北向地蔵尊
稽古照今、地蔵の力と感染対策で乗り切ろう
江戸天明年間の関東地方は、浅間山の噴火に飢饉(ききん)、加えて赤痢や腸チフスなどの悪疫が流行。現在のコロナ禍より、はるかに悲惨な状況だった。そんなとき、悪疫退散を願って天明6年(1786)に建立。岩船地蔵尊(現在の栃木県)の分身なのは、当時人気を博していた念仏「岩船節」の影響だろうか。感染対策の徹底を誓って合掌。
●拝観自由。埼玉県毛呂山町権現堂
毛呂山食堂
町内産食材で固めたサプライズなご当地丼
「豚玉毛(ぶったまげ)丼」は毛呂山のB級グルメ。「ぶったまげ」とは地元産豚バラの「ぶ」、赤玉卵の「たま」、毛呂山の「げ(毛)」のこと。甘辛いタレで煮込んだ具に、町の名産「桂木ゆず」の香りが添えられる。「もろしょく」の名で地元に親しまれているこの老舗食堂をはじめ町内9軒で味わえる。
毛呂氏の供養塔
名家の流れを汲み、長く毛呂郷を治めた
毛呂氏は藤原北家小野官流の系譜。祖の季光(すえみつ)は源頼朝の側近として仕え、子孫は代々毛呂郷の領主だった。後に北条氏に属したため、小田原征伐のとき八王子城で多くが討死。約400年続いた在地領主の歴史は幕を閉じた。毛呂氏が開いた長栄寺境内と裏山が館跡で、供養塔から上ると土塁や曲輪(くるわ)が現れる。
●見学自由。埼玉県毛呂山町小田谷698
出雲伊波比(いずもいわい)神社
1000年近く続く神事「やぶさめ」が待ち遠しい
延喜式神名帳にその名がある古社で、国の重要文化財に指定されている本殿は埼玉県最古の神社建築。鎌倉時代に源頼朝の命で畠山重忠が造営、大永7年(1527)に焼失した翌年、領主の毛呂顕繁(あきしげ)によって再建された。康平6年(1063)に始まった古式神事「やぶさめ」は、武芸でなく地域安寧を願う祭り。現在も春と秋の年2回行われている。2020年秋は中止だが春は2021年3月14日に開催予定。
●境内自由。埼玉県毛呂山町岩井西5-17-1 ☎049‐294‐5317
毛呂山町歴史民俗資料館
文化遺産に囲まれた環境で知る、町の通史
山あいに花開いた古代仏教文化に3つの古墳群、毛呂氏など武蔵武士の活躍、さらには中世の古道と歴史好きには興味深いエリア。町の規模を考えると相当力が入った立派な施設なのもうなずける。保管中の「桂木寺伝釈迦如来坐像」は10世紀の作と思われる県下最古級の仏像。お見逃しなく。
苦林野(にがばやしの)古戦場
軍記物に描かれた14世紀の合戦の舞台
貞治2年(1363)に鎌倉公方・足利基氏と、宇都宮氏綱の重臣・芳賀禅可(ぜんか)の軍が争い基氏が勝利した合戦。足利は上杉憲顕(のりあき)の関東管領就任をもくろみ、芳賀は足利に取られた越後の統治権の奪還が目的だった。実際の兵力は足利3000・芳賀800ほどらしいが『太平記』には両軍計一万数千騎が激しく戦った様が描かれている。ともあれ足利尊氏の登場以後、14世紀の関東は諸勢力が入り乱れ混沌としておもしろい。
●見学自由。埼玉県毛呂山町川角2238
鎌倉街道
武蔵武士が駆けた古道の面影が1.5kmにわたり残る
鎌倉から武蔵国を経て、上野国(現在の群馬県)と結んだ鎌倉時代の古道。文化庁の「歴史の道百選」に「鎌倉街道上道(かみつみち)」として選ばれている。沿道には南関東で初めて発見された中世の宿「苦林宿」(堂山下遺跡)や大板碑など見どころ多数。江戸初期、東側に並行して道が付け替えられたため、中世の面影がよく残っている。
●歩行自由。埼玉県毛呂山町川角ほか
十社神社
落武者でなく手柄を立てたので怨念なし?
苦林野合戦と関係が深いといわれる旧大類村の鎮守。『太平記』によると、足利基氏の影武者として参戦した岩松治部大輔に芳賀軍の岡本信濃守が斬りかかった際に岩松の家臣・金井新左衛門が差し違えて戦死。金井ら10名の戦死者が祀られ「十首明神」と呼ばれていたという。境内の古墳群に合戦の死者を弔ったとの伝承もある。
●境内自由。埼玉県毛呂山町大類29
柚子の郷製麺おたか本店
ユズの香りさわやか毛呂山のご当地うどん
毛呂山特産の「桂木ゆず」の香り高い皮を生地に練りこんだうどん。彩の国優良ブランド認定品で、製法特許を持つこの店でだけ味わえる。ツルっとした舌ざわりと、ほのかなユズの香りが心地よい。地元の旬の天ぷらもおいしい。
新しき村
公平な労働と、すべての人が幸福に生きられる理想の村
白樺派の文豪、武者小路実篤(1885 〜1976)が自他共生の理想を実現するため昭和14年(1939)に開村。現在村内会員8名が農業を中心に生活、村外会員も全国に200名ほどいる。のどかな村内は常時開放され、散策する地域住民も多く誰でもウェルカム。『生活文化館』(無料)では、近所に住みよく遊びにきていた小学生時代の大竹しのぶの写真が見られる。
桂木観音
奈良の葛城山に似た眺望抜群の古刹
養老3年(719)行基の創建と伝わる。奈良の葛城山に似た風景から「桂木」と名付けられ、古くから人気の参拝スポットだった。往時は七堂伽藍が並んで壮観だったという。行基作とされる千手観音立像と、町の資料館に保管され期間限定で公開される「桂木寺伝釈迦如来坐像」は県内最古の木造仏像彫刻という。
●参拝自由。埼玉県毛呂山町滝ノ入817
バウムクーヘン専門店cocoro(心呂)
ユズの香りも楽しめる卵形バウムクーヘン
卵形のエッグバウムが人気で、大手通販サイトでバウムクーヘン部門1位の実績をもち川越市にも支店がある。オーナーの実家でもある農林水産大臣賞を受賞した養鶏場の新鮮な赤玉卵など材料も厳選、丁寧に一層ずつ年輪を焼き上げる。しっかりした生地で甘さ控えめのあっさり風味。地元特産「桂木ゆず」を使った香り際立つバージョンもある。
かまきた直売
とれとれの新鮮野菜が並ぶあさイチに訪ねたい
周辺農家17軒が共同運営、直接持ち寄るほんとうの直売所。一年を通して多種多様な農作物に恵まれ品数も豊富。とくに野菜は朝採りが基本なので、その日にとれた新鮮なものばかり。ユズやウメを使った自家製ゆず味噌やジャムといった加工品も買える。
山根六角塔
変わり種板碑は県指定の文化財
鎌倉武士が好んだ板碑。その材料である緑泥片岩が採れた埼玉県は、いわゆる武蔵型ばかり2万基以上ある全国最多の板碑密集県だ。その埼玉でも、6角の台石に6面の板碑を並べて笠石を載せた六角塔はひときわユニーク。「嘉元(かげん)の板碑」も近くにある。ちなみに「山根」は旧村名。毛呂村との合併時、毛呂山の「山」に1字残された。
●拝観自由。埼玉県毛呂山町宿谷39-1
鎌北湖
紅葉真っ盛りに訪れる枯れ枯れの人工湖
昭和10年(1935)に完成した周囲約2㎞の農業用貯水池。22年ぶりに水を抜いて来春まで工事中のため、湖底見物の絶好の機会。湖は「奥武蔵自然歩道」の起終点。北向地蔵、物見山、日高市の日和田山、飯能市の天覧山を結ぶ全長約11kmの気軽なハイキングコースだ。自転車乗りに人気の奥武蔵グリーンラインもここからどうぞ。
●見学自由。埼玉県毛呂山町大谷木
獅子ケ滝
ほぼ誰もおらず貸し切りでマイナスイオン&森林浴
阿諏訪川の源流付近。大正11年(1922)10月に地元の青年団が「開拓」したと記念碑にあるが経緯は不明。「開拓」以前に滝の記録はないが、現地にかつてあった地名に「瀧下」「獅子」とあるため滝自体は存在したらしい。高さは約3m。一般的な滝の定義は落差5m以上なので微妙な立ち位置だが、細めながら何段にも小さく跳ねて流れ落ちるさまは小さな渓谷のよう。たいてい誰もおらず貸し切り状態で観賞できる。
●見学自由。埼玉県毛呂山町阿諏訪地内
取材・文・撮影=飯田則夫
『散歩の達人』2020年10月号より