【紹介ルート】
大塚駅前→向原→東池袋四丁目→都電雑司ヶ谷→鬼子母神前→学習院下→面影橋→早稲田
時の流れるままに新旧がしっくりなじんでいく
大塚駅南口でひと際目を引く大きな鳥居。広場の整備で移設された天祖(てんそ)神社の石碑も存在感を放っていて、「お参りしていこう」という気持ちが湧き起こる。次々訪れる地元民に混じって参拝したあとは、イケ・サンパークでランチ。向原停留場のすぐ近くにある『大松ベーカリー』で購入したパンを食べていると、広々とした原っぱを子供たちが駆け回っていて、和やかな風景にほっこりする。まわりを見渡すと、真新しいタワーマンションや高層ビルが目に入る一方で、都電の両脇には昭和の面影を残す木造長屋や民家が密集する一角もあり、新旧の隣接にも驚いた。
歴史を感じる街の中に、わくわくが続々
雑司ケ谷には、本好きの間で知られる『新栄堂書店』がある。「昔ながらのまちの本屋ですよ」と店長の山口さんは謙遜するが、地元民の興味を知り尽くしたセレクトやジャンル別のディスプレイに長い経験から培われた技を感じる。
「鬼子母神の周辺はのんびりしてますよねぇ」と話す『旅猫雑貨店』の店主・金子さん自身も、ゆったりマイペース。そういえば、『新栄堂書店』の店長・山口さんも、鬼子母神参道に立つ『キアズマ珈琲』の店主・髙安さんもみんな自然体で接してくれて肩の力が抜けた気がする。
目白通りと神田川の間に広がる住宅地は生活感があふれる。目ぼしいものがなさそうという予想を覆して、発酵菓子の『yuloom zymology(ユルーム ザイモロジー)』やシルクスクリーンの作業場『SURUTOCO(スルトコ)』を発見。ニッチなお店に出合えた喜びに浸りつつ、神田川沿いをのんびり歩いて向かったのは、『Craft Beer Granzoo(グランズー)』。この店のクラフトビールには、のぞき坂や胸突坂など近隣にある坂の名前が付けられているのだ。実際に歩いてきた坂のビールを飲んだり、初めて聞いた坂のビールの味から想像を膨らませたりして、一日を振り返るのも乙なもの。
1. 天祖(てんそ)神社 [大塚駅前]
大塚の変化を見守り続けて700年
鎌倉時代末期の創建で、旧巣鴨村の総鎮守として地元の信仰も厚い。駅前の交番まで参道が続くほど広かったが、都電開通時に敷地を譲ったそう。都電神社めぐり限定御朱印帳1500円があり、御朱印は都電の駅名スタンプ付き。
●参拝自由(受付は9:00~17:00)。☎03-3983-2322
2. 大松ベーカリー [向原]
老若男女が喜ぶふわふわ食感にほっ
3代目が時代に合わせた新商品を作りつつ、マドレーヌトーストやこどもパンなど人気だった昔のパンも復活させている。懐かしい3色パン195円と油淋鶏のコッペパンサンド350円は大振りで食べ応えあり。
●5:00~18:00(金は19:00まで)、土・日・祝休。☎03-3971-2429
3. イケ・サンパーク [向原]
造幣局の跡地が憩いの場に大変身
2020年のオープン以来、東池袋の人の流れが変わった。豊島区最大という芝生広場にはカフェやショップもあり、おしゃれで開放感も抜群だ。平日は小さい子の遊び場と化し、休日はファミリーや若者たちで大にぎわい。
●5:00~22:00(管理事務所は8:00~17:00)、無休。☎03-6914-1782
4. 新栄堂書店 [都電雑司ヶ谷]
老舗の安定感の中に心をつかむ工夫あり
レンガ壁のしゃれた店構えだが、実は創業76年。雑誌、文庫、ハードカバーの本などで分類せず、全部まとめてテーマ別に配置されている。これは、「探している本を見つけやすいように」という長年のこだわり。
●11:30~13:00・14:00~19:00、日・月休。☎03-5955-1900
5. キアズマ珈琲 [鬼子母神前]
レトロな街並みとリンクする心地よさ
昭和7年(1932)築の並木ハウスアネックスの一軒。店内は静かで穏やかだ。店主の髙安宏昌さんが一杯ごとに自家焙煎の豆を挽いてネルドリップするコーヒーは550円~、自家製のベイクドチーズケーキは400円。
●10:30~19:00、水休。☎03-3984-2045
6. 雑司ケ谷鬼子母神堂 [鬼子母神前]
江戸から続く伝統行事で街がひとつに
緑に囲まれ穏やかな空気に包まれた境内。赤い扁額(へんがく)がひと際目立つ、龍や唐獅子の彫刻が施された重厚なお堂に圧倒される。毎年10月に行われる伝統行事の御会式(おえしき)大祭は、地域一帯が参加して盛り上がるという。
●9:00~17:00(大黒堂は10:30~16:30)、無休。☎03-3982-8347
7. 旅猫雑貨店 [鬼子母神前]
愛らしい郷土玩具に囲まれて癒やされる
伝統にこだわらず、店主の金子佳代子さんが楽しみながらセレクトした各地の郷土玩具がぎっしり並ぶ。ドーナツやプリンをモチーフにした創作だるまなど、心を奪われるものばかり。
●13:00~19:00(土・日・祝は~18:00)、月・火休(祝の場合は営業)。☎03-6907-7715
8. 甘泉園公園 [面影橋]
日常の喧騒を忘れる別世界へ
徳川御三卿(ごさんきょう)の一つ、清水家の下屋敷が置かれていた場所。生い茂る木々が池を囲む本格的な回遊式庭園で、高低差を生かした散策路や小さな滝もある。アジサイや紅葉も見応えあり。なんと入園無料!
●7:00~19:00(11月~2月は17:00まで)、無休。☎03-5273-3914(新宿区みどり公園課)
9. SURUTOCO(スルトコ) [面影橋]
シルクスクリーンで一点ものをおみやげに
版の上にインクをのせ、ヘラ状のツールを引くと印刷できるシルクスクリーン。自分で描いた絵がTシャツに現れる瞬間はテンションが上がる! 体験は素材や色が選べて2200円~(予約はHPから。
飛び込みOK)。
●10:30~18:30、水休。☎03-6718-4522
10. yuloom zymology(ユルーム ザイモロジー) [面影橋]
発酵へのこだわりあふれる新感覚スイーツ
店主・今泉有美子さん宅の一角にオープンした発酵菓子専門店。自家製麹や酵母で発酵させたソース、旬のフルーツや愛玉子(オーギョーチー)などを合わせた発酵ゼリー「ザイモリー」は、体の中に染み込むようなおいしさ。写真は極上いちごLサイズ1200円。
●12:00~16:00、日・月休(臨時休あり)。☎非公開(Instagram @yuloom_zymolozy)
11. Craft Beer Granzoo(グランズー) [早稲田]
坂の名のクラフトビールで締め!
「カンパイ! ブルーイング」のブルワリー併設だから、できたてのクラフトビールが6種類以上! オーストラリアのマカデミアンナッツ300円(チャージ代)やカリーブルスト1000円など、ビールの進むつまみも充実。
●17:00~23:00(日は16:00~22:00)、無休。☎03-6233-8172
取材・文=井島加恵 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2022年5月号より