「なんとか銀座」の元祖

この街が位置するのは城南エリアの北側。最寄駅は東急池上線の戸越銀座駅と都営浅草線の戸越駅、そして東急大井町線の戸越公園駅。山手線で言えば大崎と五反田のすぐ南側である。 

戸越銀座商店街ができたのは関東大震災の直後。東京下町や横浜から焼け出された商店主たちが集まったといわれている。しかし地形的には台地の谷戸、つまりスリバチ地形の川筋だったため水はけが悪く、雨が降ると浸水は日常茶飯事。そこで震災で不要となった銀座煉瓦街のレンガを譲り受け、敷き詰めて歩きやすくしたことが「戸越銀座」の名の由来だという。またそれは全国の「●●銀座」の祖であったらしい。さらに「戸越」という名は、この地が江戸の端っこでここを越えると江戸ではないといわれた……とまあ味わい深いエピソードに事欠かないが、実際に訪れてみると決して派手な商店街ではない。 

谷中銀座や砂町銀座のような下町風情は薄いし、武蔵小山のような山の手感もない。長い一本道であることは確かだが、割と密度が低いので、それがどうした?と突っ込みたくところもある。ではなぜこの商店街がこんなにも人を引き付けるのだろうか? 

東急池上線戸越銀座駅。近年リニューアル工事が行われ、木製の美しい駅舎になった。
東急池上線戸越銀座駅。近年リニューアル工事が行われ、木製の美しい駅舎になった。

まずはおかず&食べ歩き天国

戸越といえばおかず天国である。夕方になると買い物かごを抱えた主婦が食材や出来合いの食材やおかずを買いに来る。周辺には一人暮らしのサラリーマンやOLが多く住んでおり、仕事帰りにちょっと買って家で食べるというライフスタイルの人も多い。『オオゼキ』などいわゆるチェーン系スーパーが進出し、ずいぶんその手の店が減った気もするが、それでも戸越の特徴といえば物価の安さとおかず店の多さだろう。 

『後藤蒲鉾店』はいわゆるおでん屋だが、おでんのほか、揚げ物の棚も充実。名物はおでんコロッケ。最近はイートンスペースもある。 

今や戸越銀座を代表する存在となった『後藤蒲鉾店』。
今や戸越銀座を代表する存在となった『後藤蒲鉾店』。

MEAT&DELI355』は並行する隣筋の百反通り商店から移ってきた店なので、店舗はおしゃれで新しいが、地元民には意外と顔馴染み。コロッケやメンチも旨いが、銘柄和牛を使ったハムやローストビーフなど戸越にしては高級。そのほか『カタバミ精肉店』のコロッケはオーソドックスで懐かしい味、『中村忠商店』のおからコロッケも他では食べられない味で、人気が高い。鶏肉のデリカテッセン『鶏&デリ』のから揚げも人気。イートインスペースでビールも飲める。 

新顔だが、すでに地元愛され度は高い『MEAT&DELI355』。写真=オカダタカオ
新顔だが、すでに地元愛され度は高い『MEAT&DELI355』。写真=オカダタカオ

食べ歩きアイテムとして最近人気なのはおしゃれな焼き芋屋台の『銀六いも』。七輪を使った常滑焼のつぼ焼きで、滋味深い味が楽しめる。5月から夏の間だけ食べられる氷屋『寿々木』のかき氷も名物だ。  

『銀六いも』で使うのは紅はるかを基本に3~4種類のいも。写真=オカダタカオ
『銀六いも』で使うのは紅はるかを基本に3~4種類のいも。写真=オカダタカオ

昨今はロースタリーカフェも増えているが、おすすめはちょっと裏筋にある『COFFICE IWATSUKI』。元カメラマンの岩月さんが『カフェバッハ』の田口さんから引き継いだ年季の入った焙煎機で小量ずつ丁寧に煎ってくれる。

わざわざ食べにいくべき巨人のシチュー

庶民派商店街にグルメを求めるのはお門違いな気もするが、マスコミ的にも人気の戸越銀座とあってよそに誇れる店も増えてきた。例えば『巨人のシチューハウス』は本格的なアイルランドシチュー料理が味わえる店。評判を聞いて全国から客を引き寄せるいわゆる人気店だ。 

一度は食べてほしいアイルランドの家庭料理。うまいよ!
一度は食べてほしいアイルランドの家庭料理。うまいよ!

中華料理の『百番』は先代から数えると戸越の最古参の食堂だと思う。庶民的な街中華メニューをファミレス感覚で提供する。戸越だけにテイクアウトメニューも充実だ。 

そのほか『スペランツァ』でミートソースパスタの深みにはまったり、『シロクマカフェ』でソフトクリームのボリュームに驚いたりと、美食のツボが増えたのはうれしい。 

戸越銀座で一番人を集める店。
戸越銀座で一番人を集める店。

一杯ひっかけたい人のための立ち飲みのおすすめはスタンディングの『戸越銀座バルNEKO NO HITAI(ネコノヒタイ)』。その名の通り、小さな小さなバルだが、夜ごと賑わいを見せる地域密着型の店だ。 

一人客の多い地元密着型バル。
一人客の多い地元密着型バル。

戸越らしからぬカルチャーやおしゃれ店

戸越銀座のカルチャーというほどのことではないが、やはり老舗書店の『明昭館書店』は外せない。私は子供のころからこの書店で育った自覚があるし、ギターケースを抱えたcharを見かけたものだ。ところでcharは身長180㎝の長身。子供心になんとかっこいいのか! 大人になったらあんな感じになりたいなぁなれるかなぁと思ったものだが、現実はわりと残酷なものだったとしか言いようがない 

「散歩の達人」の戸越銀座特集号のバックナンバーを大量においてくれている『明昭館書店』。
「散歩の達人」の戸越銀座特集号のバックナンバーを大量においてくれている『明昭館書店』。
地元の名士charのムックも目立つところに。
地元の名士charのムックも目立つところに。

もう一つ商店街の一番端っこで20年前から頑張っている古書店『小川書房』がある。本好きな人ならこの店の棚は驚くと思うが、戸越にしてはこだわりが強すぎるか。聞けば店主はやはり神保町で修業した御仁だそう。「まあ、今はほとんどネット販売ですからね」といって笑う。いつまでここにいてくれるかは不明だが、こんな癖の強い書棚を見て、目の保養ができるのはうらやましい。 

『浩宮さまのとっておき会話』『虚を突かれハッとする本』『女性秘書入門』……なんという棚!
『浩宮さまのとっておき会話』『虚を突かれハッとする本』『女性秘書入門』……なんという棚!

フイルム現像を積極的におこなうラボ『フォトカノン戸越銀座店』も貴重だ。店舗の半分はギャラリースペースで地元の作家を中心に行われる展示が楽しい。また、戸越銀座の通りからちょっと外れるが、『バーオブライエン』は都内屈指のソウルバー。夜ごと同好の士が訪れソウルフルな話題で盛り上がっている。 

『フォトカノン戸越銀座店』。写真=オカダタカオ
『フォトカノン戸越銀座店』。写真=オカダタカオ
『フォトカノン』のギャラリーで展示されていた渡邉茂樹さんの写真展「品川用水」。素晴らしかった!
『フォトカノン』のギャラリーで展示されていた渡邉茂樹さんの写真展「品川用水」。素晴らしかった!

その他、国内外の珍しい塩がそろう『solco』やセンスのいい食器がそろう『もくもくいし』、近くにオーダー家具工房を持つ『瀬尾商店』などかつての戸越らしからぬ個性派が増えた。 

国内外で製造された珍しい塩45種が揃う『solco』。
国内外で製造された珍しい塩45種が揃う『solco』。

2007年に改装した『戸越銀座温泉』も人気だ。黒湯と透明の軟水がたっぷり張られた2種の浴槽を日替わりで楽しめる。ああ、これが私が子供の頃にもあったらなあ、と一番思うスポットである。 

2007年に改築。モダンな構えの『戸越銀座温泉』。休憩室も広い。
2007年に改築。モダンな構えの『戸越銀座温泉』。休憩室も広い。

戸越にいるのはこんな人

平日と休日でガラッと変わります

戸越を歩いている人はやはり買い物客が多い。おおむねおばちゃん率50%、子連れ率20%、老人率10%、カップル10%、それ以外10%といったところだろうか。おばちゃん天国ではあるが、最近は昔に比べて小ぎれいなおばちゃんが増えたと思う。あれだけテレビで取り上げられると、まあそういうことになるだろう。 

平日と土日で人種がガラッと変わるのも面白い。平日は地元おばちゃんの天下なのだが、休日はなんだかやたらと意識高い系のばちゃん、ではなく素敵な女性が増えてくる。前出『solco』『もくもくいし』あたりが目当ての20~40代の男女が闊歩。西荻窪や清澄白河あたりにいそうな人種がちらほらと見受けられる。しかしそういう人も、みなコロッケやおでんを買い食いしてくれるのがうれしい。 

そして戸越の有名人といえば、やっぱcharだ。地元民なら何度も見ているに違いない、まさに戸越の顔である。また最近『笑点』の大喜利メンバーに抜擢された人気落語家・桂宮治さんも生まれは武蔵小山、高校卒業後ずっと戸越暮らしという筋金入り。気取りのない雰囲気がなんだかとっても戸越だ。 

戸越銀座が一本道でよかったと思う理由

最後に個人的な思い出を少々。 

芥川龍之介の「トロッコ」という短編をご存じだろうか。家の近所の現場にいる人夫にせがんでトロッコに乗せてもらい遠くまで連れて行ってもらう。最初は楽しかったものの、ふと気づくと見知らぬ風景が広がっている。心細くなって泣きながら家に帰るという話だが、同じような経験が私にもある。 

あれは小学5年のころ。ある日の放課後、ふと思い立って、戸越銀座がどこまで続くのか、商店街の果てを見てやろうと思ったことがある。東の端の三ツ木公園をスタートしたのは冬の日の午後4時頃だった。 

三ツ木公園には、現在「みっくん」の愛称で親しまれている子供の像が。季節ごとに服が変わるのもいい。
三ツ木公園には、現在「みっくん」の愛称で親しまれている子供の像が。季節ごとに服が変わるのもいい。

『かたばみ精肉店』やうなぎの『宮川』を越え、「ソニーショップ」(今はない)と『後藤蒲鉾店』『明昭館書店』あたりまでは見覚えのある風景。しかしそこから先は未踏の地。歩を進めると日も落ちてきて、なんだか急に寂しくなってきた。

古本の「竹田書店」(今はない)を越えた先に、突然猛スピード〈のように見えた〉で車が行き交う大通りが現れた〈第2京浜国道のこと〉。信号が青に変わり横断歩道を渡ると、緊張のあまり心臓の鼓動が別の生き物のように感じられた。

それでも我慢して歩いていった先に踏み切りが見えた。近づいていくと「カンカンカン!」という大音量とともに遮断器がおりてきた、と思うや、巨大な緑色の何かが眼前を横切った〈戸越銀座駅を通る池上線は当時緑色だった。愛称はいも虫〉。

堰を切ったように不安感に襲われた私は踵を返して全速力で逃げた。もはや風景は眼に入らなかった。涙だだ洩れだが人目も気にならなかった。

やがて見覚えのある風景が現れ、少しずつ少しずつ落ち着きを取り戻し、家に着いたらそのまま祖母の腹に突っ込んだ。祖母は笑いながら頭をなでてくれた。結局、戸越の果てにはたどり着けなかったが、そんなことはどうでもよかった。 

戸越銀座が一本道でよかったと時々思う。そうじゃなければあの日の私は家に帰れなかっただろう。 

取材・文=武田憲人 文責=さんたつ/散歩の達人編集部
イラスト=さとうみゆき

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浅草寺とその参道である仲見世商店街を中心として東西に広がる浅草。世界的にも有名な観光地であり、一時は日本人よりも海外旅行者の方が目立っていたが、コロナ以後は江戸情緒あふれる“娯楽の殿堂”の風情が復活している。いわゆる下町の代表的繁華街であって浅草寺、雷門、仲見世通り、浅草サンバカーニバルなどの観光地的なイメージや、ホッピー通り、初音小路のような昼間から飲める飲んべえの町としてとらえている人も多いだろう。また、和・洋問わず高級・庶民派ともに食の名店も集中するエリアだ。
いまや東京を代表する散歩スポットととなったこのエリア。江戸時代からの寺町および別荘地と庶民的な商店街を抱える「谷中」、夏目漱石や森鴎外、古今亭志ん生など文人墨客が多く住んだ住宅地「千駄木」、根津神社の門前町として栄え一時は遊郭もあった「根津」。3つの街の頭文字をとって通称「谷根千」。わずか1.5キロ正方ぐらいの面積に驚くほど多彩な風景がぎゅっと詰まった、まさに奇跡の街なのである。
高円寺は、キャラの濃い中央線沿線のなかでもひときわサイケで芳(こう)ばしい街だ。杉並区の北東に位置し、JR高円寺駅から、北は早稲田通り、南は青梅街道までがメインのエリア。中野と阿佐ケ谷に挟まれた東京屈指のサブカルタウンであり、“中央線カルチャー”の代表格とされることも多い。この街を語るときに欠かせないキーワードといえば、ロック、酒、古着、インド……挙げ始めればきりがない。しかし、色とりどりのカオスな中にも、暑苦しい寛容さというか、年季の入った青臭さのようなものが共通している。
千住は広い。日光道中の千住宿は、北千住(足立区)から南千住(荒川区)まで、全長4㎞にも及んだというから驚きだ。今回取り上げる「北千住」はその北3分の2ぐらい。隅田川と荒川放水路に挟まれた日光街道(国道4号線)の東西に広がる楕円形のエリアである。JR北千住駅の乗降客数は東日本管内で9位、なんと上野や秋葉原より上。そしてSUUMOが選ぶ「穴場な街ランキング」では4年連続で1位に選出。つまり今もっとも活気のある下町なのである。
JR中央線の中央特快が停車し、総武線の始発・終点でもある「三鷹」は、吉祥寺から西へひと駅。ビル群が遠ざかり空がパーンと広がる、のびやかな東京都下の玄関だ。緑も豊かで空気がうまいと感じるが、断じてローカルではない。都会のおもしろみと身近な自然がバランス良く混ざり合って、華やかでも地味でもない心地よい独自文化をゆらゆらさせている。
江戸時代には、桜や滝の名所として人気を誇り、料亭などが多く立ち並んだ観光地だった。今も桜は残るものの、往時の雰囲気はほぼ無く、閑静な住宅地という印象が強い。この街がにわかににぎわい出したのは、2000年の南北線全線開通からだろうか。区役所や中央図書館など北区の中枢機能を持っているのに、埼玉だと思われたり、八王子と間違われたり。そんな不名誉なイメージばかり先行してきた街の底力を、地元在住歴45年の筆者がお伝えしよう。
水辺の下町でおすすめはどこ?と聞かれたら、私は深川と答える。特に清澄白河から森下にかけて辺りが最高だ。それはここが“水の都”だからなのだが、今はコーヒーの街としての方が名が売れている。だから、まずコーヒーの話から始めましょう。
JR西荻窪駅を中心として北は善福寺川、南は五日市街道あたりまで広がるこの街。「西荻窪」という地名は1970年に廃止され現存しないが、“西荻(ニシオギ)”という街の存在感はむしろ年々増している。吉祥寺駅と荻窪駅の間に位置し、「松庵」など高級住宅地を擁するせいで、中央線の中では比較的上品なイメージで語られることも多い。しかし、ひとたびこのエリアを歩けば、上品などころかかなり個性的な地だということが分かるだろう。店主がそれぞれの哲学を貫く店と、それらを愛してやまない住民が集まる、けっこう熱くてヘンな街なのだ。
東京最北端の繁華街として栄える赤羽。その中心部にあるJR赤羽駅は、1日10万人近い乗降者数を誇る要衝駅として、街のにぎわいを支える。 駅の東口には昔ながらの横丁や商店街がドシンと構え、昼間から酔ったオヤジが管を巻いていたり、威勢のいいお母さんたちが井戸端会議に花を咲かせていたり。かと思えば女子に受けそうなバーやカフェもある。駅の西側にはショッピングモールやスーパーマーケットが並び、学生や子育て世代からも人気のエリアだ。