繊細で美しいラテに込めたコーヒーへの情熱と覚悟『UP TO YOU COFFEE(アップ トゥー ユー コーヒー)』【浅草】

深煎りブレンドのカフェラテ600円。カヌレ350円~ともよく合う。
深煎りブレンドのカフェラテ600円。カヌレ350円~ともよく合う。

カップを手にしてほんの20秒。スルスルと液面に模様が浮かび上がり、表面張力も織り込み済みでこんもりとカップに収まる。美しい仕上がりと澱(よど)みのない動きはまさに職人技だ。作り手はオーナーでバリスタの奥平雄大さん。2018年の「コーヒーフェスト ラテアート世界選手権」で3位に輝いた実力の持ち主。しきりに感心する横で、自己採点は「60 点」と辛い。

コンクリートと木材が調和したカジュアルな雰囲気の店内。
コンクリートと木材が調和したカジュアルな雰囲気の店内。

奥平さんが千葉県流山市にある『cafe merci』に続けて、この店を開いたのは2019年。コーヒー文化に親しんでいる海外の人たちを相手に味で勝負したいとの思いから、外国人観光客が多い浅草を選んだという。

手前にあるのがカフェレーサー。今では一般的になったが、先駆けて導入した店でもある。
手前にあるのがカフェレーサー。今では一般的になったが、先駆けて導入した店でもある。

エスプレッソの豆はブラジルとコロンビアのブレンドと、ケニアのシングルオリジンの2種類。相棒のマシンはイタリア製のカフェレーサーだ。冒頭の一杯は滑らかな口当たりで、ミルクとの一体感が絶妙。「ラテアートは喜んでもらう要素のひとつで、いわば入り口。最終的には味が大事」。その言葉に納得する一杯だ。

店先に出された看板が目印。
店先に出された看板が目印。
かっぱ橋通り沿いに立つ。街の雰囲気になじんだたたずまいも魅力的。
かっぱ橋通り沿いに立つ。街の雰囲気になじんだたたずまいも魅力的。
オーナーでバリスタの奥平雄大さん。鮮やかなスローリーフを描いてくれた。
オーナーでバリスタの奥平雄大さん。鮮やかなスローリーフを描いてくれた。

『UP TO YOU COFFEE』店舗詳細

スカイツリー直下、異国情緒の本格カフェ&バー『UNLIMITED COFFEE BAR(アンリミテッド コーヒー バー)』【とうきょうスカイツリー】

異国のカフェ&バーのような立派な内装。それでいて入りやすい雰囲気なのがいい。
異国のカフェ&バーのような立派な内装。それでいて入りやすい雰囲気なのがいい。

国内外の観光客が思わず見上げる東京スカイツリーのほぼ真下、業平一丁目交差点の角にある。2015年にバリスタのトレーニング施設を兼ねて生まれた店は、まるでどこか異国のカフェ&バーに迷い込んだかのよう。

スチーム中の濃縮ミルクは、バリスタの大会などでは使われるが一般店舗では珍しい。
スチーム中の濃縮ミルクは、バリスタの大会などでは使われるが一般店舗では珍しい。

「どなたも入りやすい店にしたいという意図で、手前のカフェは明るい白壁、奥に行くほど暗めで大人の雰囲気にしてあります」とマネージャーの桜井志保さん。インテリアの誘(いざな)い通り、スペシャルティコーヒーも、コーヒーカクテルも出すのが特徴だ。最初に味わったのはコーヒーストーリーセット。大会レベルのトップグレードコーヒーをエスプレッソと濃縮ミルクを使ったラテで味わう。目前に生豆と焙煎豆が置かれ、アロマの変化を楽しみ、由来を想像しつつ飲めるのがいい。

焙煎豆は常時10種類ほど。
焙煎豆は常時10種類ほど。

海外で人気のコーヒーカクテルも試したい。取材時は梅酒をベースに使ったエスプレッソマティーニに挑戦。梅酒は入り口として飲みやすく、外国人には日本らしさを思わせる。コーヒーの新たな楽しみを拓く、魅惑の一杯だ。

ハニカムデザインが印象的。
ハニカムデザインが印象的。
取材時点では発案したての、3年熟成梅酒を使ったクリーミーエスプレッソマティーニ1600円。
取材時点では発案したての、3年熟成梅酒を使ったクリーミーエスプレッソマティーニ1600円。
ブルーの外壁が目印。背後にはスカイツリーがそびえ立つ。
ブルーの外壁が目印。背後にはスカイツリーがそびえ立つ。
トップレベルのコーヒーをエスプレッソとラテで試せるコーヒーストーリーセット2200円。
トップレベルのコーヒーをエスプレッソとラテで試せるコーヒーストーリーセット2200円。
店内は細部に至るまでおしゃれ。
店内は細部に至るまでおしゃれ。

『UNLIMITED COFFEE BAR』店舗詳細

豊富な焙煎豆の品揃え!路地裏にたたずむ5坪の狭小店『FIVE COFFEE STAND & ROASTERY(ファイブコーヒー スタンド &ロースタリー)』【根津】

静かな裏通りにある小さな店を梅澤さんがひとりで切り盛りしている。
静かな裏通りにある小さな店を梅澤さんがひとりで切り盛りしている。

情緒ある昔ながらの街並みが人気の谷根千=谷中・根津・千駄木エリア。近頃は外国人観光客も増えたこの一角の、「煎餅店の角を曲がった路地の先」という絵に描いたような場所にわずか5坪のコーヒースタンドがある。

控えめながらも随所がおしゃれ。
控えめながらも随所がおしゃれ。

店名の由来はその「5坪」からだが、ひとりで営む梅澤幸生さんには十分広い。木の温もりに満ちたスタイリッシュな建物の中にはフジローヤルの3kg釜を据え、開店前に焙煎をする。オープンはまだコロナ禍だった2020年の春。リモートワークのニーズもあって、「幸い地元の方が家で飲む焙煎豆をよく買いに来てくれた」とのこと。

開店前は焙煎で忙しい。床には生豆の麻袋がずらりと並んでいた。
開店前は焙煎で忙しい。床には生豆の麻袋がずらりと並んでいた。

常時13種類ほどある豆はさまざまで、取材時にすすめてくれたのはブラジルのアエロビック(好気性発酵)。スパイシー感と爽やかなレモンティーのような味がユニークで、さらりと飲める。「お客さんの中には『全種類飲んじゃったけど、まだほかにある?』って聞く方もいるんです」。地元のコーヒー好きに支持された、小さくも魅力あふれる一軒だ。

ブラジルのルートアエロビック750円。コーヒーに合うウエハースがついてくるのもうれしい。
ブラジルのルートアエロビック750円。コーヒーに合うウエハースがついてくるのもうれしい。
常時13種類ほどの豆を用意。丁寧な解説カードつき。
常時13種類ほどの豆を用意。丁寧な解説カードつき。
通りになじむスタイリッシュな店構え。
通りになじむスタイリッシュな店構え。

『FIVE COFFEE STAND & ROASTERY』店舗詳細

地域に根差した専門店の草分け。親子2代で営む師匠店『自家焙煎珈琲屋 CAFFE BERNINI(ベルニーニ)』【志村三丁目】

ドリッパーも焙煎豆の瓶もずらりと並ぶ。カウンターと客席との一体感がいい。
ドリッパーも焙煎豆の瓶もずらりと並ぶ。カウンターと客席との一体感がいい。

まだスペシャルティのブームが来るよりだいぶ前の1999年、緑豊かな志村城山公園の前にできたのが『ベルニーニ』。大手カフェチェーンの創業にも携わった岩﨑俊雄さんが開いた店で、雑誌などで抽出法を教えてくれる「師匠店」としても有名だ。

味を落とす欠点豆を丁寧に取り除く。
味を落とす欠点豆を丁寧に取り除く。

四半世紀を経た今では、息子の健一さんがチーフロースターとして活躍し、親子2代でコーヒー好きを迎えてくれる。ファンの多い定番、ベルニーニブレンドやイタリアンブレンドはもちろんのこと、昨今のスペシャルティのトレンドにも積極的。

煎り具合や精選の違いを実物で展示。
煎り具合や精選の違いを実物で展示。

「新しい、変わった豆を体験できる楽しさも用意したいですね」と息子の健一さん。各論ある特殊発酵系も農家の人たちの工夫や努力と捉えればアリのはず。隣で聞いていた俊雄さんは、「まるで演歌歌手がカンツォーネもやるような、ね。コーヒーマンはそうでなくっちゃ」。初心者を含めた誰もが臆さず店に入って相談できる。やさしさに満ちたそんな雰囲気こそが、師匠店たる所以(ゆえん)に違いない。

仲良し親子2代。店のファンにもうれしい限りだ。
仲良し親子2代。店のファンにもうれしい限りだ。
イタリアンブレンド700円。常に安定しておいしいのが名店の証し。
イタリアンブレンド700円。常に安定しておいしいのが名店の証し。
蝶ネクタイ姿で抽出する俊雄さん。多くの人をコーヒーの虜にしてきた。
蝶ネクタイ姿で抽出する俊雄さん。多くの人をコーヒーの虜にしてきた。
店奥には焙煎室が。手入れが行き届いたピカピカのフジローヤルは、なんと「25年前からのもの」。
店奥には焙煎室が。手入れが行き届いたピカピカのフジローヤルは、なんと「25年前からのもの」。
公園の緑を前にしたロケーション。
公園の緑を前にしたロケーション。

『自家焙煎珈琲屋 CAFFE BERNINI』店舗詳細

東ティモールの生産者と歩む学生起業のロースタリーカフェ『LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory (ラッシュ コーヒー ロースターアンドラボラトリー)』【北千住】

バリスタの山田さんがドリップ中。「最近参加した大会で気づいたことを生かして」若干攪拌(かくはん)気味に。
バリスタの山田さんがドリップ中。「最近参加した大会で気づいたことを生かして」若干攪拌(かくはん)気味に。

昨今の北千住は勢いがあり、おしゃれな店もずいぶん増えた。そんな中、宿場町通り商店街の一等地で好評なのがこの店だ。

創業当初は路地沿いだけの小さな店だった。
創業当初は路地沿いだけの小さな店だった。

若きオーナーの吉田光佑さんが創業したのは大学生の時。高校3年時に東ティモールを訪ね、大学1年時にはコーヒーの品質管理にも従事。農家の熱意やコーヒーのクオリティの高さに触れて、東ティモール産専門のコーヒー店を開くことにしたそうだ。店頭でドリップしてくれたのは山田朝華さん。山田さんを含めてスタッフはしばしば抽出などの大会に参加、焙煎機も全員が扱えて吉田さんのレシピをもとに焼くという。若いスタッフの目の輝きもこの店らしい特徴だ。

現在の広い正面入り口。
現在の広い正面入り口。

創業者の吉田さんは今は大学を卒業し、平日は一般企業で働きながら采配を振る。それについて尋ねると、「営業力も身につけなければいけないし、お金も必要ですからね」。農家の熱意がこもった一杯を届けるために、できることを幅広くやる。そんな姿勢を応援したい、真摯で個性あふれる一軒だ。

広くてゆったりとした店内。ガラス張りの奥の部屋は愛犬OKのスペースで、週末は特に人気だという。
広くてゆったりとした店内。ガラス張りの奥の部屋は愛犬OKのスペースで、週末は特に人気だという。
東ティモールの豆に特化しているのが店の大きな特徴だ。
東ティモールの豆に特化しているのが店の大きな特徴だ。
ハンドドリップ650円~。レテフォホドゥホホはシトラス系の酸味がおいしい。
ハンドドリップ650円~。レテフォホドゥホホはシトラス系の酸味がおいしい。
学生時代にここを起業した吉田さん。平日の会社勤めを終えて駆けつけてくれた。
学生時代にここを起業した吉田さん。平日の会社勤めを終えて駆けつけてくれた。

『LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory』店舗詳細

文=木村理恵子、高橋敦史 撮影=富貴塚悠太、高橋敦史

MOOK『散歩の達人 東京スペシャルティ珈琲時間』より