趣向を凝らした空間でかつてない体験を!『FUGLEN SANGŪBASHI(フグレン サングウバシ)』【参宮橋】
ノルウェー・オスロの老舗である『FUGLEN』初の海外支店として2012年にオープンし、浅煎りのノルディックローストのコーヒーを日本に広めた『FUGLEN TOKYO』。そのアイデンティティを掘り下げ、珠玉の一杯を味わうための特別な時間と空間を提供するのが2024年に誕生した参宮橋店だ。
「『素材を磨く』というのがコンセプト」とマネージャーの鮫島隆秀さん。『FUGLEN』らしいヴィンテージ感と無垢を是とする質実さが融合した空間で、洗練されたバリスタの所作をカウンター越しに見守る体験は、まるで現代の茶室を再現したようだ。
コーヒーメニューはふたつと潔い。ひとつはハンドドリップで、2種類のシングルオリジンから豆を選び、グラインド後に粒度を揃えることでよりクリアな味わいを楽しめる。もうひとつはノルウェースタイルのクーケカッフェ。本来はアウトドアでたしなむ、ケトル抽出の野趣あふれるコーヒーだ。そのふたつを順に味わえるコースも用意している。
『FUGLEN SANGŪBASHI』店舗詳細
“珈琲職人”の技術と感性で一期一会の1杯を作り出す『ROSTRO(ロストロ)』【代々木公園】
飲食店向けスペシャルティコーヒー専門の焙煎・卸販売会社の旗艦店として2017年にオープンした『ROSTRO』。入り口の「REAL JAPANESE COFFEE HOUSE」と書かれたミラー看板が目を引く。
「ひとりのお客さんに実直に向き合う喫茶店は日本独特の文化。その理想を追求したら『メニューはいらない』と思い至って」と代表兼焙煎士の清水慶一さん。その結果、テラス利用はメニュー注文の従来型、店内利用は客にヒアリングして作るオーダーメイド型という現在の形態にたどり着いた。
コーヒーのリクエストは味の好みやその日の気分など、抽象的な言葉でもOK。小さなメモを頼りにイメージを固め、約70種もの豆のバリエーションから配合や抽出レシピを組み立て、迷いなく完成へと導いていく。目の前に差し出されるのは文字通り唯一無二の1杯。その複雑で豊かな味わいを体験すれば、できあがるまでの待ち遠しい時間もまたこの幸福なひとときの引き立て役だったと思えるだろう。
『ROSTRO』店舗詳細
米西海岸発のロースタリーカフェ『VERVE COFFEE ROASTERS YOYOGI PARK(ヴァーヴ コーヒー ロースターズ)』【代々木公園】
カリフォルニア発のスペシャルティコーヒーブランド、『VERVE COFFEE ROASTERS』。その都内4店舗目が代々木公園店だ。
足を踏み入れると、明るく客の名前を呼ぶスタッフの姿がまず目に入る。「お客さまを『Best Friend’s Family』のように迎えようと心掛けています」とマネージャーの山本麻友さん。多国籍な客層も相まって、まるで海外カフェにいるかのような居心地のいい空間となっている。
豆はアメリカ本社が産地から直接買い付け、焙煎はすべて北鎌倉のロースターで。ブレンドはデカフェも含めて6種類。日米共通のシグネチャーブレンドである「STREETLEVEL」や、日本限定の「KITA-KAMAKURA」ブレンドも人気だ。4〜6種類のシングルオリジンはハンドドリップで提供し、リザーブと呼ぶ希少な豆も一部で取り扱う。豆を購入するとドリンク1杯サービスというのもうれしいポイント。散歩に出掛ける理由がまたひとつ増えるというものだ。
『VERVE COFFEE ROASTERS YOYOGI PARK』店舗詳細
ワクワクが止まらないめくるめくワンダーランド『STARBUCKS RESERVE(R) ROASTERY TOKYO』【中目黒】
焙煎からカップまで──世界で6カ所しかないロースター併設店の日本店が、目黒川沿いに立つ。建築家・隈研吾氏設計のモダン建築は、まるでおとぎの国のコーヒーファクトリーだ。
巨大焙煎機の背後に生豆が入るサイロが並び、シアトルで研修を終えた焙煎士がつきっきりで焙煎。木製折り紙天井に張り巡らされたスケルトンパイプを、焙煎豆がカラカラと音を奏でながら通り抜けていくさまにも心躍る。印象的なのは中央に鎮座する赤銅製の円柱で、4階吹き抜けを貫くほど大きい。中に焙煎豆が送られ、風力で異物と良質なコーヒー豆を選別する仕組みだとか。
ハンドドリップ、サイフォン、コーヒープレスなど多彩な抽出法から選べ、「淹れ方で味が変わります。会話を楽しみながらお選びください」とバリスタは語る。生豆をウイスキー樽で熟成させたバレル エイジドのコールドブリューが飲めたり、ミラノ発のベーカリー「プリンチ(R)」を併設したり。コーヒー文化を発信するスタバの魅力が満載された聖地だ。
『STARBUCKS RESERVE(R) ROASTERY TOKYO』店舗詳細
人と人をつなぐ起点になり、コーヒーで街と暮らしを豊かに『ONIBUS COFFEE 八雲店』【都立大学】
都内とその近郊、台湾やバンコクにも展開する『ONIBUS COFFEE』の旗艦店。オニバスとはポルトガル語で公共バスのこと。バスが地域をつなぐように、コーヒーで街と人をつなぎたいとの思いを込めた。
コーヒー豆は常時ブレンド3種類とシングルオリジン5~7種類を用意。浅煎りが中心で、深いものでもシティローストまで。焙煎は「あくまで豆の個性を整えるために行う」という位置づけだ。「生豆の状態が100%。焙煎と抽出でどれだけ味を減点させないか、というのが私たちの考え方です」と、サスティナビリティ担当の山田舞依さん。生産者に敬意を払い、フェアトレードを念頭に労働環境の改善にも心を砕く。
この日、味わったのはシングルオリジンのRWANDA Ruli 0304。華やかでフルーティー、そしてクリア。「体にスーッと入って気がついたら飲み終えている」のが理想とのことだが、まさにその通り。格別の一杯は、飲み手も生産者も豊かにしてくれる。
『ONIBUS COFFEE 八雲店』店舗詳細
先駆け的な中南米豆の専門店。カラフルで明るい店内も楽しみ『カフェテナンゴ』【駒沢大学】
駒沢公園を貫く大通りの少し西、道に面したスタンドも愛らしい『カフェテナンゴ』は2008年に創業した。中米産コーヒーに特化した店として当初から有名で、産地限定のコーヒー店は当時ほかにはなかったそうだ。代表取締役の栢沼(かやぬま)良行さん曰く、かつて焙煎士として会社で働いていた中で「作り手の農家がどんな人で、どうやって作られているかを知っておきたい」と考え、最初は世界中を巡ろうとしたという。
「それが最初に訪ねたグアテマラ・アンティグアで産地や農園、精製の個性に目覚めて、『中米だけで専門店を開けるな』と」。かくして誕生した店は、2022年に大幅リニューアル。エリアを中南米へと若干広げ、カラフルでより親しみやすいカフェになった。店奥に備えたディードリッヒの焙煎機で焼く豆は、常時20種類以上。
もとよりスペシャルティコーヒー好きに知られた名店ながらも気軽に入れる雰囲気で、駒沢公園帰りのカップルや友人同士、家族連れも訪れる。地域になじんだ本格派という、理想的な一軒だ。
『カフェテナンゴ』店舗詳細
コーヒー果実の甘みや酸味を引き出した浅煎り『PASSAGE COFFEE ROASTERY(パッセージ コーヒー ロースタリー)』【祖師ヶ谷大蔵】
「土壌や日照など、地球が作り出した特徴を引き出したい」。店主の佐々木修一さんは、焙煎温度や時間はもちろん、排気量、焙煎時の季節まで計算し、細やかに焙煎。店頭に並ぶのはシングルオリジン約5種だが、2、3か月ごとに種類を替え、年間約30種を用意する。
佐々木さんはイタリアで開催されたワールドエアロプレスチャンピオンシップで優勝した腕前。抽出方法にエアロプレスも選べ、同じ焙煎豆でも違う表情が楽しめるという。
「ハンドドリップは味わいキリッ。対してエアロプレスは風味がより紅茶っぽく、優しいまろみになりますよ」
フルーティーなコーヒーに合うスイーツもある。なかでもオートミールクッキーは、米粉、豆乳を用いたグルテンフリーで軽やか。ザクザクした歯触りとチョコが、コーヒーの甘みをぐんぐん際立たせるよう。店内は工房のような気張らなさ。焙煎士たちが通い、コーヒー談議をする姿も印象的だ。
『PASSAGE COFFEE ROASTERY』店舗詳細
ノルディックローストを追究する専門店『FINETIME COFFEE ROASTERS(ファインタイムコーヒーロースターズ)』【経堂】
商店街をひとつ逸(そ)れると現れるおしゃれな一軒家。ガラス戸の先にオレンジ色の派手な焙煎機が姿をのぞかせている。
「ディードリッヒは好きだった北欧のロースターが使っていて。オレンジ色は選べたんです。浅煎りのフルーティーさの象徴でもあるし、この色しかないと」そう語るのは店主の近藤剛さん。脱サラして飲食店の開業を模索していた頃に出合った華やかな酸をまとった浅煎りのコーヒーは、「現在進行系のカルチャーに関わりたい」と近藤さんの進む道を決定づけた。
生豆の甘みやフルーティーさを引き出す焙煎を心掛け、シングルオリジンのみ取り扱う。浅煎りのラテとともにおすすめなのが、エアロプレスで淹れるコーヒーだ。「圧力をかけて抽出するエアロプレスは豆の特徴がよく出る。またフィルターで雑味を取り除くのできれいな味わいになるんです」評判を聞きつけ、わざわざ遠方から足を運ぶ“浅煎り好き”も。それでも「もっと裾野を広げたい」と近藤さんの熱意は尽きない。
『FINETIME COFFEE ROASTERS』店舗詳細
気づけばカップが空に。おいしさのコツにも納得『GLOBE COFFEE』【西小山】
店に入ると、コーヒーの芳(かぐわ)しさを全身で吸い込みたくなる。奥に焙煎機が鎮座し、「毎朝ここで焙煎してますよ」と、店主の増本敏史さん。ブレンドにも焙煎機を活用し、「本来は豆を冷却する装置ですが」と、3種類の豆を混ぜては取り出し、を3回繰り返す入念さ。季節のブレンドに用いる豆を基本にしながらも「ちょっと面白そうな、ブレンドの枠にはまらない豆も」仕入れ、テストローストしてから味を決めている。
まずは看板ブレンドを。口当たり優しく、後から甘みとコクが追いかけてきて、飲み進めるほど香りが広がっていく。ちなみに、店で使うドリッパーはコーノで「ひとつ穴は慣れるとコントロールしやすいですよ」と増本さん。豆の量と抽出時間を決め、ロースト度合いで濃度を加減するなど、今日から実践できる“淹れるコツ”を教えてくれるのもうれしい。
スイーツも忘れ難い。定番のチーズケーキはトロッとなめらかな蒸し焼きで、濃厚なのに重くない口当たり。「週末はケーキや焼き菓子の種類が少し増えますよ」。
『GLOBE COFFEE』店舗詳細
のんびりした奥の喫茶室でコーヒーの甘みに癒やされる『丸山珈琲 尾山台店』【尾山台】
日本のスペシャルティコーヒー草創期より活躍してきた軽井沢発祥の『丸山珈琲』。創業者の丸山健太郎さんはコーヒー豆そのものの素材や品質に興味を持ち、高品質の豆を産地から直接買い付けるようになった。
「コーヒー豆で重視するのは、味のきれいさと酸の質です」と店長の石井颯太さん。今では特徴を引き出したビーンズショップのイメージが強い。だが、のどかさに品も漂う商店街に構える東京1号店の奥には喫茶室が控えている。抽出はフレンチプレスだ。
「表面に浮かぶコーヒーオイルに旨味が凝縮されるので、いい豆を使うほどまろやかになります。自宅でも味を再現しやすいですよ」
尾山台ブレンドを飲むと、やわらかな口当たりとともに甘みが立ち、フルーティーさが追いかけてすっと切れる。「同じ豆でもまったく違う味」とのことで、エスプレッソで味わえば、ほろ苦さとコク、甘みのバランスが絶妙。相性抜群のミルクに加えたモカソフトクリームと味わうもよし。香り豊かなコーヒーブレイクになる。
『丸山珈琲 尾山台店』店舗詳細
文=永島岳志、永島岳志、木村理恵子、高橋敦史 撮影=永島岳志、元家健吾、富貴塚悠太、高橋敦史
MOOK『東京スペシャルティ珈琲図鑑』より