大人の雰囲気にしてあります」とマネージャーの桜井志保さん。インテリアの誘(いざな)い通り、スペシャルティコーヒーも、コーヒーカクテルも出すのが特徴だ。最初に味わったのはコーヒーストーリーセット。大会レベルのトップグレードコーヒーをエスプレッソと濃縮ミルクを使ったラテで味わう。目前に生豆と焙煎豆が置かれ、アロマの変化を楽しみ、由来を想像しつつ飲めるのがいい。
海外で人気のコーヒーカクテルも試したい。取材時は梅酒をベースに使ったエスプレッソマティーニに挑戦。梅酒は入り口として飲みやすく、外国人には日本らしさを思わせる。コーヒーの新たな楽しみを拓く、魅惑の一杯だ。
『UNLIMITED COFFEE BAR』店舗詳細
豊富な焙煎豆の品揃え!路地裏にたたずむ5坪の狭小店『FIVE COFFEE STAND & ROASTERY(ファイブコーヒー スタンド &ロースタリー)』【根津】
情緒ある昔ながらの街並みが人気の谷根千=谷中・根津・千駄木エリア。近頃は外国人観光客も増えたこの一角の、「煎餅店の角を曲がった路地の先」という絵に描いたような場所にわずか5坪のコーヒースタンドがある。
店名の由来はその「5坪」からだが、ひとりで営む梅澤幸生さんには十分広い。木の温もりに満ちたスタイリッシュな建物の中にはフジローヤルの3kg釜を据え、開店前に焙煎をする。オープンはまだコロナ禍だった2020年の春。リモートワークのニーズもあって、「幸い地元の方が家で飲む焙煎豆をよく買いに来てくれた」とのこと。
常時13種類ほどある豆はさまざまで、取材時にすすめてくれたのはブラジルのアエロビック(好気性発酵)。スパイシー感と爽やかなレモンティーのような味がユニークで、さらりと飲める。「お客さんの中には『全種類飲んじゃったけど、まだほかにある?』って聞く方もいるんです」。地元のコーヒー好きに支持された、小さくも魅力あふれる一軒だ。
『FIVE COFFEE STAND & ROASTERY』店舗詳細
地域に根差した専門店の草分け。親子2代で営む師匠店『自家焙煎珈琲屋 CAFFE BERNINI(ベルニーニ)』【志村三丁目】
まだスペシャルティのブームが来るよりだいぶ前の1999年、緑豊かな志村城山公園の前にできたのが『ベルニーニ』。大手カフェチェーンの創業にも携わった岩﨑俊雄さんが開いた店で、雑誌などで抽出法を教えてくれる「師匠店」としても有名だ。
四半世紀を経た今では、息子の健一さんがチーフロースターとして活躍し、親子2代でコーヒー好きを迎えてくれる。ファンの多い定番、ベルニーニブレンドやイタリアンブレンドはもちろんのこと、昨今のスペシャルティのトレンドにも積極的。
「新しい、変わった豆を体験できる楽しさも用意したいですね」と息子の健一さん。各論ある特殊発酵系も農家の人たちの工夫や努力と捉えればアリのはず。隣で聞いていた俊雄さんは、「まるで演歌歌手がカンツォーネもやるような、ね。コーヒーマンはそうでなくっちゃ」。初心者を含めた誰もが臆さず店に入って相談できる。やさしさに満ちたそんな雰囲気こそが、師匠店たる所以(ゆえん)に違いない。
『自家焙煎珈琲屋 CAFFE BERNINI』店舗詳細
東ティモールの生産者と歩む学生起業のロースタリーカフェ『LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory (ラッシュ コーヒー ロースターアンドラボラトリー)』【北千住】
昨今の北千住は勢いがあり、おしゃれな店もずいぶん増えた。そんな中、宿場町通り商店街の一等地で好評なのがこの店だ。
若きオーナーの吉田光佑さんが創業したのは大学生の時。高校3年時に東ティモールを訪ね、大学1年時にはコーヒーの品質管理にも従事。農家の熱意やコーヒーのクオリティの高さに触れて、東ティモール産専門のコーヒー店を開くことにしたそうだ。店頭でドリップしてくれたのは山田朝華さん。山田さんを含めてスタッフはしばしば抽出などの大会に参加、焙煎機も全員が扱えて吉田さんのレシピをもとに焼くという。若いスタッフの目の輝きもこの店らしい特徴だ。
創業者の吉田さんは今は大学を卒業し、平日は一般企業で働きながら采配を振る。それについて尋ねると、「営業力も身につけなければいけないし、お金も必要ですからね」。農家の熱意がこもった一杯を届けるために、できることを幅広くやる。そんな姿勢を応援したい、真摯で個性あふれる一軒だ。
『LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory』店舗詳細
文=木村理恵子、高橋敦史 撮影=富貴塚悠太、高橋敦史
MOOK『散歩の達人 東京スペシャルティ珈琲時間』より