アクセス
鉄道:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から東武東上線で約1時間10分の小川町駅下車。JR八王子駅から八高線利用の場合は約1時間20分で同駅。
車:関越自動車道練馬ICから同自動車道を利用し、嵐山小川ICまで約47km。同ICから小川町中心部まで約6km。
あちらこちらで「小京都」らしさと出合える
東武東上線とJR八高(はちこう)線が乗り入れる小川町駅。思いのほかこぢんまりとした駅舎をあとに、気の向くまま駅前通りを歩き始めると、「和紙のふるさと」「武蔵の小京都」とのフレーズが行く先々で目に留まる。
宝亀5年(774)の正倉院文書の記録にまでさかのぼるとされる小川和紙の伝統は、以後も脈々と受け継がれ、江戸時代には一大産地として隆盛を誇ったという。その後、時代の変遷による需要低下に伴い、和紙生産量は減少したが、小川町と東秩父村で継承されてきた伝統的な手漉(す)き和紙「細川紙」の製法や技術が2014年にユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、和紙文化は地域の誇りとして今も深く根づいている。
またこの界隈は、「川越秩父道」と絹などの産物を運んだ「八王子道」とが交わる要衝として江戸期を中心ににぎわいを見せたそう。試しに大通りを抜け、路地を探索してみると、史跡や町並みから往時の面影がほんのり感じられ、あちらこちらで「小京都」らしさに出合えるのが興味深い。
先駆者が切り開いた有機の里に、人々が集う
さて、「和紙」「小京都」と並んで、今回の旅で訪れた飲食店や蔵元、ワイナリーなどで幾度も見聞きしたのが、「有機農業」「農薬不使用」「オーガニック」といったキーワードである。決して珍しい言葉ではないが、どうしてこれほどまでと気になり、聞き込みをしたところ、皆さんが一様に口にしたのが金子美登(よしのり)さんのお名前だった。
聞けば、言葉自体がまだまだ一般化しておらず、異端扱いされた1970年代前半から、町内下里地区で有機農業を実践した先駆者で、その地道な取り組みがのちに実を結び、「有機の里=小川町」の礎を築いた最大の功労者とのこと。惜しくも金子さんは2022年に急逝されたが、薫陶(くんとう)を受けた研修生も多く、今では孫弟子に当たる世代が就農し、金子さんがまいた種を絶やすことなく育んでいるという。農業とは無縁の当方も、話を聞くたび胸が熱くなる思いがした。
そんな土地柄や都心まで90分圏内ながら自然豊かな風土に惹(ひ)かれ、居を移す人も少なくないそう。2019年に『Curry & Noble 強い女』を開いた代々木原シゲルさんもその一人で、「以前はコンビニでよく食べ物を買っていましたが、この町の野菜のおいしさを知ってからは、足を運ぶことが一切なくなりましたね」と笑う。「そうですか」と相づちを打ちながら口に運んだカレーは、スパイスがガツンと効いたなかなかの本格派で、店を出るころにはすっかり汗だくだ。
そういえば、人づてに教わった『おがわ温泉 花和楽の湯』は手ぶらでも気軽に利用できるとか。せっかくなのでひと風呂浴びてから、のんびり帰るとしようか。
紙すきの村
幅広い品揃えの手漉き和紙と和紙小物
創業は大正2年(1913)。「小川和紙1300年の歴史に比べればまだまだです」と謙遜する久保製紙5代目の久保孝正さんが工房で漉いた和紙と、妻の奈々さん手づくりの和紙製品が直営店に並ぶ。和紙の品揃えは用途に合わせて幅広く、色柄のある染紙も豊富。和紙特有の柔和な風合いを生かした小物類は親しみやすいデザインで、価格も手頃だ。
●10:00~16:00、月・火休。埼玉県比企郡小川町小川1091 ☎0493-72-2919
小川町和紙体験学習センター
伝統の和紙づくりを気軽に体験できる
昭和11年(1936)築の旧埼玉県製紙工業試験場を活用した施設で、和紙の歴史や道具などを解説・展示。和紙づくりの様子を見学でき、体験も可能だ(予約制/入門コースはハガキ8枚1000円、楮紙5枚1500円)。漉いた和紙は送料本人負担で後日受け取れる。
松岡醸造
酒蔵見学後の直売所での試飲も楽しみ
代表銘柄「帝松(みかどまつ)」の名で親しまれる蔵元で、洗米から仕込みまでの全工程で地下130mからくみ上げた硬水を使用。酸味を抑え、旨味とキレを重視した食中酒を中心に、50種ほどを製造・販売している。日本酒に合わせたメニューを取り揃えたレストランも併設(木・金休)。
有機野菜食堂 わらしべ
有機農業生産者と消費者をつなぐ交流拠点
「有機農業の素晴らしさを、場や料理を通して伝えたい」と語るオーナーシェフの山下嘉彦さん。古民家を修築した店内では、パスタや自家製酵母パン、オーガニック料理、スイーツなどを味わえる。ドリンクも豊富で、お酒片手に気の利いたおつまみを注文なんて過ごし方も。
仙元(せんげん)山 見晴らしの丘公園
公園周辺には軽登山向きの遊歩道も整備
標高299mの仙元山中腹に広がる自然豊かな公園で、展望台や全長203mのローラーすべり台(利用料1回200円)が目を引く。山麓では例年3月下旬になるとカタクリが開花し、春の風物詩として親しまれている。
武蔵ワイナリー
無農薬・無添加に徹した実直すぎる自然派ワイン
高台の醸造所兼販売所を囲むように、「小公子(しょうこうし)」をはじめとしたワイン用品種のブドウ畑が広がる。完全無農薬による自然栽培を標榜(ひょうぼう)し、天然酵母で醸したワインは酸化防止剤すら加えない。口に含むとブドウ本来の野性味がダイレクトに感じられる。「小川小公子2021」750㎖ 4400円ほか。
吉田家住宅
町はずれにある江戸中期築の民家を復元・公開
享保6年(1721)築と、実年代の分かる県内最古の民家で、国の重要文化財建築物に指定。重厚な梁(はり)がむき出しの室内では、地粉手打ちうどん500円、焼だんご1本100円などを注文でき、コーヒー300円は囲炉裏で沸かした湯で淹れてもらえる。
パティスリー トリヨンフ
町民御用達の気さくな洋菓子屋さん
町の中心部から槻川を越えた先にあり、店頭にはタルトセゾン420円(写真右端)はじめ、季節感を重視した彩り豊かな生菓子25~30種が並ぶ。町内の横田農場で採れた農作物を使ったケーキも季節限定で販売。小川町マドレーヌ180円、おがわまちドーナツ180円などの焼菓子も揃う。
ブリスクル珈琲 小川町駅前店
2024年4月、駅前通りに移転オープン!
従来の焙煎所&カフェを『わなしファクトリー』内に焙煎所として2024年春移転。同施設に店を構える『おいでなせえ 小川町駅前店』内に売り場を開設する。販売豆は有機・無農薬・無化学肥料栽培などの生豆を焙煎。珈琲豆100g 800円~、ドリップ珈琲パック4個詰め700円。
Curry & Noble 強い女
見た目も味も店名もインパクト大のカレー専門店
水を加えず素材の旨味を生かした「無水チキンカレー」と、ほどよい酸味とペッパーを利かした辛味が特徴の「ポークビンダルカレー」に、週替わりカレー1種が加わる。スパイス出汁や岩塩での味変もお試しを。副菜の地元野菜から店内で流れる音楽に至るまでこだわりが詰まっている。
おがわ温泉 花和楽(かわら)の湯
タオル・館内着付きの湯治プランでゆったり
自慢の湯はpH値10の強アルカリ性単純泉。露天岩風呂やサウナ併設の内風呂に加え、岩盤浴や陶板浴は追加料金で利用可能だ。館内着のままくつろげる食事処も併設し、時間を気にせず過ごせる。
【耳よりTOPIC】楮を用いた食のブランド「OGAWA 楮寿(こうじゅ)園」
観光まちづくり事業を手がける株式会社おいでなせえでは、和紙の製造過程で不要とされる楮の新芽の高い栄養価に着目。立教大学西川研究室の協力を得ながら食品開発に取り組み、ガレットとハーブティーの商品化にこぎ着けた。2024年6月以降販売予定で、問い合わせは『おいでなせえ 小川町駅前店』(☎0493-81-5670)まで。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年4月号より