編集部紹介

編集長/土屋 広道 1972年、埼玉県生まれ。鉄道雑誌、旅行雑誌を経て、2008年から小誌編集部。旅行雑誌時代から各地の地域差に興味あり。好きなものは、うどん、演芸、歴史、山、酒……って気づけばどんどんおじさんに。

渡邉 恵 1984年生まれ、中野区寄りの新宿区育ち。時刻表、旅行雑誌の編集部、名古屋転勤を経て2014年から小誌編集部。漫画、映画、生の舞台が好き。おやつと戦前の東京に興味津々。端っこへ旅に出がち。

佐藤 七海 1987年、横浜市生まれ。他社で自転車、クルマ、バイク、スキー雑誌の編集部を経て、2015年から小誌編集部へ。好きなものはビール、揚げ物、アイスクリーム、おせんべい。地形と地名も好物。

町田 紗季子 1992年生まれ、千葉県育ち。広告営業を経て2017年から小誌編集部。物より人、街並みに興味あり。海外旅行好きゆえエスニック系を企画・担当しがちだが、実は辛いのが苦手。パンと動物には目がない。

吉岡百合子 1994年生まれ、東京の東側育ち。時刻表の営業と編集を経て、この4月から小誌編集部で修業中。飲食店のひしめきあう“密”な路地裏や渋いビルに無性にときめく。リトルプレス収集と餃子作りが趣味。

『散歩の達人』2020年7月号で紹介した88個のキーワード(7月号目次より)

「東京らしさ」を感じたこと

渡邉 今回は“東京にとって大切な存在とは?”というところから、まず 「キーワ ード」を考えました。紹介したスポットも大事ですが、身近な街にも当てはめて考えていただけたらという思いがあります。
土屋 例として紹介するスポットを選ぶ基準も、ガイドブックに載っているような名所・有名店はあえて今回は外しています。たとえばお店なら、並ばずに行けて、でも「東京らしさ」を感じられるところ。そのセレクトは大変だったけど、面白かった。
町田 「東京らしさ」という意味で、印象的だったポイントは?
土屋 たとえば 「東京の味」というカテゴリーの東京ラーメンは、昔ながらの東京の味をそのまま残しているお店、そこに+αの工夫をしているお店、全く違うアプ ローチのお店。同じ醤油ラーメンでもいろいろな方向性があって多様化してるのが東京らしさかなと。
渡邉 「街のお店」の東京喫茶も似てる気がします。新しめのお店でも、これまでの喫茶文化も大事にしつつ自分たちらしさを出し、昔ながらの喫茶店が好きな人にも愛されているお店があって、素敵だなと思います。
佐藤 とんかつ屋さんや洋食屋さんはザ・王道ではないお店を紹介しました。『とんかつ丸八』は白木のカウンターで和の店構えで
すが、ご主人はコック帽をかぶって、銀のプレートで料理を出すような、和と洋が混ざっている感じ。
土屋 豚を食べる文化もやっぱり、関東らしいと言えばらしいよね。やきんとんとかも東京だなぁと思う。
町田 東京らしい商売というとキッチンカーも。2〜3時間で100食を出せるというのは都会ならではだと思います。「これ!」と決めた料理に絞って勝負してる点も。

本当はキーワードに入れたかった「やきとん」。(撮影=土屋)

「いいお店」とは、どんなお店だろう

渡邉 『散歩の達人』が「いいな」と感じるのはどんなお店なのか、あらためて考えてみたいです。
土屋 飲食店については、そもそも安い。気張らずに行ける……というのはあるけど。本能的にたたずまいに引かれるとか、そういうのもあるかなぁ。
佐藤 店構えが入りやすい。
吉岡 暖簾!
佐藤 暖簾をきれいにしてるお店は、料理もちゃんとおいしいところが多い気がします。
渡邉 私たちは“古くてもきれ いにしている”というポイントを大事にしてますが、それはもう、店主の哲学ですよね。お店の外にも何かしら漏れ出てると思います。
土屋 神保町の『兵六』とかも、ちょっと入りにく いような気がするけど中の雰囲気がわかるのがいいね。あぁ、飲み屋に行きたいね〜。下町ハイボールでやきとんを食べたい。それは家では全然かなわない。あの雰囲気で、あの味でないとだめ。
吉岡 リモート飲みをやっても、「なんか違うな」って。その場に行って、その空間で時間を過ごす。そこで日常と区別してるんだと思うんです。境界線を提供してくれる場だったのかな、とあらためて。

暖簾がきれいなお店の代表例。(撮影=佐藤)

町田 ここ数年でどの街を歩いても本格的な焙煎機を導入してるカフェができてる印象はありますね。
土屋 もはや流行りものではなくて、かなり定着しているよね。
町田 東京の人は、情報と自分の好みを照らし合わせて、食を研究している感じがあります。選択肢が多く細分化されていくなかで、追いついていってるのがすごい。
渡邉 でもその尺度は人それぞれで、そこまででない人も楽しめる。
土屋 立ち食いそばって行く?
吉岡 営業だったときはよく行ってました。なんか、飲み物と食べ物の中間じゃないですか?
渡邉 私は名古屋に転勤中、立ち食いそばがないのがつらくて……。
佐藤 最近は素材にこだわっているお店も増えたと思います。
土屋 昔はB級グルメとされていたものも、どんどんクオリティーが上がってる気がする。「東京の味」では、もんじゃとか、ローカル酒みたいな昔からなじみがあるようなものもあえて入れたよね。
町田 その中ではアイス屋さんって、地方にも、ショッピングセンターにもありますよね。
渡邉 たとえば『SOWA』は、会社員のおじさんが食後のコーヒーみたいな感じでソフトクリームを食べていくんです。閉店してしまった梅屋敷の「福田屋」も、女子高生、外回り中の営業マン、近所のおばあさんが一緒に並んでる。もはやその愛され方、存在感が味の一部になっているような感じが、東京らしいと思いました。
土屋 時代を超えて老若男女に愛される味ともいえるかな。
吉岡 クレープも、ブームになったのは昭和の時代でも、価値が古びない。タピオカと全然張れます。

いつからこざっぱりに・・・? 個性と美意識がいとおしい

渡邉 「街並み・建築」のキーワードは、東京で暮らしていても気にしていない人も多いかな、と思うものもあります。少し意識するだけで、道がただの道じゃなくなるような感じがあるかなと。
佐藤 看板建築はさまざまなタイプ、さまざまなあしらいがあって見るポイントが多いので、知ると一つ一つの建物を立ち止まって見る時間が長くなるんじゃないかなと思います。

荻窪の本屋『Title』の建物も看板建築。シンプルながら美しい。(撮影=渡邉)

吉岡 最近の建物と全然違うなという感じがしますよね。
町田 橋とかもかっこいいです。造るものへの美意識を感じます。今は忙しいじゃないですか。速く、低コストに、シンプルにとなりがちです。
佐藤 いつからそういう、ござっぱりした時代になったんでしょうね? 昭和の建物はいいなと感じるのに、平成の建物は古いな、と感じるものが結構あるんです。
渡邉 古い喫茶店の内装とかもそうですが、自分のお店のことだけを考えて造るとか、職人さんが技を見せるために凝る、そうして生まれた唯一無二の存在が今では新鮮でかっこいいです。
土屋 ガード下でも、チェーン店がいっぱい入ってくるようになって寂しいけどあのアーチはいいよね。
吉岡 個人店といえば、東京は商店街の数が本当に多いですよね。
町田 駅から離れたこんなところになぜ?みたいなことも。
渡邉 住宅地に突然お店がポツンとあるところは、もともと商店街だった可能性も高いです。見つけたらぜひ疑ってほしい!
吉岡 暗渠サインならぬ商店街サインですね(笑)。

これは「暗渠サイン」のひとつ。(撮影=佐藤)

町田 「東京的風景」の東京タワーは、意外と見えないじゃないですか。たまに見えるというのも含めて東京っぽいかなと。
渡邉 富士山は、取材先で「昔この2階から富士山が見えたのよ」という話をよく聞きますね。
土屋 
オリンピックやバブルでどんどん規制が変わって、だんだん見えなくなっていったよね。
佐藤 最近も、東京五輪に向けて都心はあちこちが建設ラッシュでしたが、今は迷子状態ですよね。
渡邉 都市の価値は都心だけじゃない、都心の価値は土地だけじゃないということが、もう少し大事にされてほしいです。
土屋 近年に都心志向が強すぎた感があるよね。みんなの嗜好、興味がかなり都心に向いてるという気がして。ちょっと前の東京はもう少し違ったんだけどなな……と思うことがある。

昔はどこからも見えたはずの東京タワー。(撮影=町田)

渡邉 すごい交通網、というキーワードについてはどうですか?
町田 
都営浅草線とかトラップです。前に戸越のほうに行こうとしたら空港のほうに行ってしまって。
佐藤 私はあまり行かないので、中央線の西のほうが難しいです。
吉岡 東京の人が電車を乗りこなしてるとは限らないですよね(笑)。

カルチャーが話題になるのは東京だからこそ?

土屋 「カルチャー・レジャー」はどうだろう。ミニシアターとか。
町田 千葉は今となってはほぼシネコン文化です。ミニシアターのような規模の映画館を知らないで育つ子供は多いと思います。
渡邉 ミニシアターって、置いてあるチラシを見るだけでも、「たくさんの映画が作られているんだな」という事実に圧倒されます。
町田 そもそも、この特集に「カルチャー」というカテゴリーがあるだけで東京っぽいなと思います。
土屋 寄席も特殊だよね。そもそも地方にはないし、親とか年配者に教えてもらわないとなかなか行く機会がない。でも世代交代してるっていうことは、そういう流れがまだあるのかなと。
吉岡 配信で観るのも定着してるけど、生のものを見たいっていう欲求は潰えないんですかね。
渡邉 特にこの数箇月、落語も映画も音楽も配信が増えましたが、以前より「生がいい」と感じた人も多いんじゃないかなと思います。
土屋 そうだね、周りの人を含めての、空気感や客席の反応があってこそだから。
佐藤 遊園地は、遺産的な存在になりつつあるかもしれないですね。屋上遊園地しかり、規模が小さいのは東京らしいですよね。
土屋 『花やしき』や後楽園の、街なかにある感じはすごいよね。
吉岡 一日がかりじゃなくて、ちょっと行けるのがいいですよね。

貴重な屋上遊園地『かまたえん』。(撮影=佐藤)

土屋 「特殊な街」こそ東京らしい。観光地にもなっているけど、それぞれ必要とされている街です。
町田 エスニックタウンは、礼拝堂や語学学校など訪れる目的のある施設周辺や居住区に形成されがちですが、まずそういう施設や区域があることも、それが増殖して一つの街の様相になるのも東京らしいと思います。
吉岡 「巨大な人工物」も今考えると正気の沙汰じゃないですね。
土屋 埋め立て地は、江戸時代、昭和中期・後期、最近と3段階で紹介しました。新しく埋め立てられたのは、オリンピックの会場にもなる島です。
町田 多差路と埋め立て地は似たものを感じます。もともと江戸からどこかに行く街道があって、交通量が増え、郊外に街ができてそこをつなぐ必要が生まれた。田んぼを道に、川を暗渠にして、何とかこしらえていった結果で、東京の発展の歴史なんです。
土屋 土地を造ることに必死だよね。海に増やすしかなくてこうなってる。増改築も似てる。
町田 でも、今は道を広くする、という傾向にある気がします。
渡邉 道を広くするというのは何かを壊すことだから、気にしたい動きですよね……。

東京にも自然や民間信仰はある

土屋 「東京の自然」、山は信仰の対象だけどレジャースポットでもある、そこに東京らしさがあるよね。御岳山とか檜原村も楽し い。
渡邉 「民間信仰」が東京らしい、というのはどのポイントですか?
土屋 これは東京ではないけど、昔、大山を取材したときに、大山講に江戸っ子らしいと感じることがあって。宿坊を取材したときに、日本橋のある講は江戸時代からおんなじ弁当箱を使ってて、それで絶対食べるんだって。なのに、白い行衣だけは毎年新調すると。そういうのを聞い て粋だなあと。
佐藤 ニッチな御利益、個人的には薄毛と頭痛の神様が好きですね。あとは、復縁・再婚とか。
町田 切実ですね。「祭りと市」で感じたのは、都心志向の揺り戻しというか、自分の地元を楽しくしようという動きも顕著ですよね。
渡邉 商店街や通り、個人店仲間だったり、市を開催する単位もいろいろですね。さて編集長、改めて全体をみてどうですか?
土屋 今回外したキーワードやスポットにもすごく意味がある気がします。だから見る人にとっては「入ってないじゃん!」 というのもあるかも。でも、これまで『散歩の達人』が大切にしてきたものと、近年、特に注目してきたものを中心に今回は選んでみました。今の東京、これまで・これからの東京を考えた時に知ってほしいポイントという感じですね。数年後にやったら変わると思いますが、それも東京の面白さとして楽しんでください!

編集部のオアシス『徳兵衛』でやりたかったけどリモート座談でした。(撮影=渡邉)

構成=渡邉 恵(編集部)
『散歩の達人』2020年7月号より