宮治さんph
桂宮治(かつらみやじ)
1976年、武蔵小山生まれ。2008年、三代目桂伸治に入門。2012年二ツ目昇進。NHK新人演芸大賞など受賞歴多数。パワフルではじけた演出は古典落語に旋風を起こし、他派からの共演依頼も多い。独演会、落語会、メディア出演と、大車輪の活躍を続ける。

戸越銀座だけで6回の引っ越し!

戸越銀座を離れる理由が何もないんですよ。武蔵小山で生まれて、中学1年の時に中延に引っ越し、高校を卒業してから戸越銀座暮らしが始まりました。親の家から僕が独立し、結婚して子供が生まれ、子供が大きくなってと、戸越銀座だけで6回の引っ越し! ずっと近所ばっかりですよ(笑)。

その都度お世話になったのが『三友社』の福本さん。僕が噺家になる前、会社員だった頃からの付き合い。カミさんと結婚する前に初めての家探しで、とてもいい部屋を紹介してくれた。それから引っ越しのたびに福本さんに相談してね。僕は戸越銀座に育てられたようなもんですよ。

とにかく住みやすい。交通の便がいい、都心に出やすい、生活必需品が全て揃う、物価も安い、治安もいいですよ。特に噺家になって便利なのは、羽田と品川が近いこと。地方の仕事が多いから便利なんです。それに駅が3つ(戸越銀座駅、戸越駅、戸越公園駅)あるでしょ? 仕事先によって乗る電車を変えられるんです。大崎駅だって歩いて行けますから、山手線にも乗れるんです。

宮治さんの戸越銀座愛を深めるきっかけをつくった不動産会社『三友社』の福本さんとは、落語家になる前からの付き合い。
宮治さんの戸越銀座愛を深めるきっかけをつくった不動産会社『三友社』の福本さんとは、落語家になる前からの付き合い。
三友社
品川区、大田区の物件を多く扱う、創業60年を超える地元密着不動産会社。
本店は10:00~19:00、無休。03-3783-1218
現在福本さんが店長を務める戸越銀座店は10:00~19:00、水休。武蔵小山店、中延店も。

夏から秋にかけて、毎週どこか近所の神社でお祭りをやってます。ハロウィンみたいな地域のイベントも多くて、子供たちも楽しみにしてるんです。そうですね、子供連れ家族も多いですよ。品川区は子育て世代に手厚いんです。

ここの暮らしを経験すると、引っ越しても戻ってくる人も多いんです。テレビやメディアで何度も紹介されるからって、そんなに派手じゃない。確かに商店街は長いけど、この一本だけですから。横に入ればすぐ静かな住宅地。みんな川の流れのようにこの通りに来ます。だからいつも同じ人に会うんです。僕は散歩しながら噺の稽古をするんですけど、商店街を歩くと、まぁよく挨拶されます(笑)。何度か会えば自然と挨拶する。お店は入れ替わっても、雰囲気は僕が会社員だった頃と変わらない、気さくなままです。そういう街なんですね、戸越銀座って……。

地元店をとことん愛す‟散歩の達人”が通う店

しょっちゅう歩いてるから、お店の変化もすぐわかりますよ。界隈の銭湯も子供とよく行きます。だから僕が本当の散歩の達人(笑)。5月の連休の頃になると『寿々木』って氷屋さんが、かき氷を始めるんです。いつも近所の子供たちが行列を作ってますよ。かき氷が始まると、あぁもうじき夏なんだなぁ、終わっちゃうと夏もおしまいだなってね、街の風物詩みたいな店です。夏に子供と歩いてると、「文庫の森」の近くの『ハスキー』とどっちにする? なんてね。

ほら、あそこの金物屋さん見ました? 僕たちは戸越銀座の東急ハンズって呼んでるんです。何でもある! ネジ一本でも水道のパッキンでもすぐ出てくる、だから東急ハンズ。向かいの模型屋さんも変わらないなぁ。こういう店がいつまでもあるのが楽しいですね。

僕はね、絶対一人じゃ飲食店に入らない。外食も家族全員で。僕は家族とご飯食べるのが一番好きなんです。戸越銀座は個人店が頑張ってるし、子連れに優しい飲食店も多いです。中華の『百番』は総菜はよく買うし、奥がレストランなんで行きますよ。焼き肉屋でも、その日の気分や予算で変えられる。第一、歩いて帰れますしね(笑)。

今、鶏といったら『鶏&デリ』! しょっちゅう買いますよ、家族全員大好き(笑)。骨なしもも、これを頼めば間違いない。でも週末は外から来る人たちで行列になるから、地元の人間は平日に買いに行くんです。「成金」メンバーとここで飲んだこともあったなぁ。2年前から文庫の森で50人近いお客さんと宴会をするんですが、その時は、戸越銀座で唐揚げや総菜をどっさり買うんです。

よく持ち帰りで買う『鶏&デリ』の唐揚げはお店でも食べられる。「骨なしももさえあれば間違いないんです」と太鼓判!
よく持ち帰りで買う『鶏&デリ』の唐揚げはお店でも食べられる。「骨なしももさえあれば間違いないんです」と太鼓判!
住所:東京都品川区戸越1-6-18/営業時間:11:00~20:00/定休日:不定
文庫の森
元肥後熊本藩細川家下屋敷、後に三井家が所有し、三井文庫を発足。2013年に区立公園に。現存する書庫は日本最古の壁式鉄筋コンクリート造建物。
成金
落語芸術協会の二ツ目落語家、講談師11名によるユニット。柳亭小痴楽、神田松之丞(六代目神田伯山)に続き昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、桂伸三も5月に真打昇進予定。

高座でも声が掛かるほど相思相愛の戸越銀座人

『勢家』も噺家になってから、ふらっと入ったら居心地がよくて、みんな優しいから、ゆっくり過ごせます。子供が小さい頃は常連さんが抱っこしてくれたり、店のお孫さんと遊んでたり。集まる人はみんな顔見知りになっちゃう。頼んだわけじゃないのに落語会に来てくださって、同じ街に住んでるから応援してやろう! ってね。だからといってベタベタするわけじゃない。この人付き合いの距離感が心地いいんです。戸越銀座って、こんな感じなんです。

宮治さんいきつけの寿司屋『勢家』は、家族ぐるみの付き合い。「ここに来たらみんな親戚なの!」という常連さんも皆ご近所さん。
宮治さんいきつけの寿司屋『勢家』は、家族ぐるみの付き合い。「ここに来たらみんな親戚なの!」という常連さんも皆ご近所さん。
住所:東京都品川区戸越1-16-11/営業時間:11:30~13:15・17:00~22:30/定休日:火

僕はこう見えて人付き合いが苦手なんですが、そんな人間でも知り合いがたくさんできる街。子供と『戸越銀座温泉』に行くと、大きくなったなぁって周りのお客さんに言われたりね。にぎやかな湯船ですよ。武蔵小山生まれでもここまで愛せるんだから!きちんと挨拶さえすれば、ちゃんと受け入れてくれる街です。

戸越公園と文庫の森、隣り合わせに大きな公園が2つあるんです。どっちも池があるんだけど、文庫の森には池の真ん中を渡れる遊歩道があるんですよ。だから鬼ごっこもすごく楽しい。戸越公園には滑り台や遊具があって、その日の気分で行きます。子供と「どっちに行く?」、「両方!」なんてね。でも特別な公園じゃない。買い物帰りにひと休みしてる人も多いし、週末になるとピクニックしてる家族連れがいっぱいいます。僕らにとっては、いつもの近所の公園なんです。

学校も近くて環境もいい、戸越八幡って立派な鎮守様もあって、僕にとって運気のいい街なんです。戸越銀座に住んでもう22~23年。人生で一番長く住んでる街ですね。高座でも地元の話をします。「戸越銀座!」って声が掛かることもありますから。ディスったりすることもあるけど、この街が大好きだからこそ言えるんです。特別な何かがあるわけじゃないけど、「な~んかいいな!」があるところ。きっともう離れないでしょうね、戸越銀座から……。

「広い公園が2つあるのがうれしいですね」。文庫の森と戸越公園は目と鼻の先。子供と遊ぶ時にも、ネタの稽古の時にも来るという。豊かな緑 の空間を普段づかいできる贅沢。
「広い公園が2つあるのがうれしいですね」。文庫の森と戸越公園は目と鼻の先。子供と遊ぶ時にも、ネタの稽古の時にも来るという。豊かな緑 の空間を普段づかいできる贅沢。
戸越公園
文庫の森同様、細川家下屋敷の庭園跡を利用して造られた区立公園。池を中心に渓谷や滝、築山などの配置の中を一周する回遊式庭園。
戸越八幡神社
大永6年(1526)創建の、旧戸越村の鎮守。銅板葺き、木造入り母屋造りの本堂は、安政2年(1855)に再建した堂々たる建造物。

取材・文=高野ひろし 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2020年3月号より